◆加工用対策の遅れが野菜自給率を低下させた
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藤島廣二 東京農大教授 |
国は平成13年度から、低コスト化・契約取引の推進・高付加価値化という3つの戦略モデルによる「野菜の構造改革対策」に取り組み、「消費者・実需者に選好される品質・価格の国産野菜を供給できる」産地づくりを行なってきた。これについて「中間報告書」は一定の成果があったと評価している。藤島教授も、野菜の自給率は83%だが、生鮮野菜だけに限ってみれば「輸入生鮮野菜は7%弱で、自給率は93%と善戦している」「そういう意味で構造改革対策など従来の政策はかなり成功してきている」と評価する。
しかし、「従来の政策は生鮮野菜中心で、加工向けの対策がほとんどとられてこず、そのことが加工品の輸入増加につながり」、昭和40年には100%だった野菜の自給率が平成7年に85%に低下して以降、82〜83%で推移する大きな要因となっていると指摘する。
例えば、冷凍野菜の販売量は年々増加傾向にあるが、国産は平成元年が5万9000トン、14年が6万1000トンと大きな変化はないが、輸入は元年の19万6000トンから14年は48万1000トンとなり国内販売量の約90%を占めている。
「加工品の需要は実質的にはここ15年から20年の歴史しかないが、今後も増えることは間違いない。それに対応していこう」というのが、「中間報告書」の一番のポイントだという。
◆規格・品質を統一したリレー出荷で業務用に対応
加工用と並んで需要が伸びているのが、外食や中食などの業務用需要だ。最近の調査によれば、消費者の外食や中食への依存度を示す「食の外部化率」は43.6%(14年)と5割に迫っており、外食・中食の市場規模は近年30兆円台で推移してきている。
国内における野菜消費量を約1800万トン(加工品は生鮮換算)とすると、加工品が500万トン、生鮮品の業務用が500万トンで加工・業務用でほぼ半分を占める。加工品の場合は輸入が300万トン前後を占めるが、業務用の場合、輸入生鮮野菜がすべて業務用に回っても100万トン前後だから、「国内産もかなり業務用には対応している」といえる。しかし、価格面などから輸入野菜がさらに進出してくる可能性は高い。
業務用については、リレー出荷による通年出荷で輸入に対抗していくことも大事な施策だといえる。しかし「ただ単に1年間を通して、A産地からB産地そしてC産地へと期間を限定して協力し出荷していけばいいものではない。規格や品質をどう統一していくかが大事であり、その点が今後、非常に重要な政策になる」。
馬鈴薯を除いた指定野菜13品目における加工・業務用需要の割合はグラフのように54%を占め(12年)、その中での輸入物の割合が高くなってきている。「中間報告」はこの点について「実需者から、定質・定時・定量・定価での周年安定供給の確保、カット等一次加工による供給等加工・業務用ニーズに適合した供給等の要請が高い一方、国産野菜がこれに十分応えきれていないことが輸入野菜の増加を招来している」とし「これらを解消し、実需者ニーズに応えられる産地づくりを推進することが重要である」としている。
藤島教授も「意識的に業務用に対応している産地もあり、いままでのノウハウもそれなりにあるのだから、それらをうまく活用していけば、まだ十分に加工・業務用に対応する力は国内産地は持っている。そこのところをリレー出荷も含めて十分に強化していこうというのが、中間報告書のポイント」だという。
◆流通コスト低減と生産性アップで輸入品に十分に対抗できる
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写真提供:JAつまごい |
加工・業務用で輸入と対抗するためにはコスト(価格)が大きな問題となる。
「レストランや中食では、産地を明確にすることが売り文句にもなるので、国産を使いたいという意識は高い。しかし、あまり高いと(消費者に)売れないことも分かっている」。その範囲は、研究会のヒヤリングでは「2〜3割高まで」という。
さらに、輸入と国産の価格比較をする場合に、輸入品の「浜値」と国産品の卸売市場価格を比較して、国産の半値とか3分の1とかいわれるケースが多いが、輸入品は卸売市場までの輸送代や中間業者の手数料がその後に発生するので「通常は、国内産地の中でも価格が低い産地と比べるとせいぜい2〜3割程度の差にすぎないということがけっこうある」。だから、実際には「国内産地の生産性を若干上げたり、コストを若干下げることができれば対抗できる」。とくに産地からの輸送コストがかなりのウェイトを占めているので、それをどれだけ削減できるかが大きなポイントだと藤島教授は指摘する。
物流では「消費地の周辺部に、一次加工機能など高度かつ複合的な機能を付与する取り組み」という記述があるが、これは「産地ごとに施設を持つと稼働率などの問題が生じるので、複数の産地で選果・選別やカットなどの一次加工ができる施設をつくり利用する。と同時に、消費地の周辺にあることで、消費者ニーズがつかみやすくなり、それに即座に対応できる」からだと藤島教授。
さらに、加工・業務用では、キャベツの場合、家庭用なら1.5s前後だが、加工・業務用は2.5sくらいの方が歩留がいい。タマネギも小玉では手間ひまがかかるので大玉でないと使えない。しかも、きめ細かな選別は必要なく、キャベツやタマネギなどは機械収穫でも十分に対応できるので、一般生食に出荷するよりも生産コストが低減できる。そうしたことを考え合わせると「2〜3割のコスト低減は可能性があり、輸入品と十分対抗できるようになる」と藤島教授は考えている。
◆野菜生産にあった担い手の創出を含んだ産地計画を
今後の野菜政策を考えるときに、産地形成と担い手の問題も重要だ。野菜の生産高は2兆円台で推移し、最近は米を上回り畜産に次ぐ規模となっているが、高齢化が進み、野菜作付面積はこの10年間で約20%減少し、生産量は約15%減少しているからだ。
藤島教授は「野菜の生産者は水田とは異なり、専業的農家が83%を占め、効率的・安定的な農業経営が生産の相当部分を担う望ましい農業構造が一定程度確立されていること。規模拡大も重要だが、それだけでは簡単にやっていけない面もあるので、そういうことを踏まえたうえで、生産主体をどう創出していくのかを含んだ産地計画を産地として出せるところを中心に産地育成していくことになる。
そのときの担い手は、食料・農業・農村政策審議会での議論は重視しながら、認定農業者に限定せずに、野菜生産にあった担い手を考え、柔軟に対応していくことが必要だ」という。
ここでは割愛するが、価格安定制度の問題、消費拡大などについても「中間報告書」ではいくつかの指摘がなされている。国はこれを受けて具体的な政策を今後打ち出してくることになる。「卸売市場法も改正され、これからは市場もただ物を持ってきてくれれば売るということにはならなくなる」時代になるだろう。また、消費の動向から見ても家庭用生食需要が伸びることも考えにくい。そうしたことも視野に入れて、加工・業務用を含めた野菜産地をどう形成していくのかが問われることになる。
そうした意味でこの「中間報告書」の指摘は今後の野菜産地のあり方について重要な指標となるといえる。
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