農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

マーケットの変化に対応した
商品開発と販売力の強化
JAの販売戦略−農流研「JA販売戦略セミナー」から

 JAにおける経済事業改革が求められているが、そのなかでも組合員から要望が強いのは「販売力の強化」だといえる。そうした時代的な要請に応えて(社)農協流通研究所(三村浩昭理事長 以下農流研)がJA全中・JA全農の協賛をえて、11月17日に東京・五反田のゆうぽうとで「JA販売戦略セミナー」を開催した。
 セミナーでは、元NHK解説委員で農政ジャーナリストの加倉井弘氏が「動き出した日本農業とJAの新しい戦略」、慶応大学教授の金子勝氏が「ニッポンの政治と経済を斬る! 21世紀の政治と経済のあり方と地域経済・農業に期待されるもの」と題して、広い視野から現在の農業と農協を取り巻く状況について講演した。
 さらに「転換迫られるJA販売事業」をテーマに報告と意見交換会が行なわれた。ここでは、JA富里市の仲野隆三常務・JA利根沼田の住谷完二営農部長が実践報告、全農首都圏青果センターの岩城晴哉場長、東急ストアの浦野広志青果部販売指導課長がJAの販売戦略・販売事業についてそれぞれの立場から報告し、加倉井氏をコーディネーターに会場の約100名の人たちとの意見交換が行なわれた。そこで、この報告と意見交換を中心に、これからのJAにおける販売戦略について考えてみることにした。

◆減少するJAの販売・取扱高

 日本の農業総産出額は年々減少している。品目別に見ても米以外の主要品目でも減少に転じており、平成14年度には8兆9000億円とピーク時(昭和59年度)の76%の水準になっている。また、農家総所得も、景気の停滞や農産物価格の低迷などを反映して毎年減収しているのが実態だといえる。
 さらに、JA事業の中核である農畜産物の販売・取扱高をみると、平成9年度の5兆7076億円から14年度には4兆7351億円へとわずか5年で17%も減少している。また、農業総産出額に占めるJAの販売・取扱高の割合も、9年度の57%から14年度には53%に後退しており、「15年度農業白書」では農家の農協離れが指摘された。そうしたなかにあって、JA販売事業に対する組合員の要望として「販売力の強化」が強く求められており、経営規模の大きい農家ほどその傾向が強いという調査結果もある(農水省「農業生産資材等に関する意向調査」15年9月調査)。

◆制度依存体制から自己責任と攻めの販売へ

 農流研が行なった調査「JA経済事業における教育・調査等に関するアンケート」(13年3月)でも、「販売事業は順調に(ほぼ計画に沿い)推移」と回答したJAは全体の2割(回答JA437)にとどまった。そして、今後の重点取組課題としては「地域ブランド・特産品の育成・強化」が64%、「環境保全・循環型農業生産への取り組み」が44%と上位を占め、販売面では37%のJAが「量販店等への販路拡大」が重要と回答している。「量販店等への販路拡大」と回答したJAは販売実績が70億円以上JAや「販売事業が順調に推移している」JAで回答率が高いことが注目される。
 また、現在計画中の検討課題としては「農産物の市場外流通・直販ルートの開拓」(全体で38%、販売実績70億円以上で52%)、「地域ブランド・独自商品の開発」(31%)が上位を占めており、「卸売市場の委託販売など制度依存型体質を脱却して、自己責任と攻めの販売戦略に向けた事業展開の必要性への認識が高まってきている実態がうかがえる」と農流研では分析している。
 それでは、量販店側はどのような販売強化対策を考えているのか。農流研の「市場外流通調査」によると「売れ筋情報の収集」(76%)に次いで、「産直型取引の拡大」(68%)や「産地との連携強化」(38%)があげられている。仕入方法としては、産直取引の拡大と合わせて「卸売市場の機能を活用した契約的仕入も増加していく」としており、卸売市場の規制緩和によって「契約的取引」は今後拡大の方向にあるといえる。
 また、この調査によれば、量販店からみた産地対応の課題として「情報伝達が不十分」(58%)、「商品提案力が不十分」(53%)、「品質向上への取り組みが不十分」(49%)が上位を占め、「産地側のマーケティング対応の立ち遅れが浮きぼりにされている」といえる。

◆多様な販売チャンネルの活用で個々の農家の要望に応える

 ただし、きちんとした販売戦略をもって販売しているJAが数多くあるのも事実だ。そうしたJAに共通していえることは、市場に無条件で委託するのではなく、市場のニーズを的確につかんでそれに対応した商品開発を行なったり、実需者など川下ニーズの一歩先をいく、産地からの提案活動を行うことで、販売力を強化していることだろう。
 例えば、JA富里市ではおでんなどの原料加工にあたって、使う大根は白首なのか青首なのかを確認するだけではなく、もっと高級な大根もあるという産地側の情報を提供することで、実需者の新たな商品開発を可能にしている。そのことで、農家の生産を安定させることができるし、価格交渉においても農家手取りを優先させた交渉が可能になっている。
 また、JA利根沼田でも、独自の栽培方法や生産履歴記帳を徹底することで、産地ブランド化をはかり、それを背景にして産地としての提案をすることで契約的な販売をし、農家の生産を安定させ、農家手取り優先の販売を行なっている。
 JA富里市では、市場流通だけではなく、生協、産直、ファーマーズマーケット、インショップ、原料加工など、多様な販売チャンネルをもっており、そのチャンネルごとに生産者を組織しているが、JAがそれら全体をコントロールすることで、各チャンネル間でも商品をやりとりするいわゆる「横もち」によって、個々の農家では対応できないリスク分散をはかる機能を発揮している。
 多様な販売チャンネルをもつことで、従来の大規模農家や法人も小規模農家も一緒にした共販では対応できなかった個々の農家や法人の要望に応える販売戦略が可能になっているといえる。

◆契約的販売で消費側情報をいち早く生産者に伝える

 JA利根沼田の「G(GUNMAとGOODの頭文字)ルート市場予約販売」(Gルート販売)は、出荷前に全農群馬県本部と販売先、JAが価格を決め、それに基づいて生産者が作付けを計画するもので、平成7年にスタートしている。当初はこうした価格の安定対策が「価格が乱高下するのが青物相場」と考える農業経営者には「バッド」と評価され不評だった。しかし、「農業も経営」と考える若い人たちに理解され定着してきたという。
 Gルート販売における「グッド」の2つ目は、販売先や量販店の要望がいままでよりも早く生産者に伝わるようになったことだ。そのおかげで「安全・安心な農産物」への意識も他産地よりも早く農家に浸透した。
 群馬では、群馬県が指定した県内の優秀な園芸産地・品目を「Gブランド」としている。品質や規格・選別が県内基準を上回り、モデル産地として高い評価を受けている。現在、ブランド産地として、30産地・22品目、ミニブランド産地として14産地・11品目が指定されている。JA利根沼田では6品目が指定されているが、なかでもJA独自ブランドのトマト「夏美人」は商標登録もされ、約200人の農家が栽培方法を統一し生産している。

◆1回の買い物はわずか13分 分かりやすい表示で選択

 東急ストアの浦野課長によると、消費者が1回の買い物に使う時間はわずか13分だという。この短い時間のなかで消費者に選択されるためには、さまざまな認証マークよりも、生産者の顔や名前が分かるビジュアルなPOPの方が効果的だという。最近はトレーサビリティについての関心も高く、全農安心システム認証商品を並べると、例えばそれがミカンならミカン全体の売上げが底上げされるという。その一方で、消費者に聞くと「安全・安心は生産・流通・販売段階でシッカリやって下さい。それよりも、安心・安全なものをどうやって美味しく食べるかを教えて欲しい」という。つまり、安全・安心は当たり前のこととして、それをどう美味しく食べるかなどの付加情報を提供する方が消費者ニーズに応えることになる。
 また、カットサラダは単身者だけではなく、家庭用としても使われ、毎年2%づつ売上げが伸びている。今後はすぐに食べられる加工・惣菜が確実に伸びていく。そうした、マーケットの変化に対応した商品開発力が、これからは産地にも求められていくことは間違いない。
 このシンポジウムを聞いて感じたことは、誰にその商品を提供するのかターゲットを明確にし、どこの販路で売っていくのかという流れを、きちんと戦略としてつくり、それに対応できる生産者集団を組織することの重要性だ。そのことで、最終的には消費者に喜ばれる商品を開発できる産地が生き残り、農家の収入も安定できるということだ。
 加倉井氏はこのことを「売れる米をつくる産地は減反しなくてもよいが、売れない産地は米を作れなくなる」と端的に表現した。

(2004.12.3)

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