農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

生産者、消費者から信頼されるJAに
―JA大会決議の実践に全力を―

―実践しよう 第23回大会決議―
今村奈良臣 東京大学名誉教授
 JAグループは今年、3年に一度の全国大会を開催し、経済事業改革を柱とする大会決議を採択した。大会決議は、JAグループが安全・安心な食料を安定的に供給する役割を担っているという認識のもと、自らの改革として消費者から求められる米づくりや、水田農業が将来にわたって発展できる改革に取り組むことをうたった。来年はこれらの課題の実践こそが問われる年になるが、その改革をリードするためにJAの役職員はどのような認識を持たなければならないのか。現場での改革実践にもっとも求められることを中心に、「農協のあり方についての研究会」座長でもある今村奈良臣東大名誉教授に提言してもらった。
いまむら・ならおみ 
昭和9年大分県生まれ。前日本女子大学教授、東京大学名誉数授。元日本農業経済学会会長。東京大学大学院博士課程修了。著書に「人を活かす地域を興す」「農業の活路を世界に見る」「補助金と農業・農村」(第20回エコノミスト賞受賞)「揺れうごく家族農業」「国際化時代の日本農業」「今村奈良臣著作選集」(上)(下)など。
 「JAグループは、安全・安心な食料を安定的に供給する責務を果たしており、水田農業の構造改革、地域の特色ある農業の展開、消費者から求められる米づくり、計画生産の徹底、水田農業や地域の活性化等、地域の水田農業が将来にわたって発展できる改革に取り組まなければならない」
 これは改めて言うまでもないことであるが、今年の10月10日開催の第23回JA全国大会において満場一致で採択された特別決議の主文の核心部分である。この主文に続いて具体的に次の4点が決議文に記されている。
(1) 地域水田農業ビジョンのもとで水田営農実践組合が核となって(中略)水田農業の構造改革を着実に実践する。
(2) 「販売可能な量だけ作る」という販売を起点とした事業方式の確立(中略)、JAグループ米事業改革を徹底して推進する。
(3) 水田農業の担い手が将来を展望できる(中略)万全な施策を盛り込んだ食料・農業・農村基本計画を確立する。
(4) JAグループは、15年産米の集荷を強化し(中略)新米が安定して消費者に届くよう組織の全力をあげて取り組む。
 この特別決議の要点をさらに要約するならば、第1に安全、安心な消費者の求める米づくりに全力をあげること、第2に米の計画生産の徹底と合せて水田農業構造改革に全力をあげて取り組むこと、第3に水田農業改革を起点にそれと合せて地域農業全体の改革とJA改革を推進することがうたわれている。
 そのためには、水田農業ビジョンの策定に主体性をもって取り組むとともに、水田営農実践組合が核となって、地域の農業構造改革を推進することなどが、特別決議で高らかにうたいあげられたのである。

◆計画責任・実行責任・結果責任―第24回大会が正念場―

 「JAグループは決議すれども実践せず」という批判をこれまで組織の内外から浴びせられてきた。この汚名を第23回大会の決議の着実な実践というかたちで、組合員はもとより広く国民に対して返上しなければならない。冒頭に掲げた特別決議を満場一致で採択したということは、他人事ではなく、大会参加者の1人1人が、そしてJAの役員全員が計画責任を背負ったということである。
 計画責任を自らが背負ったということは、その計画を実行しなければならない責務を課せられたということである。つまり、実行責任を大会参加者1人1人が背負ったことになる。大会参加者は全国各地域やJAの代表者であったが、その代表者1人1人が自らのJAに帰り、特別決議の意義と内容について、JA役員はもとより総代や組合員等に説明し、その具体的実践や取り組みについて推進しなければならない責務を背負ったということである。
  こうした実践の結果が3年後の第24回大会で検証されることになる。つまり、結果責任が問われるということである。売れる米づくりや水田農業改革がどのように進み、地域農業がいかに活力を回復し、組合員がJAを中心にいかに結集しているかということが問われることになるのである。
 それだけではない。私は第24回大会はJAの存亡をかけた大会になると考えている。組合員から選択され、国民や消費者はもちろん地域の多様な住民からも信任されるJAとなるかどうか。それとも存在感のないJAとなってしまうか。その試金石が第24回大会で如実に示されることになると考えている。
 そういう問題意識に立って結果責任についての見通しを持ちつつ実行責任を果たすべく努力していただきたい。

◆水田農業ビジョン取り組みの現状

 そこで地域水田農業ビジョンへの取り組みの現状を見ておきたい。今年11月中旬の全国2892市町村を対象とした調査でJAについての調査はないが、おおよその動向は判る。これによると全市町村の87%は何らかの取り組みが行われているとの回答が、寄せられているものの375市町村(13%)は全く取り組んでいない。取り組みを行った市町村の中でも、ビジョンのたたき台または素案を作成しているのは全体の2割にも達していない。合併したJAは3〜5市町村にまたがる場合が多いが、JAから積極的に市町村に働きかけ、協議会を設置し、イニシアティブを取って、その策定に全力をあげる必要があろう。
 平成16年産米の生産目標数量はすでに確定され、いま都道府県から市町村への配分が具体化されつつある。この配分が行われた段階でビジョン策定へのドライブがかかるものと考えられるが、年明け早々に全力をあげて取り組んでもらいたい。

◆ビジョン策定の基本視点・10項目

 地域水田農業ビジョンの策定に取り組むにあたって、いかなる視点から、どのような項目について具体的に取り組むかということが重要である。
 その基本視点として、私はかつて本紙で詳しく述べたことがある(『農業協同組合新聞』、2003年8月20日号「米改革はJA改革のチャンス」、2003年9月16日号「21世紀にふさわしい地域農業とJA像をつくろう」、ホームページ 「シリーズ 農協のあり方を探る」を参照してほしい)。
 その検討し、策定すべき10項目とは次の通りである。(1)誰が、(2)どの(誰の)土地で、(3)何を、(4)どれだけ、(5)どういう品質のものを、(6)どういう技術体系で、(7)いつ作り、(8)どのような方法で誰が誰に売るか、(9)そのために産地づくり交付金等をいかに活かすか、(10)JAの指導体制、組織体制、とりわけ営農企画、販売体制をいかに改革するか。
 地域水田農業ビジョンの策定にあたっては、この10項目すべてに十分な検討を加え、地域の生産者、組合員の合意をえながら、実践可能かつ展望性に富むビジョンの策定をおこなうことが不可欠であると考えている。
 この10項目の中でとりわけ重要な点をいくつか指摘しておこう。(1)誰が、については、これまでの「イエ」(農家)中心のとらえ方を変えて、「ヒト」(青年、中堅、高齢技能者、女性、新規参入者等)を中心にとらえ直し、水田営農実践組合にいかに組織していくかということが重要である。(2)どの(誰の)土地で、という点については、関係地域のすべての農地について地図情報として作成し、耕地図を前にその効率的な活用の方向を具体的に話し合いで決定していくべきである。(3)何を作り、については、米がもちろん基本であるが米だけでなく、地域ブランドを確立できるように、かつ消費者及び実需者の求めている農産物やその加工品を地域の戦略作物として策定していくべきであろう。(9)産地づくり交付金をいかに活かすか、という点についての基本は、これまでとられてきた平等原則を公平原則に切り換えるべきである。真に汗を流した人々に報い、地域農業の活力の源泉にしなければならない。以上の10項目の策定と実践について述べるべきことが多いが省略せざるをえない。ビジョンの策定にあたっては、次のような資料をぜひ参考にして取り組んでもらいたい。
 (1)「地域水田農業ビジョンづくり」(『21世紀の日本を考える』第23号、農文協)
 (2)『地域水田農業ビジョンづくりと実践にむけたJAの取り組み』(全国農協中央会『JAグループ米改革戦略参考資料』2003年11月)

◆経済事業改革指針の策定と実践

 第23回JA全国大会の決議にもとづき、JAグループとして実践すべき経済事業改革指針が全中の理事会で決定され公表された。その要点は次のようなものである。まず、基本方向として、(1)農業者に最大のメリット提供、(2)安全・安心な農産物の提供、(3)経済事業の収支確立、さらに目標として、事業目標と財務目標が掲げられている。事業目標としては、(1)安全・安心を核にJAブランドの確立、(2)JA米の拡大、(3)直接販売の拡大、(4)生産資材の価格引下げ、(5)拠点型事業(Aコープ、SSなど)の競争力強化、また財務目標としては、(1)農業関連事業は事業利益ベースで黒字化、(2)生活その他事業は純損益ベースで黒字化、(3)経済事業子会社は赤字解消、(4)遊休施設の解消、という広範な課題が提示された。指針で求められているのは、大きく言って2つの課題である。1つは組合員のふところをより暖めさせJAブランドへの消費者、実需者の支持を拡大させるための「事業革新」、いま1つは赤字体質を抜本的に改善し、JAの経営の健全性を実現するための「スリム化」にあると言ってよいだろう。この2つの課題を実現するのは容易でないことは充分承知しているが、「絵に描いた餅」で終わらせてはならない。第24回大会までの3年間で実現しなければJAの存在そのものが危うくなる。いまこそ、JAの組合長をはじめとする役員、そして職員の経営者能力が問われている時代である。全力をあげて取り組んでもらいたい。

◆JA改革へ 内発的発展力を

 全国のJAは約900(正確には12月1日で929JA)ある。私はすぐれたJAは200、全力をあげなければ脱落する可能性のあるJAが200、その中間が500とふんでいる。JAはそれぞれ独立した法人である以上、自らのJAを改革するのが原則である。そのためには全力をあげて、自ら勉強し、力量を蓄え、改革に取り組まなければならない。こういう状況の中で、私が代表となり3年前にJA―IT研究会を発足させた。自腹を切り手弁当でどこからも補助金をもらわずに研究をしている、いわば農協活性化塾とでも呼ぶべき研究会である。すでに公開研究会は8回を数えてきたが、その中で先発JAの改革の経験に学び地域農業活性化の新路線や販売戦略の情報の共有化など多くの成果をあげている(とりあえず、JA―IT研究会の活動と成果については「すすむJAの自己革新」、『農村文化運動』(No169、農文協、400円)を読んでいただきたい)。自らの力でJA改革、地域農業改革に取り組むためには、自ら全力をあげて勉強し、力を蓄えなければ達成できない。ぜひともこういう自主的な研究会に参加し、内発的発展力に磨きをかけ、JA改革に取り組んでもらいたい。
 最後に再度強調しておくが、3年後の第24回JA全国大会が正念場である。 
(2003.12.22)


社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。