農林中金の平成11年度決算は、経常利益が前年度より2%増えて959億円と2年ぶりに増益に転じた。不良債権の処理は予防的な引き当ての積み増しを含めて1380億円の償却と引き当てを行った。また自己資本比率は単体ベースで11.70%となり、前年度を0.08%ポイント上回った。連結ベースでは11.39%となる。6月27日の通常総代会は決算などを承認のあと役員人事では新しい理事長に上野博史氏(前農林漁業信用基金理事長、元農水事務次官)を選任した。角道謙一理事長は同日付で特別顧問に就任した。
11年度決算は超低金利などから、収入に当たる経常収益が1兆4526億円と前年度より9%弱減った。しかし有価証券の売却益などで経常利益は959億円と19億円増えた。また当年度利益は624億円と約8%増えた。
一方、金融機関の本業の実績を示す業務純益は670億円で約80%減った。国債などのキャピタル益の減少と、一般貸倒引当金への繰り入れ増が響いた。
だが橋本勝好専務は「修正業務純益ベースでみると本業の利益は1804億円で、減少幅は479億円と小幅にとどまる」と説明した。前年度の修正業務純益は2284億円だった(この数字は一般貸引等繰入前の業務純益から国債などの債券損益を除いた金額)。業務純益は経常利益と比較して、株式のキャピタル損益と不良債権処理額を除いたのが特徴。修正業務純益は、業務純益からさらに国債などの債券キャピタル損益と、また一般貸倒引当金繰り入れを含む広義の不良債権処理額を除いた指標だ。都銀などでも、これを「実質業務純益」などと呼んで重視している。
財務体質を一層、健全化するための予防的な積み増しでは貸倒引当金を793億円増の4996億円とした。連結ベースでは496億円増の8583億円。
不良債権処理は貸倒引当金純繰り入れが1165億円、貸出金償却が206億円など1380億円。
主要勘定をみると、調達面では、信連などからの預金が5兆1881億円増えて年度末の残高は33兆3799億円。しかし短期金融市場運用を信連から委託された受託金は5289億円減って2兆9486億円となった。短期市場でかせげるような情勢ではなかったという。
農林債券は2496億円減少し、年度末の発行残高は6兆9779億円。
運用面では、貸出金が3兆4711億円増えて21兆3831億円となった。うちリスクのない預金保険機構への貸出が増えた。
有価証券は1兆8103億円増えて14兆8708億円となった。
こうして短期市場での調達と運用が減ったことなどから総資産は前年度末に比べ小幅増加の49兆7555億円となった。
利益処分では配当率を前年度と同率とした。
一方、リスク管理債権は1兆2026億円で前年度より33.4%増えた。大口融資先である商社などの業績悪化にともなう貸出条件緩和債権の増加が響いた。橋本専務は「金融監督庁の『金融検査マニュアル』を踏まえた厳格な自己査定による償却・引当てを実施しており、不良債権への備えは十分なものと認識している」と語った。
リスク管理債権の内訳は破たん先債権が911億円で28.4%減ったが、延滞債権は4564億円で28.1%増えた。3ヵ月以上延滞債権はほぼ半減して20億円。しかし貸出条件緩和債権は6529億円で57.9%と大幅に増えた。
このためリスク管理債権に対する引当て率は7.7%低下し、44.1%となった。しかし貸出条件緩和債権は、経営再建中の債権などであり、一定の条件が整えば正常債権に戻るリスクの少ない債権とされる。
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農林中金の新理事長に 上野博史・元農水次官 ☆
農林中金は6月27日の通常総代会で角道謙一理事長の退任にともなう新理事長に元農水事務次官の上野博史氏を選んだ。角道氏は常勤の特別顧問に就任し、新理事長を補佐する。任期は1年。
また新専務に遊佐皓常務が昇任した。新常務には増田陸奥夫総務部長と堤芳夫総合企画部長を選任した。増田新常務は組合金融第一本部長、堤新常務は大阪支店長の兼任。
新任理事は吉原弘行北海道信連会長と福井正志福岡県同。長岡満夫常務は退任した。森戸慎也常務は大阪支店長兼任を解かれた。
▽上野博史氏(うえのひろふみ)1938年5月鹿児島県生まれ。東京大学法学部卒。62年農林省入省。官房長、食糧庁長官、事務次官を経て97年退官後は農林漁業信用基金理事長。62歳。
▽遊佐皓氏(ゆさあきら)1939年6月宮城県生まれ。東北大大学院法学研究科修士課程修了。97年から農林中金常務。61歳。
▽増田陸奥夫氏(ますだむつお)1944年8月岩手県生まれ。早稲田大学法学部卒。99年から農林中金総務部長。55歳。
▽堤芳夫氏(つつみよしお)1947年9月新潟県生まれ。東北大学法学部卒。98年から農林中金総合企画部長。52歳。
系統マンの一員として ・・・上野農林中金新理事長の話
農林中金の上野博史新理事長は6月27日、就任直後の記者会見で「これまでも農林漁業信用基金の理事長として、系統の仕事の一端を担ってきたが、これからはいわば系統マンとして、本番の仕事を始めていくという気持ちで努力したい」と次のように語った。
金融改革は今後さらに速度を上げながら進んでいくと思う。系統信用事業がこれにどう対応していくか。農林水産業なり、農山漁村の実態も大きく変化しているので、これらを踏まえて、系統信用事業のあり方をよく考え、誠心誠意取り組んでいきたい。状況は非常に厳しいと思う。
また記者の質問に答え、組織整備について「まだ個人的見解にとどまるが、JA合併は当初、大変な計画だと思ったが、それが現在では8割程度まで、かなり進んでいる。そこには系統のみなさんの大変な努力があったと理解している。目標通りに進まないところもあるが、さらに一段の努力が続けられると思う。またJA全国大会に向けて、次の段階の取り組みが検討されている」と語った。
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協同組合の強み生かした対応を ・・・ 角道農林中金前理事長の話
6月27日に退任した農林中金の角道謙一理事長は同日の記者会見で「任期の10年間を振り返ると、住専問題や金融危機をはじめ、それ以前には予想もつかないような問題が次々に起こった。その中で系統信用事業の強さをしみじみ感じている。そのおかげで私としても理事長の重責を果たすことができた」と退任の感想や残された課題などを次のように語った。
私のやったことはバブルの清算だったともいえる。今後は協同組合の持つ強みを生かして21世紀へどう立ち向かっていくかが課題となる。基盤はつくってきたつもりだ。その上に系統信用事業を構築していくことが課題になると思う。
都銀などの金融機関には60兆円もの公的資金が注入されたが、系統はそうした救済は一切受けずに協同組合の力でやってきた。
協同組合の組織と経営の基盤には地縁がある。地域に根づいた協同組合の機能がある。そこが一般企業と異なる。その強みを発揮して地域振興の先頭に立つのが協同組合だ。
私としては今後、特別顧問として知恵袋の役割を果たせたらよいと思う。
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