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急がれる酪農家の救済 信頼回復と消費拡大策必要−雪印食中毒事件 


◆酪農家は怒りあらわに

 北海道札幌市の酪農学園大学は雪印乳業と兄弟関係にある。ともに黒沢酉蔵が創立したからだ。「田中正造とともに栃木県・足尾銅山鉱毒の被害者救済に献身した義人」と教授の一人は説明する。「黒沢は牛乳を最高の健康食品とし、雪印創業と同じ理念のもとに酪農教育にも情熱を注いだのですが、今回の事件はまことに残念」と嘆く。学生たちのショックも大きい。

 北海道は雪印発祥の地だが、酪農家の怒りはあらわだ。「私たちは毎日、乳を搾って冷蔵タンクに入れ、出荷後はホースやバルブなども毎回きれいに洗う。ところが雪印は3週間も洗わなかったという。とんでもない話だ」(別海町)。
 乳業メーカーは酪農に厳しい衛生管理を求める。農協は生乳集荷の際に異物や細菌数、そして病牛の目安になる体細胞数を調べ、基準外に対しては乳代値引きのペナルティーもある。

◆違反は酪農への背信行為

 「うちは約70頭と小規模なので手作業ですが、品質管理には毎日ピリピリ。暑くなると体調を崩す牛も出ますが、メーカーは『悪い牛は早く淘汰しなさい』と容赦なし。その最大手がでたらめをしていたとは想像もできなかった」と語るのは福島県川俣町の農業法人「みちのくグリーン牧場」(高橋勝信代表)。

 メーカーは製造工程で食品衛生法を守る義務があるが、原料の取り引き段階では義務付けがない。しかし農協と酪農家は自主的な品質マニュアルを厳格に守っている。雪印の違反は酪農への背信行為といえる。
 酪農の団体は「食中毒は加工乳によるもの。牛乳は無関係」と強調するが、消費者は加工乳も牛乳も同じ牛乳だと思う。しかし加工乳は脱脂粉乳を水で溶いて作れる。勢い輸入原料も多い。これに対し本物牛乳の原料は生乳100%だ。

◆もうけ主義が事件の原動力  −今後は補償金額が問題に

 ここ10年、カルシウム強化や低脂肪など加工乳の需要が伸びた。メーカーの収益性も高い。競争激化の中で雪印は加工乳に限らず製品全体を多角化しつつリストラを徹底。一昨年から古い6工場を閉鎖する一方、京都府八木町に生産能力の高い新鋭工場をつくった。 大阪工場では仮設ホースの取りつけなどカネのかからない効率化を進めた。

 そこには無理がある。経営は創業の理念からかけ離れていった。大阪工場の従業員の妻は「主人は毎日夜10時か11時に帰り、疲れがとれないまま翌朝早く出勤する状況です。会社は業績のみにとらわれ、労働基準法を無視しています」(毎日新聞の投書)と、ずさんな衛生管理の原因を内部告発している。やはり、もうけ主義が事件の原動力だ。もう一つ背景にある大問題として、メーカーから牛乳を買いたたいて安売りをするスーパーの強大なバイイングパワー(購買力)がある。量販店も再発防止のため、この際、安売り政策を真剣に見直す必要があると指摘されている。

 農水省は酪農経営に対する被害を防ぐ措置をとり、全国の牛乳指定生産者団体は雪印の各工場に搬入していた生乳を他社の工場に振り向ける配乳変更の作業に振り回されている。
 九州生乳販売農協連の安田一臣参事は「毎日やりくり算段ですが、仕向け先が遠くなった際の運賃負担や飲用乳から加工乳に振り代えられた場合の乳代低下など酪農家のマイナス分にはぜひ支援をしてもらわないと困ります」と訴える。
 酪農家も「乳代は安い。その手取りが、さらに減っては死活問題です。補償は絶対に必要」(みちのくグリーン牧場)と痛切だ。今後は雪印の出す補償金額が問題となるだろう。

◆風評被害防止へ情報公開重要に

 また安田参事は「消費者には牛乳が体によいという価値観があるが、それが損なわれた。業界と国は乳業工場の総点検を急ぎ、問題点を整理し、一日も早く安全宣言をして信頼を回復してほしい」と求めた。
 コープ東京は「プライベートブランド(PB)商品を製造している乳業各社(雪印との提携はない)に一層の情報公開を求めていく」方針だ。すでに牛乳全体に対する不安感をあおるような報道もあるため、風評被害を防ぐには情報公開が重要な当面の課題となる。


 九州大学の甲斐諭教授(農業経済学)に当面の課題のポイントを次の三つにまとめてもらった。
@酪農家救済が必要。今回の事件で廃業が出ないよう緊急避難的にも手取りを保障すること
A業界をこぞっての信頼回復対策と消費拡大対策が必要
B牛乳への不信感を抱かせないようマスコミなどの報道に節度を求めること。

雪印乳業の経歴と業績

 創業は1925年。理想家の黒沢酉蔵を中心に北海道の酪農民が設立した「北海道製酪販売組合」が前身。従業員は数人だった。組合はその後、北海道の生乳供給を一手に引き受け、戦後は本州に進出し、乳業の最大手にのし上がった。
 メインバンクで筆頭株主の農林中金は創立以来「70年のお付き合い」である。

 雪印の業績は売り上げの5割を占める牛乳に加え、乳製品が伸びて3月期の単独売上高は5439億円。経常利益は122億円。経常ベースで3期連続の増益で、今期の業績予想も事件前までは増収増益だった。
 内部留保も厚く、今3月末の借入金は42億円と少ない。「企業規模からみると無借金経営に近い」(農中)。財務体質は強固だ。

 石川哲郎社長(66)は2期4年目。財務部長など管理畑が長い。3月に業界3団体が一つになって発足した日本乳業協会の初代会長で、業界の顔でもある。  株主総会前日の6月27日、今年最高値と並ぶ619円だった株価は7月6日、396円にまで落ち込み、今年の最安値を更新したが、その後、持ち直している。

 

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