急がれる酪農家の救済 信頼回復と消費拡大策必要−雪印食中毒事件 | ||||
北海道札幌市の酪農学園大学は雪印乳業と兄弟関係にある。ともに黒沢酉蔵が創立したからだ。「田中正造とともに栃木県・足尾銅山鉱毒の被害者救済に献身した義人」と教授の一人は説明する。「黒沢は牛乳を最高の健康食品とし、雪印創業と同じ理念のもとに酪農教育にも情熱を注いだのですが、今回の事件はまことに残念」と嘆く。学生たちのショックも大きい。 ◆違反は酪農への背信行為 「うちは約70頭と小規模なので手作業ですが、品質管理には毎日ピリピリ。暑くなると体調を崩す牛も出ますが、メーカーは『悪い牛は早く淘汰しなさい』と容赦なし。その最大手がでたらめをしていたとは想像もできなかった」と語るのは福島県川俣町の農業法人「みちのくグリーン牧場」(高橋勝信代表)。 メーカーは製造工程で食品衛生法を守る義務があるが、原料の取り引き段階では義務付けがない。しかし農協と酪農家は自主的な品質マニュアルを厳格に守っている。雪印の違反は酪農への背信行為といえる。 ◆もうけ主義が事件の原動力 −今後は補償金額が問題に ここ10年、カルシウム強化や低脂肪など加工乳の需要が伸びた。メーカーの収益性も高い。競争激化の中で雪印は加工乳に限らず製品全体を多角化しつつリストラを徹底。一昨年から古い6工場を閉鎖する一方、京都府八木町に生産能力の高い新鋭工場をつくった。 大阪工場では仮設ホースの取りつけなどカネのかからない効率化を進めた。 そこには無理がある。経営は創業の理念からかけ離れていった。大阪工場の従業員の妻は「主人は毎日夜10時か11時に帰り、疲れがとれないまま翌朝早く出勤する状況です。会社は業績のみにとらわれ、労働基準法を無視しています」(毎日新聞の投書)と、ずさんな衛生管理の原因を内部告発している。やはり、もうけ主義が事件の原動力だ。もう一つ背景にある大問題として、メーカーから牛乳を買いたたいて安売りをするスーパーの強大なバイイングパワー(購買力)がある。量販店も再発防止のため、この際、安売り政策を真剣に見直す必要があると指摘されている。 農水省は酪農経営に対する被害を防ぐ措置をとり、全国の牛乳指定生産者団体は雪印の各工場に搬入していた生乳を他社の工場に振り向ける配乳変更の作業に振り回されている。 ◆風評被害防止へ情報公開重要に また安田参事は「消費者には牛乳が体によいという価値観があるが、それが損なわれた。業界と国は乳業工場の総点検を急ぎ、問題点を整理し、一日も早く安全宣言をして信頼を回復してほしい」と求めた。 九州大学の甲斐諭教授(農業経済学)に当面の課題のポイントを次の三つにまとめてもらった。
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=雪印乳業の経歴と業績= 創業は1925年。理想家の黒沢酉蔵を中心に北海道の酪農民が設立した「北海道製酪販売組合」が前身。従業員は数人だった。組合はその後、北海道の生乳供給を一手に引き受け、戦後は本州に進出し、乳業の最大手にのし上がった。 |