家の光協会 ワールドウォッチ研究所と独占契約
聞き手:明治大学教授 北出俊昭氏 |
『家の光』創刊75周年を迎えた(社)家の光協会は、今年度から地球環境問題の研究者として著名なレスター・ブラウン氏が所長を務めるワールドウォッチ研究所と独占契約を結び、同研究所の出版物『地球白書』、『地球環境データブック』などを順次発行していく。これまでの食と農というテーマに環境問題も柱に加えて、JAグループ内外への情報発信機能を一層強めることにしている。今後の出版事業の方向や課題などについて同協会の柳楽節雄常務に聞いた。聞き手は、北出俊昭明治大学教授。
◆日本の農業に自信と気概をもって 北出 家の光協会は、これから環境問題にも力を入れて出版活動をしていくとのことですが、最初にその狙いをお話いただけますか。 柳楽 これまで家の光協会の出版物は、園芸、料理、健康などの実用書のほか、農業や協同組合に関する図書が中心でしたが、1980年代から環境に関する関心も高まるなか環境問題についての図書も出版してきました。 とくに環境問題が重視されてくるなかで、農業と環境は切っても切れない関係にあることが指摘されるようになりました。また、「食料・農業・農村基本法」でも農業の多面的機能の重要性が位置づけられたわけです。 北出 環境問題を重視する背景がよく分かりましたが、そのなかでもワールドウォッチ研究所の日本語版出版物を独占契約することになった経過を聞かせてください。 柳楽 環境と農業の問題については、外国の研究者のなかにもその重要性を説く人が多く、レスター・ブラウン氏のようにアメリカのなかに農業の多面的機能の大切さを訴える人がいるわけですね。グローバルスタンダード、貿易の自由化を叫んでいる国のなかにも世界各国で農業を大切にすべきだという警告を発している。それを日本に広く伝えていきたいという考えからまずこのシリーズを企画することになりました。 北出 そうなると従来の読者層からずいぶんと拡大することも期待されますね。 柳楽 そうですね。書店で購入してくれる人にとっては、JAグループは農業や環境問題について積極的に提起しているという対外広報的な意味合いも含め、読者層の拡大につなげていけるのではないかと思っています。 それから、最初にも触れましたが、JAグループでもレスター・ブラウン氏の本を読んでもらって、自分たちの考えていることは彼も言っているじゃないか、と強い自信を持ってもらいたいということもあります。 輸出国の内部では、自国の貴重な水を使った生産物を売り続ければ国内でも問題になり、また国際紛争の火種にもなるとレスター・ブラウン氏は言っています。今後は、中国やインドの干ばつも非常に大きな問題だといわれていますし、またこれまで石油の奪い合いはありましたが、中東ではすでに水の奪い合いが始まっているということです。石油があっても水がなければ生活できないわけですからね。 北出 日本農業を守ることは、国際的にも意義のあることだということを知ってもらいたいですね。 柳楽 農業への理解の薄い消費者と話す場合にも、地球環境を考えると、単に農産物は安ければいい、輸入品でいいということなのか、と主張できますから説得力を持つことになると思います。この点は、今後のWTO交渉でもJAグループ陣営として環境問題の視点から訴えていくことを確認しています。 −−地域から都市への情報発信にも取り組む
◆都市住民にも知ってもらいたい 北出 農業者にとっても、農業の世界だけでなく違った世界を知ることにもなりますね。ところで具体的な出版スケジュールはどうなっていますか。 柳楽 9月に『ワールドウォッチ地球環境データブック』を出版し、来年春に『ワールドウォッチ地球白書2001』を出す予定です。地球環境データブックは、資料として利用するものですが、地球白書のほうは日本でも20年ほど前から出版されてきたもので、現在は30か国ほどで翻訳されているものです。 北出 これまでも『地球白書』に注目して毎年読んできたという人もいるわけですが、家の光協会が出版することで家の光協会らしい活動も期待されますが、その点はいかがですか。 柳楽 今のところワールドウォッチ研究所の代表的なこの2つの定期的な出版物が軸になりますが、研究所からはさまざまなデータがもっと早く私たちのところに届くと思うんです。そのなかから、日本の農業や農村に関わる重要なデータがあって、農業者や都市住民にも知ってもらいたいというものがあれば出版することもできます。そういう時宜を得た活動も考えていくつもりです。 北出 それから環境問題の本を出すことによって、従来からの出版物についても多くの人が注目してくれることにもなりますね。 柳楽 そうですね。今、出版界では版元イメージが大切だといわれていて、この分野の本ならこの出版社のものをという選択を読者はしています。その意味では、食と農という家の光図書に環境が加わることによって、これまでのイメージも変わるのではないでしょうか。農業に根ざしたJAグループの出版物だという視点でより多くの人に理解されることを期待しています。 ◆地域の文化を掘り起こし伝えていく 北出 今後の家の光協会の出版事業の方向、課題につていはどう考えておられますか。 柳楽 今までは地域の生活の向上、営農技術の向上、読書の意欲を喚起するという面での図書が多かったんですが、今後の課題は、地域の文化を掘り起こしてそれを伝えていくということです。 地元のJAグループにはこんなノウハウがあるんだということが伝わりますし、地元のJAはすばらしい技術を持っているんだから、地元の農産物を食べれば、元気になれるんだという評価にもつながると思うんです。 北出 21世紀を目前にして、これまでとは何か違った生き方とか価値観を見出そうとする空気はあると思いますね。そのときに料理であれ環境問題であれ、地域からの発信という形の情報が必要とされているのかもしれませんね。 柳楽 『天声人語』で紹介され、評判を呼んでいる役重真喜子さんの『ヨメより先に牛(ベコ)が来た』も地域からの発信ですし、また、これからの生き方を示しているんだと思います。そういう個人の生き方も含め時代の変革期にフィットする出版物を出すことが大事だと思っています。 ◆協同組合学習の原点となる視点で 北出 ところで雑誌の『家の光』についてはどんな課題があるのですか。 柳楽 高田会長が絶えず主張されていますが、今後もっと読者の拡大を図ろうということです。今、JAは地域住民にも活動を広げていこうとしているわけですから、『家の光』も組合員家庭はもとより、地域住民に読んでもらうように制作も普及も努力していくことが大切です。つまり、JAを理解する仲間を増やしていくための雑誌の機能を強化したいと考えています。 JAにおいても世代交代が進むなかで、なぜJAがあるのか、JAが必要なのか知らない人もいてJAと一般企業と対比して考える世代もいます。そういう世代に対しても、たとえばJAの信用・共済・経済等の事業は、一般企業とここがこう違うというように、基本的な協同の学習も重要になると考えています。 北出 記事活用体験も今後も大切な活動ですね。 柳楽 ええ。家の光協会だけでなく、今、全国的に読書運動の見直しが始まっているんです。 家の光協会では、読書運動を兼ねて記事活用グループを作っていて今2000グループほど登録されていますが、全国的な読書運動の見直しのなかで、これが注目されているんです。地域でこの活動に取り組んでいる人たちは、当たり前だと思っていますが、『家の光』を使ったこの活動を外部の人から見ると非常にユニークだと評価されるんですね。ですから、われわれも力強く外部にも訴えていきたいと考えているんです。 北出 JAの土づくり、というのは本当にそのとおりですね。JAの事業は厳しいと言われていますが、事業を伸ばすためにも、土づくりが大切ですね。今後の事業に期待しています。今日はどうもありがとうございました。 |