「農業の多面的機能は議論に値しない。それは農業保護の口実に過ぎないからだ」と攻撃する農産物輸出国もあり、「多面的機能」は世界貿易機関(WTO)農業交渉の大きな争点となる。JA全中は、この問題を考える「国際農業フォーラム」を11日、東京都内で開き、海外の農業団体代表らがパネルディスカッションで、農業が果たす様々な役割を語り、自由貿易が多面的機能の発揮を阻害していると指摘した。
パネラー各氏は、国土と環境の保全や食料安全保障など農業の多面的機能を挙げ、機能を支えているのは家族農業であるとした。そして各国の多様な形態の農業が生き残れる公正な貿易ルールの実現を訴えた。
フォーラムは第22回JA全国大会の記念行事の一つで1500人が参加した。
パネラーの発言によると、米国では、大規模農業が干ばつや土壌の劣化に悩む一方、都市近郊の家族農業が活性化してきて、新たな変化の兆しがみられると米国ナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)のスエンソン会長が報告。
これを受けて東洋大学の服部信司教授は、米国でも中小規模の農業経営が農村コミニュティを支えているとの認識が出てきた、それは、地域社会の維持や活性化に果たす農業の多面的機能を認める考え方ではないかと指摘した。
スエンソン氏はまた▽米国でも農産物価格が下落。農業経営が高齢化し、農地放棄が起きている▽このため地域社会を守ろうと、政府に家族農業を支援させているが、支援メリットは商業農家のほうに多い▽一方、多国籍企業は多面的機能の主張に反対していると、対立の状況なども報告した。
欧州でも「家族農業が多面的機能を守っている。だが多国籍企業は農業経営の集約化を図ろうとする。家族農業が生き残れる仕組みが必要だ。そのためには強い協同組合がほしい。農協を多国籍企業の対抗勢力にすべきである」とEU農協連合会(COGECA)のボーグストロム副会長(フィンランド)は”闘う姿勢”を打ち出した。
また「持続可能な農業とは、資源を乱用しない農業のことである」とし、そうした農業の多面的機能を守るのは協同組合であると説き、さらに美しい景観の維持するという農業の役割も強調した。
インドネシア協同組合協議会のイワントノ副会長は「国民の60%が農業者であり、農村共同体の枠外で生きることは困難な構造になっている。経済危機以後、IMFの管理体制下にあって、自由貿易主導の政策をとることを迫られているが市場メカニズムに従うだけでは解決できない問題が多い」として多面的機能の主張を支持した。
ディスカッションのコーディネーターであるNHKの中村靖彦解説委員は、EUが動物福祉を農業の多面的機能の一つに含めていることを論点の一つとした。
これを受けてEUのボーグストロム氏は「家畜の保護は多面的機能の不可欠の要素である」と強調し、1頭あたりの畜舎の広さなど家畜の飼い方や運び方などが法律で定められていることを報告。
服部教授も「健康な飼い方によって安心安全な食肉を供給するという考え方によるもの」と説明した。
一方、スエンソン氏は「米国では多国籍企業との契約で詰め込み飼育を余儀なくされている」と家畜福祉の面でも多国籍企業を批判した。
フォーラムではディスカッションに先立ち日本女子大学の今村奈良臣教授と、韓国農協中央会の鄭大根会長が基調講演し、今村教授は「市場原理を主体的に、いかに活用していくかという課題があるが、自分たちの力で地域を起こしていくには真の協同精神で取り組む必要がある」と提言した。
また鄭会長は「WTO交渉では、アジアのコメ生産を必ず守らなければならない。農産物輸入国の食料安保を絶対に認めさせるべきだ。アジア諸国の政府は自国の農業に競争力がなくても、その農業を評価すべきである。それは、その国の自然条件に合わせて発展してきた農業であるからだ。そのために各国の農業団体はさらに連携を強めよう」と力強く訴えた。
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