WTOの一般セーフガード協定による緊急輸入制限措置は、被害を立証する調査などの間に輸入量が減るため生鮮食料品には効果がない。また発動に際しては相手国への代償措置を考えることという輸出国に有利な協定だ。このためJA全中は「季節性があり、腐りやすい農産物」の場合には自動的に発動できて、しかも代償措置の不必要なルールづくりを求め、農水省はWTO農業交渉への日本提案に、これを盛り込む。
全中の「国際農業・食料レター」10月号によると、同じ要求は米国5州の農務長官と作物団体からも出ていて、昨年6月に「季節性があり、腐敗しやすい農産物」を特別扱いするセーフガードをWTO交渉の議題とするようバシェフスキー通商代表部代表に求めた。
全米1位のかんきつ類生産州フロリダの果樹団体によると、理由は、ブラジルが「国際的なオレンジ果汁の供給過剰を無視して」生産を拡大し、米国の生産者が輸入急増で打撃を受けたためだ。冷凍濃縮オレンジ果汁の国際価格は10年間で半額に落ち込んだという。
さらに長期保存のきくメキシコ産のトマトが洪水のように入ってきたこともある。これはメキシコの通貨切り下げで輸入価格が暴落したことによる。
これらに対して発動手続きの繁雑なWTOのセーフガードは無力だった。ほかに北米自由貿易協定による特別セーフガードと、米国通商法にもとづくセーフガードがあるが、いずれも被害認定の困難などから発動が見送られた。
こうした経験からフロリダ、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニア、テキサスの計5州はWTOへの課題提案を要請した。
しかし米国農政は穀物など主要農産物生産者の声を軸にした「例外なき市場アクセスの拡大」が基本路線であり、5州生産者などの要請する「特別の保護は米国農業にとって妥当性がない」(農務省関係者)との評価もある。
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