農業所得は低い。東京、大阪など大都市の勤労者と比べた場合、6割程度の水準とされる。その所得格差を国の助成金で補てんする方針を自民党の農業基本政策小委員会が12月5日固めた。松岡利勝委員長は「来年夏までに法案をまとめ、平成14年度から実施したい」との意向だ。小委は、この方針を「新たな農業経営所得安定対策の提言」として農水省に示した。提言は、それぞれの地域で「他産業従事者並みの『生涯所得』確保を目ざす」としている。
提言によると、助成金がもらえる農家は「規模拡大や生産性向上などの経営改善努力を行う」「意欲ある担い手」だ。
具体的には認定農業者など40万戸程度が助成対象になると想定した。これは農家数312万戸の13%程度で、限定的となる。
経営形態別には、農業所得が50%以上ある主業農家(65歳未満の専従者がいる経営)を中心とした家族経営が33万から35万戸、農業生産法人が3万から4万が対象になるとみた。
改正農地法で農地取得ができる農業生産法人として株式会社を条件つきで認めたため、助成対象となる法人は今後増えそうな見通しもある。
提言は「米国、カナダ、欧州連合(EU)の制度の実態も踏まえ、具体的な仕組み」を今後詰めていくとした。政府・自民党は年明けから検討に入り、来年夏の概算要求に必要な予算を盛り込みたい構えだ。
仕組みは、松岡委員長の例えによると、年金のように、耕種や畜産などの農家を対象にした基礎的な共通部分の上に、品目別の助成を組み合わせるという「二階建て」が考えられる。
欧米などの固定支払いや、収入が下がった場合に保険金が支払われる収入保険なども念頭に置くが、現行の稲作経営安定対策や農業共済などとの整合性も課題になる。いずれにしても価格政策として実施されている品目別対策が、今度は所得政策に転換される。
松岡委員長は「輸入農産物の急増による価格の暴落に苦しむ農家の思いを受けて日本型の所得安定対策を構築したい」と意欲的だ。
新制度実施の予算は3400〜3500億円程度を見込むが、財源は現在の農水省予算約3兆5000億円を抜本的に組み替え、その枠内でまかなう。
例えば、コメを作りやすくする水田の基盤整備などは、このコメ余りの中で実施の必要がなくなった、その予算を所得対策に回すなどの考え方(松岡委員長)もある。
他産業並みの「生涯所得」といっても、助成額は全国平均ではなく、その「地域における」所得水準を基準にはじき出すことになりそうだ。
仕組みによっては「農業保護だ」との批判も出かねないが、農産物価格の低落で生産意欲を失いかけている担い手を守り、自給率を上げていくという食料安保や、農業の多面的機能を発揮する観点から「コンセンサスは得られるものと確信している」と松岡委員長は語っている。
なお欧米などの所得政策はかなり手厚い。わが国でも価格政策から「日本型」所得政策への転換の検討がいよいよ本格化する。
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