政府は12月8日にWTO関係閣僚懇談会を開き、WTO(世界貿易機関)農業交渉の「日本提案」を正式に決めた。同提案では、わが国の基本的な考え方を「多様な農業の共存」とし、農業交渉では@農業の多面的機能への配慮、A食料安全保障の確保、B輸出国と輸入国に適用されるルールの不均衡の是正、C開発途上国への配慮、D消費者・市民社会の関心への配慮、の5点を追求すると主張している。焦点となる米のミニマム・アクセスについては、具体的な記述はないものの、現行制度の問題点を指摘し、制度の廃止も視野に輸入量の削減を求める姿勢を打ち出した。政府は今月中にWTOに提出する。
★「多様な農業の共存」を訴える
WTOは年末までに各国が、農業交渉のあり方、交渉すべき課題などについての提案を提出するよう求めている。日本提案もそれに即したもので、個々の品目や関税率の具体的水準などには触れていない。わが国としては、同提案をもとに交渉の枠組み、交渉要素について合意できたうえで、個別の問題について交渉に入る方針だ。
WTO交渉は、昨年12月のシアトル閣僚会議で各国の合意が得られず包括交渉の立ち上げができていない。ただし、ウルグアイ・ラウンド合意で農業交渉は2000年から開始されることとされているため、農業については今年の3月からスタートしている。
そのため、今回の提案では農業交渉のあり方として、農業交渉だけを先行させるのではなく包括交渉の一環として実施、妥結されるべきとの主張を改めて打ち出している。
そのうえで、交渉課題ごとの提案をまとめている。
とくに注目されるのが米のミニマム・アクセス(MA)制度を含めた「市場アクセスに関する提案」。なかでもアクセス数量については、@一定量のアクセス機会の提供を義務づけるシステムは、輸出入国の権利義務のバランスを欠くため改善する、Aアクセス数量は、農業の多面的機能の発揮と食料安全保障の確保に配慮し、各国の農業の現状、構造改革の進展を踏まえるべき。その際、品目ごとの国際需給の違いを考えて適切に設定すべきである、の2点の基本的な主張をしている。
★現行ルールの不備を指摘、ミニマム・アクセス数量の削減を主張
さらに、現行のシステムの“技術的な問題”として△アクセス数量は、国内の消費量を基準として一定量を決めているが、最新の消費量に基づいて見直すこと、△関税化の特例措置を適用した品目では、関税化に移行した後にも、それまで加重されていたアクセス数量が将来にわたり継続されるという問題があり、それを改善すること、の2点も提案している。
この部分の提案には、具体的な品目は書かれていないが、米のミニマム・アクセス制度の改善を提案したものだ。
現行のMA制度の基準年は、1986年から88年となっている。この時期の米の生産量は1000万トンを越えていた。しかし、現在では990万トン台になっている。それにもかかわらずミニマム・アクセス機会の算定方法は当時のまま。「これはおかしいではないか」(谷津農相)と主張するものだ。最新の消費量を基準に算定することになれば、MA米の数量は現行よりも少なくなる。
また、特例措置から関税化に切り換えた場合は、増加量を半減させることになっており、2000年度のMA米は8%となるところが、7.2%となった。
しかし、そもそも関税化を選択した場合は、UR合意の実施期間中に3%〜5%までの増加率となっていた。つまり、関税化を選択した場合は、最大でもMA輸入量は5%どまりとなる。つまり、2点目の提案は、これを基本ルールとして、関税化への切り換えにともなう上乗せ部分はなくせ、との主張である。これによってもMA輸入量は削減される。
このようにMA米については具体的な文言で主張はしていないが「削減を求めるということ」(熊沢審議官)と農水省は説明する。
MA制度については、JAグループの組織協議でも撤廃すべきとの意見もあった。また、国会議員、消費者団体にも同様の意見がある。
こうしたことを踏まえ「削減の究極の数量として、7.2%という数字も排除していない(すなわち、“ゼロ”ということになる)」(農水省)としており、MA制度の撤廃も視野に入れている。
★輸出国に”輸出のミニマム・アクセス”設定を求める
一方、輸出国と輸入国の権利義務のアンバランス改善のため、「輸出規律のあり方に関する提案」で、輸出税の設定を提案した。
これは輸出についてのミニマム・アクセスを求めたものといえる。輸出国がかりに食料不足になっても、一定の品目について一定量は確実に輸出を義務づけるという制度である。現行では、輸出禁止についての歯止めがなく、わが国のような輸入国とってはきわめて不公平な協定内容となっている。
「もしこの輸出のミニマム・アクセス制度の設定は認められない、と輸出国が主張するなら、それならわが国も輸入のミニマム・アクセス制度は認められない、と切り返していける」と農水省は交渉時の対応を想定している。
4割近い生産調整をしてもMA機会を受け入れているのはWTO加盟国のなかで、日本の米だけ。今回の提案は米にのみ焦点を当てた内容ではないが、交渉の大きな焦点になることは間違いがない。そのためにも「多様な農業の共存」という「基本的哲学」をアジアをはじめ各国に理解してもらう必要がある。JAグループにも海外に対する理解促進と連携強化が期待される。
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