武部勤農相は5月31日、今後の農業政策の方向をまとめた私案「食料の安定供給と美しい国づくりに向けて」と「農林水産公共事業の改革」を公表した。
私案では、「農業の構造改革を通じた効率的な食料の安定供給システムの構築」を掲げている。具体的には食料自給率の向上を図るため、「効率的で安定的な経営が農業生産の大部分を担う農業構造を確立」する必要があるとし、とくに構造改革の遅れている米、野菜について生産・流通にわたる改革を重点実施することを強調している。
そのため、「意欲と能力のある経営体」を明確化し、これらの経営体が創意工夫を生かした農業経営を展開できるよう「家族経営農業の活性化や農業経営の法人化」などを推進する必要があると指摘している。
◆一律・同様の施策から対象の重点化へ転換
そのうえで私案は、「意欲と能力のある経営体」を食料自給率の向上を基本とした食料の安定供給を中心的に担う経営体だと位置づけ、規模拡大などの構造改革推進のため「支援策を可能な限り集中化」させる方向を示した。これまでのように農家全体に対して一律に同様の施策を行うことから転換をはかることも明記している。
一方、「意欲と能力のある経営体」以外の農家は、(1)意欲と能力のある経営体をサポートし地域の農業資源の維持管理で一定の役割を担うもの、(2)健康、生きがいのための農業など自然との共生の役割を担うもの、と位置づけ、これらの農家は農業政策ではなく農村振興政策の対象として考えられている。
この方針は農業生産者を大きく2分する方向を示したものといえるが、意欲と能力のある経営体とは必ずしも認定農業者、大規模経営などを想定した案とはなっていない。私案には「専業農家等家族農業経営や集落営農など」のうち「意欲と能力のある経営体」を明確化する、としており、今後、いわゆる育成すべき農業経営の姿をめぐって議論が必要だ。
そのほか、構造改革を推進するため経営安定対策を重視する姿勢を打ち出し、予算も抜本的に見直して「経営改善効果の高い施策に対する思い切った重点化」や思い切った作目転換や革新的技術導入が可能となるような「新たなセーフティネットの構築」などを掲げた。さらに農業経営の法人化と外食産業、食品加工業と農業との連携を一層促進するとしている。
◆公共事業は環境重視へ
農林水産公共事業の改革では、小泉首相が所信表明で述べた「循環型社会」や「自然との共生が可能となる社会」の実現は、「農林水産公共事業が目指している目標そのもの
」と強調したうえで、今後は事業の内容自体を環境を重視し、循環型社会の構築や自然との共生に寄与するものに改革する方針を示した。
こうした方針に基づき14年度以降の新規採択事業は災害復旧や防災対策を除き、「食料の安定供給とあわせて自然と共生する環境を創造する事業」に転換するとしている。また、既存の事業も5年ごとの見直しの際、環境創造型事業への転換を検討し、可能なものは転換を図るという。
この私案は31日に開かれた第9回の経済財政諮問会議に武部農相が提出、説明した。漸前日の30日には副大臣、大臣政務官ほか、事務次官以下全局長庁が出席した幹部会で了承された。
武部農相は、小泉首相が所信表明演説で、循環型社会の実現や食料自給率の向上と農山漁村の新たなる可能性を切り開くと語ったことを踏まえ「これが(具体的に)どういうことなのかを私が示すべき」との考えから私案をまとめたと語っている。
また、小泉内閣が聖域なき構造改革を掲げ公共事業予算の削減も検討課題としていることについては、「公共事業全体をみたとき環境を重視することは強まる。従来型が後退していくのは間違いないが、構造改革がなぜ(農林水産公共事業)予算を減らすことになるのか」と会見で語り、あくまでも農林予算の重点化による改革をめざす姿勢を強調した。