第19回全農酪農青年婦人経営体験発表会は13日東京・大手町のJAホールに約500人が参加して開かれ、全国の応募者から選ばれた6人のうち、「地域とともに伸びる酪農経営」をテーマに、条件不利な山間地で年次計画を明確に描いている島根県簸川郡佐田町反辺の伊藤篤男さん(50)が最優秀賞に輝き、農水大臣賞、農畜産業振興事業団理事長賞、JA全農会長賞が贈られた。あと5人は優秀賞を受けた。
6人の発表は、専業者として創意工夫を重ねている元気な酪農の姿を浮き彫りにし、示唆に富んでいた。
審査委員長である九州共立大学の堀尾房造副学長は講評で▽6人とも家族経営であること▽自家労力の範囲内では飼養頭数規模が上限にきていること▽したがって経営は、内部充実期に入っているとみられる、など今年度の発表に共通してみられる特徴を挙げた。
また、借入金の返済に努め、6人のうち3人が無借金経営であり、残高の多い人でも400万円台にとどまっているとして「これは近年にない珍しいことで、今年は堅実経営の入賞者がそろった」と指摘した。
優秀賞は▽青森県上北郡東北町、久保田輝美さん(42)「乳質の向上を基本とした酪農経営」▽宮崎県小林市東方、高佐政昭さん(36)「視野を広げるアンテナ経営」▽北海道帯広市泉町、杉浦尚さん(36)「密度の高い酪農経営を広げて」▽岩手県九戸郡大野村、間沢和徳さん(30)「ゆとりあるナチュラル酪農」▽静岡県掛川市大和田、柴田佳寛さん(39)「自家乳製品の販売による酪農収益の改善」。
講評によると、北のほうの入賞者は、粗飼料の自給率が100%近いが、静岡から西では自給飼料栽培率がやや低い感じだ。
問題の家畜ふん尿処理はそれぞれ工夫しているが、現地審査では、今後、改善すべき点が1、2の入賞者宅にみられたという。
6人の平均データは、経産牛1頭あたりの乳量が9350キロ、最高は伊藤さんの1万199キロだ。平均乳脂率は3.86%。分べん間隔は13ヵ月から14.7ヵ月と開きがある。
所得は平均1442万1000円。経産牛1頭あたりの所得は28万1000円。生乳1キロあたりのコストは単純平均で87.8円。乳飼比は37.8%というすばらしい成績だ。
最優秀賞の伊藤さんは、経産牛55頭をはじめ計91頭を妻、母計3人と研修生で飼養。特徴は地域の仲間と牛群改良に努めていること。ふん尿処理は町のセンターに外部委託。飼料は転作田に加え河川敷でも栽培し、刈取りや運搬はすべてコントラクターに委託。前年所得は1861万円。今後は規模を拡大し、受精卵移植で和牛の素牛生産にも力を入れ、法人化による企業的酪農を模索中。
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最優秀賞に輝いた島根県簸川郡佐田町の伊藤篤男さん
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優秀賞の杉浦さんは、経産牛69頭をはじめ計129頭を自家労力4人と研修生で。所得は2466万円で1頭あたり35万7000円、所得率は40%と伊藤さんを上回る。やはり牛群改良に熱心で日本記録の乳量を持つ牛をつくり出した。搾乳牛は毎日パドックに出すとか、尾を洗うなど1頭ごとの飼養管理が非常にきめ細かい。
久保田さんは、有名な輝ヵ丘トラクター利用組合の組合長で、機械を共同利用し、作業の一部も共同化して効率化。乳質は入賞者の中で一番だ。今後は所得拡大をねらう。
間沢さんは、1頭あたり飼料作の面積が広く、自給率ほぼ100%。作業のゆとりをつくるため育成牛は村の共同模範牧場に周年預託し、また牛舎の清潔や周辺の美化に優れている。
柴田さんは、差別化戦略でジャージー牛乳の処理・販売をし、ソフトクリームも評判で、付加価値酪農を追求している。今後の展開が楽しみな経営だ。
高佐さんは、乳肉複合経営だ。搾乳部門の所得は620万円だが、肥育部門に力を入れて計1300万円を確保。飼料はトウモロコシ栽培などに努めている。
発表会ではJA全農の三村浩昭常務が主催者あいさつで「猛暑のなか、生乳生産量が減少しており、生産基盤の強化が急がれる」と基本課題を強調。そして全農の取り組み施策を挙げ、「希望と期待の持てる酪農経営に向け、全力をあげたい」と決意を示した。
発表内容も、これに沿って酪農家同士の情報交換の重要性などが強調された。
この発表会の特徴は、会場から発表者に質問できることだ。やりとりの中ではコスト問題をめぐって、乳量を上げるだけでなく、優れた牛の耐用年数を長くする方向の大切さなども、改めて打ち出された。