農水省は8月30日、新経営政策「農業構造改革推進のための経営政策」を決めた。
新経営政策の方針は、「育成すべき農業経営」を明確にし、今後はその経営体に施策を集中化、重点化することにある。そのうえで、育成すべき経営体とは、食料自給率の向上を基本とした食料の安定供給を担っていく経営体と定義、具体的には「認定農業者のいる農業経営」が基本とした。
議論となった集落営農については、「その取り扱いを検討する必要がある」とされた。ただし、集団的営農の中核を担っている生産者が、収益・費用のプール計算を行うなど一定の要件を満たすものについては適切な施策を講じると明記している。
そして、今後、育成すべき農業経営への「生産要素の集中化」を重点施策とする方針を打ち出し、そのための「構造転換計画」を市町村段階で策定することを推進する。そのための予算を来年度予算に盛り込み、今後3年間、年に700市町村程度で策定を推進する方針だ。
経営安定対策として注目されていた新たな経営所得安定対策は、このような育成すべき農業経営が思い切った経営が展開できるよう、市場価格の変動の影響を軽減するセーフティネットとして位置づけられた。その方式は、直接支払いではなく加入者の拠出を前提とした「保険方式」を基本に「積み立て方式」も含めて今後検討することにしている。
積み立て方式は、生産者一戸でも参加が可能だが、補てん額は積み立て額が限度となるほか、自己負担分が最終的には自分に戻るため、農水省は「リスクに対する備え」という感覚が生まれにくいとしている。一方、保険方式では十分な加入者が確保できるかといった問題もある。
セーフティネットの対象となる経営は、認定農業者を基本とし集落営農については「検討する必要がある」とされた。また、米の生産調整など需給対策に取り組む経営が前提になるとしている。また、この経営所得安定対策の導入にあたっては、稲作経営安定対策など、現在の品目別政策と機能が重複することもあることから、その関係を整理する方針も示している。
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新たな経営所得安定対策は、昨年末に農産物価格の下落で農業経営が苦境に陥っていることから、他産業と遜色のない所得レベルをめざした新たな“所得補償政策”として自民党が議論を始めた。しかし、結論は、農業構造の改革を前面に打ち出したものとなった。政策を集中させる「育成すべき農業経営」とそれ以外の農家との選別促進の方針を明確にした。そして、セーフティネットの対象は認定農業者など、いわば農水省が改革の担い手と認定した経営を対象とするとのいう性格になった。当面は、水田営農と大規模畑作輪作での導入をめざし3年間調査、17年度から実施される見込みだ。
農水省は、この方針は、選別ではなく農業者の選択だと強調している。昨年末、新たな経営政策の対象は40万経営体という方針を自民党は示したが、同省は「はじめから40万ありきではない」と強調、育成すべき農業経営をめざす人すべてを対象にしたいとしている。研究会では「現場では構造改革のために経営を努力しているわけではない。自分のビジネスとして工夫しているだけ。こういう人たちが何を考えているか把握すべき」との意見も出されたように、今後は地域農業のさまざま実態への目配りも必要だ。JAにとっても地に足のついた実践のなかから対抗軸を打ち出すことが求められる。