JA全農(大池裕会長)は10月4日午後、平成14 農薬年度(平成13年12月〜平成14年11月)の農薬価格について、7月上旬以降、農薬原体メーカー及び製剤メーカーと個別に精力的な交渉をすすめてきたが、加重平均で1.2%の値下げで合意したと発表した。9年連続の値下げとなる(グラフ参照)。
合意までの経過を見ると、まず原体及び製剤メーカーは8年連続の価格引き下げや売上高の停滞により経営が一層厳しくなっていること、また原油の高騰にともない原材料、副原料の一部、製造経費が上昇していることなどを背景に、価格の値上げを強く求めた。
一方、JA全農は厳しい農業情勢ならびに「生産資材費用低減運動」についてメーカーの理解を求めるとともに、値上がり要因は合理化による吸収を求めた。また、安値市況が恒常的に発生している品目及び類似品が安値で販売されている「非選択性茎葉処理除草剤」について価格の引き下げを強く求めた。
これらの背景下、JA全農は平成10年度からスタートした主に農家サービスの向上及び需要の結集を柱とした「JAグループ農薬推進強化運動」に結集する組織力をバックボーンに粘り強く交渉し、トータルとして価格の抑制をはかった。
詳細を見ると、大半の品目は据え置きとし、一部品目で値上げはあるものの、恒常的市況品目、「非選択性茎葉処理除草剤」等の主要剤において値下げした。特に、最重点品目に位置付けられているラウンドアップハイロードについては、20%の大幅な値下げを実現している。さらに、担い手農家対策の一環として割安な大型規格品の新規設定を行い、既存の一部大型規格品についても値下げを実現している。なお、恒常的市況品目においては、一部で先取りをした競争価格を設定している地域もあるため、実際の下げ幅は地域によって異なる見通しである。
なお、低コストに貢献できる水稲用除草剤として、JA全農が初めて農薬登録を取得し昨年より上市されたオキサジクロメホン(試験名:MY−100)混合剤も当初目標としていた10万ヘクタール(普及率5.8%)を突破する上々の滑り出しを見せ、平成14農薬年度約25万ヘクタール、平成15農薬年度約60万ヘクタールの普及を目指していく。
加えて、特許切れ農薬であるアセフェート(園芸用殺虫剤、製品名『ジェイエース』)も農薬登録の申請が受理された段階であり、低コスト剤として大きな期待が寄せられている。
【解説】
JA全農と原体・製剤メーカーの農薬価格交渉は、昨年から従来より約2カ月早く開始されているが、これは「予約」中心の系統農薬事業の中で、10月から予約推進を開始するJAもあり、予約時に価格が決定していないという問題を回避したもの。
今回の交渉のポイントを見ると、メーカーとの個別交渉の結果「同じ品目でも、メーカーによって価格が違うケースが初めて誕生した」(JA全農肥料農薬部・小高根利明農薬課長談)。従来の「一物一価」の原則が崩れ、メーカー色が出た形だ。
また、交渉の背景として、いわゆる「新ガイドライン」(12農産第8147号・農産園芸局長通知)の導入により、メーカーは追加データを得るための試験が必要となり、コスト高になる点が指摘できる。1原体で約1億円、1登録製剤で約130万円のコスト高と試算されており、これについては「後追い方式」として来年の価格交渉の大きな争点となろう。
現在、農業用生産資材としての農薬(事業)の問題点の1つは、恒常的市況品目の存在であり、今回の価格交渉でも全国価格への反映を避けたいとするメーカーとJA全農との隔たりは大きく交渉は難航した。あくまでも市況実態を踏まえた価格設定が重要であり、今回の価格交渉を総括すると「JAブランドの信頼回復」交渉と見る。