農政ジャーナリストの会(会長・中村靖彦明治大学客員教授)が2月26日に開いたシンポジウムは「循環の世紀〜地域・くらし・食の再生」をテーマに話し合われた。
福岡の稲作農家で農と自然の研究所代表の宇根豊さんは、牛肉の消費が回復しないことについて「安全性が確認されても、食べ物の外側にある価値が見えなくなっているから食べないのではないか」と指摘。群馬県の上野村にも住まいがある哲学者の内山節さんも「村でのソバ打ちや味噌づくりが人気。食べ物がどうつくられるのか、ストーリーがなくなってしまったからでは。生きることの不安にもつながっている」。
イタリアのスローフード運動を描いた作家の島村菜津さんは「人と人、人と環境、地域などあらゆる関係性の真ん中に食べ物があると考えたい。食べ物は人間のアイデンティそのものでは」と問いかけた。
工業製品ならどこでだれが作ったかは気にかけないが食となると別。宇根さんは「輸入弁当を食べていれば車窓の向こうの田園が消えてしまうと想像することも必要だ」と指摘。また、田んぼがメダカを育んでいることが分かると「地域住民が田んぼを残そうという気持ちになった」と、食べ物の外側の価値を伝えることが大切だとし、中川聰七郎愛媛大教授は「食の商品化に対抗する農業を」と
話した。
|
京都大学経済研究所
佐和隆光所長
|
シンポジウムに先立つ記念講演は、京都大学経済研究所の佐和隆光所長の「市場主義の貧困」。
市場主義は革新的な思想ではなく、復古的な思想。市場が完全なものに近づけが近づくほど「市場の力」が暴力となることを「私たちは90年代後半の経験から学んだ」。
にもかかわらず、日本で市場主義が相変わらず流行しているのは「20年遅れのサッチャリズム」だと批判し、今本当に改革しなければならないのは、自由・透明・公正な市場をつくることと、「平等な福祉社会」をつくることの同時遂行だと強調した。
佐和所長は、平等は悪という言説が幅を利かすようになったが「平等な社会とは、排除されるものがいない社会」のことと強調。また、福祉についても、「社会のリスク最小限にする」ことや、人的資源への投資を主眼とし受け身的な福祉の世話になる人間をできすだけ少なくする発想で捉えるべきなどと語った。