BSE(牛海綿状脳症)に関するこれまでの行政上の対応を検証してきた「BSE問題に関する調査検討委員会」(農水相、厚労相の私的諮問機関、委員長・高橋正郎女子栄養大学大学院客員教授)は4月2日、報告書をまとめ武部農相、坂口厚労相に提出した。
報告書では、1996年にWHO(世界保健機関)から肉骨粉禁止勧告を受けながら法的禁止措置を取らず、行政処分で済ませたことは「重大な失政」と批判、「危機意識の欠如」と「危機管理体制の欠落」があったと問題点を指摘した。
2001年にEUがわが国に対して行っていたBSEに関するステータス評価を、EUとOIE(国際獣疫事務局)の評価基準が異なることから中断するよう要請したことについても、「経緯はともかく政策判断の間違いだった」とした。
そのほか、BSE問題の背景にある問題点として報告書が指摘したのは以下の点だ。
▽生産者優先・消費者保護軽視の行政
先進国では市場競争の激化にともない農業政策は消費者優先に軸足を移しているが、わが国は「旧態依然たる食料難時代の生産者優先・消費者保護軽視の体質を色濃く残し」ていると指摘。消費者保護を重視する農場から食卓までのフードチェーン思考が欠如しているとした。
▽政策決定過程の不透明な行政機構
農水省の政策決定にもっとも大きな影響を与えているのは「農林関係議員」。「全国の農村を基盤に選出された議員が協力な圧力団体を結成、衰退する農業を補助金などを通じて支え生産者優先の政策を求めてきた」。こうした政と官の関係が政策決定を不透明にし、「十分にチェック機能を果たせない原因となった」と指摘している。
▽農水省と厚労省の連携不足
縦割り行政と「縄張り争いの結果、内政不干渉が慣例」でチェック機能が働いていない。肉骨粉の禁止問題やEUのステータス評価の際、農水省は厚労省と協議を行わず厚労省は明確に意見を言わなかった、としている。
▽専門家の意見を適切に反映しない行政
96年当時、肉骨粉使用の法的禁止を求めた専門家がいたが、農水省の方針で先送りされた、と批判。
▽情報公開の不徹底と消費者の理解不足
BSE発生の際、感染牛の処理情報を誤って伝えたことを批判するとともに、マスコミにも興味本位で不正確な一部メディアが存在すること、さらに消費者にも過剰な反応があったことを指摘。ただし、「消費低迷は行政不信と表示不信が重なった結果で徹底した情報開示による透明性の確保以外に信頼回復の方法はない」。
▽法律と制度の問題点
消費者の保護を基本とした包括的な食品安全確保のための法律が欠けている。時代の変化に対応できる制度改革が緊急の課題。
報告書はこのような問題点を指摘したうえで、今後の食品安全行政のあり方を提言している。
原則は、「消費者の健康保護の最優先」と「リスク分析手法の導入」。そのうえで、(1)「消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための法」を制定し、食品衛生法など関連法を抜本的に見直すこと、(2)リスク評価機能を中心とし、独立性・一貫性を持つ新たな食品安全行政機関を設置すること、の2点について、6カ月をめどに成案を得るよう政府に求めている。