食品の虚偽表示が相次いでいるため農水省は違反者に対する重い罰則を定めた農林規格(JAS)法の改正案を今国会に提出する。これまでJAS法による品質表示基準違反には懲役刑がなかったが、改正案では個人に対し「1年以下の懲役」という罰則を新たに設けた。また法人に対してはこれまでの「罰金50万円以下」を一挙に「1億円以下」に引き上げた。
現行法は違反業者に原因究明や改善などの指示を出し、これに「従わない場合には(業者名を)公表できる」となっているが、改正案は、この規定を削って公表を無条件とした。
このため公表が基本となり、農水省が必要と判断した場合はいつでも公表できることになる。一方、公表されても、名前を変えて再び裏ルートで商売を続ける業者もいるので罰金引き上げと両建てにした。
農水省は改正案と食品表示に対する信頼回復の方策について4月19日「食品表示懇談会」を開き、JAS調査会のメンバー(28人)から意見を聞いた。
改正案の罰則は個人の場合「1年以下の懲役または100万円以下の罰金(現行の2倍)」となり、また法人は1億円に強化されたため、懇談会では「小さな八百屋や魚屋でも法人であれば1億円取られるのか」との質問があり、農水省は「規定通り」と答えた。
このため小規模業者のためにも、わかりやすい表示基準のマニュアルを作る必要があるとの意見が出た。
また「雪印のような大企業に対しては1億円でもまだ甘い」との指摘に対し農水省は▽ほかの法制度との均衡や▽外国の水準も見て最大限のペナルティ強化を図ったなどと説明した。
公表については「指示が出たら、すぐに公表すべきだ」というのが、ほぼ全体の意見で、農水省も同様の方針を示した。
さらに信頼回復策については「トレーサビリティという言葉は一般にはわかりにくい。生産履歴とか工程履歴といった日本語にする必要がある」「トレーサビリティをもっと支援すべきだ」「表示ウォッチャーと表示110番をもっと増やしてほしい」などの声が出た。
品質表示基準はJAS法と食品衛生法にまたがっているため賞味期限や消費期限については厚労省との調整で一元的に検討する。
一方、自民党の農林関係合同会議は18日、改正案の国会提出を了承。政府は26日に閣議決定し提出するが、国会審議は連休明けになる見通しだ。
同党内には業者名公表のルールをつくって業者の経営存続にも配慮する必要があるとの意見が出ている。
なおBSE問題調査検討委員会報告が罰則の甘さを指摘したり、国民生活審議会消費部会長談話が罰則強化を主張したりしているという流れを背景に農水省は今回、1月28日の雪印食品事件以後、異例の早さで改正案をまとめた。従来はJAS調査会で1年以上の検討を経て改正していた。