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酪農経営で模範的な業績を挙げ、地域で中心的に活動している生産者を表彰し、その経験を聞くJA全農の「全農酪農青年婦人経営体験発表会」は7月12日、東京のJAホールで開かれ、全国から推薦され、審査を経てきた5人が創意工夫と努力を語って今後の酪農経営に示唆を与えた。最終審査では福岡県太刀洗町、安丸実義さん(57)が最優秀賞に輝いた。今年は第20回目の発表会とあって「日本の酪農の未来を考える」をテーマにパネルディスカッションも行われた。
今年は発表者の推薦団体が牛海綿状脳症(BSE)対策に追われているなどの影響から応募者数は例年よりやや減ったという。一面では、だからこそ発表を聞く会場の空気もBSE対応で引き締まっていた。
発表は▽「経営は数字の整理から」西川正和さん(宮崎県山田町)▽「搾乳に専念した楽しい酪農経営」生田目政吉さん(北海道浜頓別町)▽「効率経営への限りなきチャレンジ」内ケ島賢勇さん(熊本県山鹿市)▽「後継者に夢を託せる酪農経営をめざして」石倉和幸さん(島根県大東町)▽「立地条件のハンディを低投資省力システムで実現した酪農経営」安丸実義さんの5作品だった。
審査委員長である九州共立大学の堀尾房造副学長の講評によると、5人とも家族経営で法人はなかった。飼養頭数は内ケ島さんの41頭から生田目さんの108頭まであるが、平均は67頭で多頭飼養だ。
収益は安丸さんの所得3427万円を筆頭に5人とも1000万円以上。5戸平均では1946万円だ。
内ケ島さんと西川さんは借金ゼロで財務基盤が非常に安定している。
経産牛1頭あたりの乳量は西川さんの7918キロから内ケ島さんの1万400キロで、平均9196キロと全国平均より1500キロ以上も高い水準だ。
平均乳脂脂率はすべて3.9%をクリア、石倉さんは4%を超えている無脂乳固形分率は8.79%。
経営効率をみる売り上げに対する所得率は5戸平均で32.7%となり、中でも内ケ島さんは4割弱が手元に残るという成果を挙げている。
経産牛1頭あたりの所得は平均31万5000円。 生産コストは生乳1キロあたりの原価が平均71円20銭で、うち3戸は70円以下となっている。
最優秀賞の安丸さんは、経産牛86頭をはじめ合計129頭を飼養。労力は夫婦と長男にパートを入れて3.5人。2ヘクタールの稲作もある。
牛舎の増改築で増頭してきたが、施設投資を抑える一方、思い切った省力化投資で機械をそろえた。
立地は水田地帯だが、住宅団地が増えて混住化が進んでいるため、ふん尿処理に気を使い、堆肥をかくはん式の施設で処理し、戻し堆肥のほか近くの農家にも販売している。
技術と収益性の水準が高く、西南暖地の水田地帯にある酪農の方向を占うような役割を果たしていると、審査委員会は評価した。
1頭あたりの乳量はここ3年間1万キロを確保し、所得率は大型経営にもかかわらず36%と経営効率が高い。
自給飼料は育成牛に回して、経産牛に与える粗飼料は25トンのコンテナーで米国から安く購入し、乳飼比は40%。生産コストは65年の水準にある。
発表者のうち安丸さんと石倉さんは飼料作には厳しい条件に置かれて、そのウェイトが低い。しかし、あと3人は自給飼料にかなりの力を注いでいる。
◆酪農青年体験発表
パネルディスカッション開く
パネルディスカッションでは酪農代表の鶴井辰哉さん(北海道)と伊藤悦子さん(岩手)の生産現場を映像で紹介。明治大学客員教授の中村靖彦さんをコーディネーターとして語り合った。
伊藤さんは「健康な牛から健康な生乳が出る。そのためには飼料が大切」などと説明。これを受けた女優のかとうかずこさんは「安全安心が消費者の願い」と語り、話題は食品表示のルールをもっとわかりやすくする必要があるということになった。栄養士の竹内富貴子さんは「生活者は表示をきちんと読むようにしなければ」と強調した。
また全農酪農部長の佐藤幸吉さんは「安全安心にはコストがかかる」と指摘。生活者としては牛の飼料のことにまで知識を持って生産者と話し合うことが大事という話になった。
東大大学院教授の生源寺眞一さんは、酪農経営はそれぞれが非常に個性的になっていると分析し、外部からの新規参入を希望する人がいて、酪農家を勇気づけていると語り、だれも見向きもしないような産業ではつまらないが、酪農はそうではないと指摘した。
また生き物に触れる酪農の現場は子供たちの絶好の教育の場であるという認識で全員が一致した。