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農政.農協ニュース

国の役割 食糧法に明記
20年度に農業者団体主体の需給調整へ
米政策改革大綱決まる (12/03)

JA全中の米政策改革対策全国代表者集会
JA全中の米政策改革対策
全国代表者集会

 需要に応じた米づくりの推進を通じて、水田農業経営の安定と発展を図ることを目的とした「米政策改革大綱」を農水省は12月3日夕、自民党など与党の了承を受けて省議で正式に決定した。大綱の実施によって30年間続いてきた米の生産調整が平成16年度からは生産数量管理に変わるほか、20年度には農業者・農業者団体主体の需給調整システムに移行するなど、わが国農業の基幹である水田農業政策の大転換となる。
 JAグループは、政策の具体化にあたって引き続き国の役割と責任の明確化を求めていく一方、集落営農を含めた担い手の育成、麦・大豆の本作化による水田の有効活用など、地域農業の未来に向け組織をあげた取り組みを進めていく方針だ。

■国の役割 ワーキング・チームで検討

自民党基本政策小委員会
自民党基本政策小委員会

 大綱は11月29日の生産調整研究会の最終とりまとめと自民党の大綱骨子をふまえて決まった。
 最大の焦点となったのは、改革ステップと需給調整への国の関与のあり方だった。
 大綱では、平成20年度に「農業者・農業者団体が主役となるシステム」を国と連携して構築するとしながらも、18年度に移行への条件整備状況を検証することが盛り込まれた。
 また、JAグループがもっとも問題とした国の関与については、国と地方公共団体の役割を食糧法に明確に位置づけることになった。JA全中の宮田会長は大綱決定前の2日、大島農相に食糧法の理念の堅持と国の役割、責任の明確化を申し入れており、食糧法がどう改正されるかが今後の大きな焦点となる。
 大島農相は、大綱決定後の記者会見で農業者団体の主体的な取り組みを「さまざまにバックアップしていくあり方」を位置づけることになるとの見通しを述べるとともに、「基本的な食料を供給する施策も国の責務。そういうこともふまえる」とも語った。
 具体的な内容は、農水省とJAグループでワーキングチームを設置して協議を進める。検討には生産調整に関する研究会委員も加わることもあるという。国の役割として「JAグループが生産計画を策定し国が認定する」といった案も浮上しているが、検討はこれから。農水省は、ワーキング・チームの作業をふまえ食糧法改正案を次期通常国会に提出する予定にしている。
 
■生産者には面積も配分

コメ大綱の農水省省議
コメ大綱の農水省省議

 16年度からの生産調整は生産数量の配分に変わる。ただし、生産者には面積も配分され、配分生産量の達成確認は面積で行う。
 生産目標数量については、第三者機関を設置して客観的な需要予測をし、その助言をもとに国が需給情報を策定し公表することになる。
豊作分は翌年の生産数量目標から減少させることが基本。
 農水省は、第三者機関での議論をオープンにし生産者に需給事情が「手に取るように分かるもの」を策定したいとしている。
 一方、豊作による過剰米については「過剰米短期融資制度」を創設する。
 生産者の拠出と国の助成で基金を造成。出来秋に区分出荷した過剰米に対して翌年の出来秋まで融資を受ける。その間に販売できれば融資を金銭で返し、販売できなければ過剰米を新規用途や飼料用等へ供給するなど需要開拓に結びつける。
 生産者の拠出は、生産調整のメリット対策交付の要件となる。融資単価と拠出水準は今後検討される。
 
■稲経は廃止 産地づくり推進交付金へ

生産調整に関する研究会の最終とりまとめを石原食糧庁長官に手渡す生源寺座長
生産調整に関する研究会の
最終とりまとめを石原食糧庁長官に
手渡す生源寺座長

 生産調整参加のメリット措置としては稲作経営安定対策が廃止され、産地づくり推進交付金となる。この交付金は、地域で策定した水田農業の改革への取り組みを支援する「産地づくり対策」と「米価下落影響緩和対策」からなる。
 産地づくり対策について農水省は、15年度から交付金の使い方について地域から提案を受け、それをもとにガイドラインを示す方針。農水省は交付額は対策期間中、一定額とする方針だが、JAグループとしては十分な助成額となるよう求めていく。
 一方の米価下落影響緩和対策は、都道府県の判断で導入を選択する。
 仕組みは米価下落に対して、固定部分と変動部分を組み合わせて補てんするもの。固定部分の単価は全国一律で60キロ200円、変動部分は基準価格との差額の5割補てんというのが今のところの農水省の案。支払い方法も数量単位か面積単位かなど、助成水準も含め具体化にあたっての課題となる。

■担い手経営安定対策を導入

コメ大綱で記者会見する大島大臣
コメ大綱で記者会見する大島大臣

 担い手対策では、「集落段階での話し合いを通じ地域ごとに担い手を明確化」するとJAグループの主張が盛り込まれた。そのため現在の認定農業者制度の見直しを行い、さらに一定の要件を満たす「集落型経営体」も担い手として位置づけた。
 農水省は、今回の大綱で集落営農を担い手として位置づけたことは「戦後の経営体をめぐる農政の大議論に方向をつけた」としている。ただし、集落型経営体になるには、一定期間内に法人化する計画を持っていることなど、要件が設けられることになっており、実態にあった現実的な要件となるかどうかがひとつの焦点となる。
 さらに大綱では、水田経営を行っている担い手を対象に米価下落影響緩和対策に上乗せして収入を補てんする「担い手経営安定対策」を導入することも決めた。
 対象者は生産調整を実施していて、一定規模以上の水田経営を行っている生産者や集落型経営体。米価下落影響緩和対策に加入していることも条件となる。
 農水省の現段階の考えでは、経営規模は認定農業では北海道10ha、都府県4ha、集落型経営体は20ha、としている。補てん水準、基準収入の決め方などと合わせ検討されることになる。
 
■安定供給に対しメリット

 集荷・流通分野の改革は、関係者の協議のうえで可能なものから早期に実施することになった。
 実勢に即した価格形成がなされるよう米取引の場を育成することや、危機管理体制を整備するために流通業者に対して届出制を導入する。政府備蓄は、100万トンを適正水準とし、市場重視の観点から政府米も入札による買い入れと売り渡しを行う体制に移行する。
 計画流通制度は見直されるが、米流通に関する規制は平等になるが、年間を通じて安定供給する取り組み対しては債務保証などのメリット措置を行う安定供給支援法人が設立されることになっている。
 

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 今回の大綱によって水田農業のあり方と米の生産、流通が大きく変わる。大島農相は「日本農業の礎である稲作農業が将来にわたり発展しつづけるよう全力を尽くす」と述べるとともに「広く国民が趣旨を理解し実現に向け一丸となることが重要」と強調した。

米政策改革大綱のポイント

目 的
消費者重視・市場重視の考え方で需要に即応した米づくりの推進を通じて水田農業経営の安定と発展を図る。
道すじ
(1)平成22年度までに農業構造の展望と米づくりの本来あるべき姿の実現をめざす
(2)20年度に農業者・農業者団体が主役となる需給調整システムを国との連携で構築。18年度に移行への条件整備を検証。
(3)国と地方公共団体の役割を食糧法に明確に位置づける。
(4)集荷・流通改革は可能なものから早期実施
16年度からの需給調整
(1)第三者機関の助言で国が需給情報を策定し公表。
(2)生産数量調整方式に転換。目標数量は行政と農業者団体の両ルートで配分。
(3)農業者には面積も配分。
(4)安定した一定の交付額による産地づくり対策と米価下落対策を柔軟に実施する「産地づくり推進交付金」を創設。
(5)豊作による過剰米対策として「過剰米短期融資制度」を創設。豊作分の区分出荷を促す。
流通制度改革
(1)実勢に即した価格形成のための取引の場の育成
(2)適正表示の確保、トレーサビリティシステムの導入
(3)安全性確認体制の確立
(4)政府備蓄100万トン。入札による買入れ・売渡し
経営政策・構造政策
(1)担い手として「集落型経営体」を位置づける。
(2)一定規模以上の水田経営の担い手に「担い手経営安定対策」を上乗せ。
水田利用のあり方
効率的・安定的経営体の確立、持続的輪作体系に基づく水田営農、畑地化の推進。耕畜連携のための条件整備、飼料用稲や加工用米の定着・拡大の推進。

 JA全中の宮田勇会長は、米政策改革大綱が決定を受けて次のような談話を発表した。

組織あげあるべき姿の実現を 宮田勇JA全中会長

 「平成20年度に農業者・農業者団体が主役となるシステムを国と連携して構築する」という方向は、大変厳しいものと受け止めざるを得ないが、国・地方公共団体の役割を食糧法で明確に位置づけるとしたこと、18年度に条件整備等の状況を十分検証して判断するとしたことは、今後の取り組みにおける重要な足がかりにできた。食糧法の理念の堅持と国の役割と責任の明確な位置づけを農水大臣に申し入れたところであり、それらの着実な実施を前提に組織の理解と納得を得て取り組む。
 米政策の改革は、主食たる米の安定供給や自給率向上、地域農業と農村の振興など国をあげた緊急課題であり、JAグループの果たすべき役割と消費者をはじめとする国民各層からの期待はたいへん大きい。改革が自らの課題であると受け止め、地域の将来像を描きつつ水田農業のあるべき姿の実現に向けて組織をあげた取り組みをすすめていきたい。


JA全青協・門傳英慈会長

 生産調整に関する研究会の委員でもある門傳英慈JA全青協会長は米政策改革大綱決定を受けて本紙のインタビューに答え次のように語った。
 大綱は、日本農業のあるべき姿を示したものだといえる。なかでも地域で担い手を中心とした営農が大切になるということだろう。助成も全国一律ではなくなる。今後、JAや行政で地域の水田農業の将来像を明確にしたマスタープランをつくることになっているが、そのプランづくりに青年農業者が中心的な役割を果たしていかなければならないと思う。
 単に経営規模を大きくしようということではなく、地域のなかの担い手として実践するという心がまえが求められる。地域農業づくりに一生懸命に取り組むことなくして、海外農産物と競争はできない。
 国の関与のあり方が最大の焦点になったが、大綱では食糧法のなかで国の役割をはっきりさせることになった。つまり、われわれが地域農業にどう取り組むのか、そして国はそれをどうバックアップするのかを明確に位置づけるということだ。地域での創意工夫が求められるが、それは知恵を出して実践した農業者が評価される体制になったということでもあると思う。
 生産調整のメリット対策など16年度に向けてこれから検討される内容も多く、全青協としても引き続き運動を展開していきたい。



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