アジア・欧州連合(EU)農業団体会議は1月10日、世界貿易機関(WTO)農業交渉について、各国それぞれの農業の特徴を考慮した柔軟性のある交渉方式(モダリティ)にすべきだとの認識で一致した。家族農業を守る立場から農産物貿易の自由化を柔軟に進める方向だ。これは関税を一律に25%未満に引き下げるという米国などの過激な自由化提案と対立する。
同会議は交渉方式をめぐるWTO農業交渉が山場を迎える中で、農業者の国際的連携を広げるために開いた。EU側からは米国などの提案は「受け入れられない」と反対表明が相次ぎ、日本の主張と一致した。
結論としては、アジアとヨーロッパがそれぞれに異なる農業生産と消費の状況について理解を深め、双方の農業者の利益となる「公正な貿易を達成する手段を模索することができた」とまとめた。
同会議はアジア8カ国とEU及びEU加盟予定26カ国計34カ国のリーダーが集まって9、10両日ベルギーのブリュッセルで開き、日本からはJA全中の宮田勇会長らが出席した。
主催の「協力のためのアジア農業者グループ」(AFGC)、EUの農業団体連合会(COPA)と農協連合会(COGECA)が始めて開いた会議だった。
3組織はこれを手始めに今後も対話を継続し、共通の関心事項実現へ連携、それぞれの国に働きかけていくことを確認した。
JA全中のまとめによると、アジアのリーダーたちはWTO農業交渉について▽小規模な家族農業者の困難を解決し▽すべての国々の農業が共存して▽世界貿易システムから公平に利益を得ること、を目的とすべきであると強調した。
また各地域の農業の特徴を踏まえ、開発途上国の限界を考慮し、特別で異なった待遇を強化すべきだとした。さらに交渉の結果が世界の小規模農業者に犠牲を強いるようなものであってはならない、と加えた。
一方、ヨーロッパのリーダーたちは強力な協同組合が農業政策を支持し、食料の安定供給や家族農業の生存に重要な役割を果たしてきたと述べた。
また社会は農業者に対して食品の安全性と品質、トレーサビリティ、環境保護、動物愛護などに関し、より高い基準を求めており、これがコスト高となって、自由貿易の進展が家族農業に対する圧力を強めていると説明した。
協議の中では、WTO農業交渉のモダリティは異なるタイプの農業の特徴を考慮して十分に柔軟性を確保することとした。また農業の多面的機能など非貿易的関心事項や、途上国への特別待遇などを考慮すべきだと強調した。
同会議にはアジアからインド、インドネシア、日本、韓国、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナムの農業団体代表が出席した。
なお「協力のための・・・」(AFGC)は情報交換や協力の活性化を目的に3年前、東京で設立した。構成はマレーシアを含む9カ国9団体だが、今回マレーシアは欠席した。
EU委員会の路線転換に域内農業団体が反発
EU委員会はWTO農業交渉の交渉方式について昨年12月に新提案を出し、同委員会の農業総局長は9日のアジア・EU農業団体会議で提案内容を説明した。関税引き下げでは「平均36%、最低15%」など具体的な数字を盛り込んでいる。 米国やケアンズグループ(カナダなど農産物輸出国15カ国)はすでに一律25%未満への引き下げを提案。これで2勢力が数字提案をしたわけだ。
EUはこれまで日本とともに「数字よりもルールづくり」を優先させてきたが、突然路線を変更したため、日本は苦しい立場に置かれることになる。
委員会提案はまだ事務局原案の段階だが、WTO加盟各国が持ち帰って検討しており、1月中旬にはEU案として固まる予定。
アジア・EU農業団体会議では、EUの農業団体から「今の段階で数字を示せば、さらに譲歩を迫られるのではないか」と委員会提案への反発と批判の声が挙がった。
COPAとCOGECAの会長はすでに12月17日に委員会提案の変更を求める見解を出している。それによると、提案は「ウルグアイラウンド合意に比べて大幅な譲歩であり」、今後の交渉でEUの主張の「実現性を台無しにする可能性がある」としている。