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非公式閣僚会合
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2月14日から東京都内で開かれていたWTO(世界貿易機関)非公式閣僚会合には、22か国・地域が参加し、農業委員会のハービンソン議長が示したモダリティ1次案の扱いをめぐって、日本、EUと米国、ケアンズ諸国、途上国の見解が対立した。3月初めにも2次案が示されるとみられ、日本は関係国との連携を強化し、食料安保や農業の多面的機能など非貿易的関心事項に配慮したモダリティとなるようジュネーブでの農業委員会の場などで主張していく。
閣僚会合では、農業について予定時間を大幅に延長して議論された。
焦点はモダリティ1次案の位置づけ。米国やケアンズ諸国は「最終的には関税の撤廃が目標」(ゼーリック米通商代表)などの主張から、同案は「十分に野心的ではない」(オーストラリア政府高官)と不満を持ちながらも、これを今後の交渉の「ベースとすべきだ」と主張。
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15日農業分野から始まった非公式閣僚会合で議長として発言する川口外相 |
一方、日本は大島農相が、一部の輸出国に偏重した内容になっていることや、非貿易的関心事項が反映されていないことなどを指摘、「先進国、途上国とも農政改革に取り組んでおり、貿易ルールは農業が壊滅的になることがあってはならない」として「総体として受け入れられない」と主張。EUも輸出国に偏重した内容でバランスを欠いており基本的に今後の交渉のベースとはならないと主張した。
結局、議長を努めた川口外相が一次案の位置づけについて今後の議論を促進させるための「触媒」として位置づけてはどうかと提案し了承された。「触媒」とは、議論の刺激剤との意味とされており、日本としては「一次案の数字を入れ替えるというような話ではない」と今後、ルールの議論も含め2次案に日本の主張が反映されるよう働きかけていく。
今回の会合で大島農相は、一次案に色濃く出ている農業分野でのハーモナイゼーション(平準化)の考え方について「各国の農業には経済的、社会的要素があり、基本的に適切でない」と批判。今後、こうした基本的な理念が理解されるよう交渉の場で議論する。
◆第2次案で日本提案の実現めざす
――インドも連携を表明
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日本
川口外務大臣(議長)
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WTO非公式閣僚会合の終了後、記者会見で川口外相が議長として総括を行なった。
このなかで今回の会合は交渉の場でないとしながらも、ハービンソン議長案をめぐって「大きな意見の違いは想定できたこと。このペーパーが触媒となり、いろいろな意見が出て、今後の議論の動機づけになった」と一定の前進があったと評価し、3月末のモダリティ確立に向けて「みんなが責任をもって取り組む」ことが合意できたと話した。
ただし、日本、EUなどと米国、ケアンズ諸国との亀裂は深いことが、会合終了後の主要国閣僚の会見で明らかになった。
米国のゼーリック通商代表は、「関税は最終的にゼロ。前進しなくてはいけない」と完全自由化という「目標は見失わない」と強調。日本のコメの高関税を取り上げ、「米国のコメは日本で売れない。一方、日本は自動車を売る。これはフェアか」と相変わらずの農工一体論をまくしたてたうえで「人口の1.8%の農家のために日本経済を犠牲にするのか」と批判した。
◆「ゼーリック氏は不勉強」
農工一体論は「世界にとって幸せか」―大島農相
ゼーリック通商代表のこの発言について、大島農相は「先進国の農業人口はどこもそんなに多くはない」と指摘し、食料安保、健康、伝統、地域コミュニティの維持、環境など多面的な機能が農業にはあることを強調、「農業を鉱工業製品と同じような貿易ルール、単純な比較優位論だけでマーケットのルールを作るのは本当に世界にとって幸せなことか」と批判した。
また、日本は農林水産物全体で年間7兆円も輸入している最大の純輸入国であるとして「このことが世界の貿易に貢献していないというのは不勉強ではないか。わが国もUR合意に沿ってさまざまな農政改革を行っている。非農産物貿易の発展を阻害していることはないと断定して申し上げたい」と反論した。
EUのフィシュラー農業担当委員も1次案が、非貿易的関心事項に配慮されていないことや、一部の輸出国の主張に偏った内容であると批判。とくにEUが問題視しているのは輸出補助金の扱いだ。一次案では輸出補助金の段階的削減は示されたものの、輸出信用や実質的な輸入補助金となっている国内支持など、「すべての輸出補助の形態が対象になっていない」ことを問題した。
ラミー貿易担当委員は、モダリティについて「バランスのとれたものなることが必要。どこかの国を追い込んで(交渉から)帰ったら批判しかないということはだめ」とハービンソン議長にクギを刺し、「実践的、包括的、バランスのとれたものなるべき」(フィシュラー委員)との立場で「2次案は3月末の期限が守りやすくなる内容を期待する」と語った。
日本、EUは1次案に農業の多面的機能など非貿易的関心事項への配慮がないことを最大の問題点としている。非貿易的関心事項に配慮した貿易ルールをつくることは、「ドーハの閣僚宣言に明確に位置づけられている」(大島農相)ことからすれば、ハービンソン議長の1次案はその原則を無視したことになり、批判は当然だ。
しかし、「交渉の柱は市場アクセス、国内支持、輸出補助金。非貿易的関心事項をこの3つの柱と同じレベルで扱うとはドーハ閣僚宣言では言っていない」(ヴェイル・オーストラリア貿易大臣)との認識を強調する国もあり、今後も農業貿易の基本的な理念について対抗していかなくてはならない。
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米国
ゼーリック通商代表
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欧州委員会
ラミー貿易担当委員
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オーストラリア
ヴェイル貿易大臣
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日本
大島農林水産大臣
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欧州委員会
フィシュラー農業
担当委員
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◆インドが連携を表明
途上国への理解広める必要
今回の会合に参加した途上国はケアンズ諸国が多かったため、1次案をベースにさらに先進国の市場開放につながるモダリティとすべきとの意見が多かった。ただし、途上国のなかでも、小規模で貧しい農家が人口の大半を占めているという現状から、自国の農業、農村を守るための政策を維持する柔軟性が必要との意見もあった。
大島農相は会合期間中、9か国の閣僚と会談したが、そのなかでインドは日本との連携を表明した。シン農業大臣は、大幅な関税引き下げによる自国の農業への影響に強い懸念を示し、大島農相も緊密な連携を築くことを約束、会合の成果だとした。
WTO農業交渉は2月24日から28日の農業委員会特別会合で1次案をめぐって加盟国間で議論される。日本政府はすでにウルグアイ・ラウンド方式による関税引き下げ数値提案もしていることから、改めて独自の案を提出しない方針。「一律・大幅な削減」というハーモナイゼーションの考え方に対抗し、多様な農業の共存に向けて途上国を含めた理解をいかに広げるかが鍵を握る。 (2003.2.17)