JA全農は「顧客を起点とした販売戦略の確立」などを経済事業の中長期的課題として、平成15年度からの3カ年計画を3月27日の総代会で決めた。基本方向は▽誠実な事業運営▽安全・安心な国産農畜産物の提供▽目に見える生産資材コストの削減など6つ。うち「安全・安心」については「JA米」という新しい位置づけのコメを16年産から本格的に取り扱う。これは政府のコメ政策改革により、計画流通米と計画外米の区別がなくなる中で、JAグループが扱うコメの優位性を打ち出していこうとする戦略だ。
「JA米」と呼ぶコメは種子更新率と農産物受検率が100%に近く、栽培暦にもとづく記帳などを基準に生産履歴が追跡(トレース)できるものとする。
17年度はJAグループ全体のコメ取り扱い目標420万トンのうち300万トンをJA米とする計画。15年度はさしあたり100万トンを目指す。種子更新率は15年度の80%から毎年引き上げる。17年度目標は90%。
一方、「JA米」とは別に、より高度に加工・流通までトレースできる「全農安心システム米」の産地は現在13だが、17年度には170産地に増やし、取り扱い量を現在の10倍の10万トンとする目標を掲げた。
このシステムは取引先と合意した基準をもとに履歴を記帳。JAが集荷して農業倉庫に分別保管し、出荷も、ほかの玄米とは分別して取引先の指定精米工場に輸送する仕組み。
果実、乾シイタケ、牛豚肉にも安心システム商品があり、取り扱い高は14年度見込みで合計約33億円。3カ年計画で、これを拡大していく。取引先は大手量販店・百貨店、生協など。
品目別では大豆の契約栽培方式を商談中。青果物はシステム商品を量販店のプライベートブランドにするなどの推進を展開する。
全農は牛肉の生産・流通履歴をデータベースで保管し、インターネットで販売先に情報開示する全農食肉トレーサビリティシステムを昨年開発。15年度中には25県本部・県連が、このシステムに参加の予定。
鶏卵でも今年1月に東日本で「しんたまご」のトレーサビリティシステムを導入。さらにサービス地域の拡大などを検討中。
安全・安心対策では、残留農薬の検査体制を拡充。また簡易分析法の講習会を開催していく。
生産資材価格については営農指導や配送などのサービスをするJAの供給価格が、ホームセンターなどより高くなるため、今年から農薬メーカーとの交渉方式をがらりと変える。
◆地域実態に合わせ価格設定
これまでは、全農が交渉して全国価格を決めていたが、今後は一般的に価格で負けている20品目(主として園芸用)については、ブロックまたは県ごとに交渉して、地域の実態に応じた価格を設定する。
このため各地域で市場実勢価格と販売実態を調査。また交渉の背景となる取扱高は50〜100億円とする。
またJAの一律的な手数料設定を見直し、JAのトータルな収益確保を前提とした販売を検討。商品ごとの柔軟な設定を提案する。
同時に価格競争にさらされないJAグループの独自商品や品ぞろえの優位性を活かした高機能商品を積極推進することにより、JAの粗利益を確保する方針。
一方、輸入低価格資材の取り扱いを強化し、ヨルダン肥料アラジンは、国産の高度化成肥料との価格差を20%から25%に拡大する。
また全農が登録した農薬「ジェイエース」、共同開発した低コスト原紙「AKライナー」やHELP農機などの低価格資材の開発と普及に取り組む。
物流コストの削減では全県で物流拠点構想の策定と見直しを進め、拠点設置を加速する。
◆17年度に利益70億円の計画
3カ年計画の基本方向にはさらに▽販売機能の強化と直販事業の拡大▽JAの営農・経済事業を支援する連合会機能の強化▽経営体質の強化と生産性の向上がある。
取扱計画は14年度が約6兆円だが、米価をはじめとする農畜産物価格の低下などに加え、飼料事業の会社への移管進展や、自動車事業のJA移管などにより、15年度は5兆9908億円と減少。16年度は5兆8682億円、17年度は5兆8717億円とした。
計画初年度と最終年度の比較では1200億円の減少を見込む厳しい内容だ。部門別では米穀事業が初年度の1兆1829億円から最終年度1兆1370億円への減少を見込んだ。
しかし全体として、生産性30%向上と各事業・品目の収支確立を図ることにより当期利益は確保し、17年度は70億円を計画した。
剰余金処分は出資配当2%を計画。17年度には事業利益を黒字化し、特別配当の実施を予定した。事業利益は経済連との統合が始まって以後、赤字に落ち込んだ。経済連は米穀事業の会社化などで事業外収益に比重をかけていたからだ。
要員は統合による管理部門のスリム化、重複業務の排除などで現行から約3000人削減。17年度末には1万500人体制(臨時・パートを除く)とする。
(2003.3.28)