ジュネーブで行われているWTO(世界貿易機関)交渉で米・EUは8月13日(現地時間)、農業分野の共同ペーパーを提出した。
共同ペーパーは(1)市場アクセス、(2)国内支持、(3)輸出規律の3分野にわたって合意の枠組みが示されているが、数値は盛り込まれていない。
関税引き下げについては、つぎの3つの方式を取り入れた「ブレンド方式」とし品目を分類する考え方を示した。
(1)UR方式による削減(平均引き下げ率と最低引き下げ率を決める)、(2)スイス・フォーミュラによる一律削減、(3)無税。
ただし、(1)では、市場アクセスの実質的な改善のために関税割当の拡大も意図しているとみられる部分も含まれており、わが国にとって厳しい枠組みとなっている。そのうえで同ペーパーでは、この3つのグループの割合をそれぞれ何パーセントにするかを今後の交渉課題としている。
現実的に考えれば、各国は重要品目である高関税品目は(1)のUR方式、中程度の関税品目は(2)の一律削減、そして低関税品目を(3)の無税、とすると考えられる。
その一方、同ペーパーには関税上限を設定するという考え方も盛り込まれた。
そして、上限を超える品目については(1)上限まで削減する、(2)リクエストオファー方式(関心のある2国間での交渉など)で関税割当などの拡大をする、のどちらかの方法で追加的な市場アクセスを確保しなければならないこととした。関税上限の数値については今後の交渉課題となる。
数値は示されていないものの、日本の場合、米などの高関税品目をUR方式で引き下げたとしても、上限関税を超えていれば、そのレベルまで引き下げるか、引き下げなければ米国や豪州など米の輸出国の申し出に応じて、関税割当数量の拡大を交渉しなければならないことになり、WTOの枠組みに2国間交渉の要素が入ることになる。
また、同案では明確ではないものの、重要品目についてUR方式で関税削減と関税割当を組み合わせてアクセス数量を拡大しても、その品目の関税が上限関税を超えていれば、さらに追加的なアクセス数量の拡大が関心国から求められるという方向を意図しているのであれば、日本にとってとても受け入れられるものではない。
同案は、UR方式を取り入れるという柔軟性を示したとはいえ、同時に関税上限の設定というルールもあり「わが国の稲作農業にとって重大な影響がある」(農水省)要素を含んでいる。
◆亀井農相「問題がある」
一方、国内支持では、ウルグアイ・ラウンド合意の20%削減よりも大幅な削減を行うとし、「黄」の政策について総合AMS(助成合計量)方式で削減する方向が示された。
また、これまで生産調整にともなう直接支払いとされた「青」の政策について、生産調整の要件をはずした。その代わりに約束期間の終了時までに「農業生産額の5%を超えないよう」削減するという金額の規制を提案している。
わが国の場合、農業生産額の5%は約5000億円。現在、「青」の政策として位置づけられている予算額は約1000億円。この点では影響の少ない案となっている。
また、輸出規律では、一定の同じ品目について輸出補助金と輸出信用ともに撤廃することとなっている。残りの品目については削減するという内容だ。
◆日本 上限設定に反対
亀井農相は関税上限の設定など、「わが国の農業の現実からみて問題がある内容だ」として、日本の立場が交渉結果に反映されるよう強く主張していくとの見解を14日に公表した。
WTO農業交渉は8月18日から高級事務レベル会合が開かれたのち、25日の一般理事会で9月のメキシコ・カンクンでの閣僚会議の宣言案づくりをする予定になっている。
米・EUは共同ペーパーをもとに枠組みだけを決め、カンクン閣僚会合後に数値の議論に移りたいという意向を持っている。
日本は「途上国など諸外国の動向を十分考慮するとともにフレンズ国と緊密な連携をとる」(亀井農相)方針。途上国には同案を枠組みとして認めるかどうかの議論も出ているという。日本は関税上限の設定に反対するほか、同案を議論のベースにするかどうかも視野に入れ交渉に臨む。 (2003.8.15)