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水田農業ビジョン策定の山場は年末年始の集落座談会
促進指導避ける農水省 “金太郎アメ”を警戒 (12/4)

 今年の年末は、農村部の集落座談会で水田農業ビジョンが話し合われる。構造改革をどう進めるかがテーマだ。それは「突き詰めれば日本の農政をどう考えるかということだ」と農水省の渡辺好明事務次官は課題の大きさを指摘する。具体的には、水田の多様な活用による新たなコメ産業の展開や、担い手の育成など。
 ビジョンは市町村、JAや農業委員会、消費者団体などで構成する推進協議会がまとめる。内容について米政策改革基本要綱は、既成の計画の焼き直しや関係団体の作文にならないようにと釘を刺し、そのためには「集落などの地区段階で十分な議論が必要」として議論をベースに各地域の自由な発想を盛り込むように求めた。年末年始の地区の集まりはビジョン作りの大きな山場ともいえる。
 来年3月末までに策定、それを都道府県が認めれば来年度から国がビジョンの推進を支援する産地づくり推進交付金を出す。これは現行の水田農業経営確立対策などに代わる助成金だ。
 「交付金の予定額がわからないから、ビジョン策定は難しい」との声もある。しかし要綱は交付金の活用方法を地域裁量に任せている。このため農水省は「あくまで地域の物差しで裁断してほしい」という。また画一化を避け、ビジョンを書く様式も示していない。
 そのためか策定は遅れ気味。しかし同省は上からの促進指導をせず、下からの内発性を待ち、地域提案型にする方針だ。渡辺次官は「あくまでボトムアップでいく。初めてのことでもあり、見守っている」と我慢を語る。
 これにからんで昔、民俗学の柳田国男が名著『時代と農政』の第一章「農業経営と村是」で、村是は村全体の協議に図るか、当局者自身が作成しなければならないのに、専門家(今でいえばコンサルタント)の手で様式欄に記入させたようなものが多い、と批判した例を梶井功・東京農工大学名誉教授が挙げた。
 これは本紙が企画した渡辺次官との対談で同教授が例に引いた話題(本紙1895号)だ。一時、農商務省の役人をしていた柳田国男には農政論がある。
 村是批判の部分を要約すると、村是調査書には1つの模型があり、経済的疑問を抱く農業者自身が討議したものではなく、村々から頼まれた専門家が記入したようなものが多いから、どんな農業経営法を採るのがその村の利益になるのか、村別の答えは出てこない、と論じている。
 その後も机上プラン作成は後を絶たないが、さて水田農業ビジョンはどうなるか、渡辺次官は12月4日の記者会見で、ビジョン策定を企画会社に外注しているようなケースは「全く聞いていない」と語る。
 策定の進行状況は、全国の市町村の87%が策定に取り組んでおり、残り13%の中でも、その半数は年内に素案を作る、とのことだ。8月の調査では63%の取り組みだったから、かなりの進展を見せている。
 ビジョンの要点には、集落などの合意に向けた話し合いによる担い手の明確化があるが、11月上旬の調査では22%が担い手リスト作成に着手したという。
 中でも岩手県は集落単位のビジョンを策定する方針で、県がその支援組織をつくっている。うちJAいわて花巻は、すでに6月から策定の集落座談会を開いてリストアップ。来年2月にまた全員の意見を聞き、3月には全集落でビジョン策定を終了する予定だ。ほかにも全国にはモデル的な推進協議会やJAが多い。
 なお農水省は11月末に産地づくり対策交付金の都道府県別予定額総額1445億円を示した。 
(2003.12.10)


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