個別国間で互いに関税の撤廃などを実施する自由貿易協定(FTA)を結ぶ交渉が計8カ国との間で来年から本格化するため農水省は、これらの交渉を並行して進めようと亀井善之農相を本部長とする「FTA本部」を設け、11月14日の初会合で体制整備や交渉の進め方を確認した。
本部の下に、実務者レベルで国別に交渉に当たる5つの「FTAチーム」を置くのが特徴で、相手国・地域は韓国、タイ、フィリピン、マレーシア、アセアン(ASEAN)だ。全般的には「交渉戦略検討会」が戦略を構築する。
交渉を一つずつ片づけていくのではなく「重なり合った形で複数国と並行的に進めるほうが交渉力を強めることになる」(渡辺好明農水事務次官)という戦略だ。したたかさを見せたメキシコとの交渉経験などを踏まえた方式。
メキシコとは10月の閣僚級交渉で日本側が豚肉輸入などで大幅に譲歩したが、最後の段階でメキシコ側がオレンジジュースの輸入枠枠拡大などで突然過大な要求を持ち出したため交渉は決裂した。また同国は自動車部品や鉄鋼など日本が輸出する多くの工業製品で例外を主張し“戦線を拡大した”という。
日本経団連やマスコミはFTA推進の壁は農産物の高関税にあると農業鎖国論を繰り返しているが、メキシコの真意は工業製品の例外化にあり、オレンジジュース問題を決裂の要因とするのは皮相な見方だとする見解もある。
同国は免税となっている食料品にも消費税をかけ、工業製品にかかる消費税率を下げるという税制改革案をフォックス大統領が最近発表したが、これは同政権の姿勢を表すものとする指摘もある。
韓国とは10月の日韓首脳会談で、05年内に実質的な交渉を終える目標で合意。12月下旬に第1回の交渉会合を開くことで調整中。
アセアン全体とは10月の日本とアセアンの首脳会議で経済連携の「枠組み」について署名。05年初めからの交渉開始に努力中。
タイ、フィリピン、マレーシアとは、すでに産学官研究会を開催している。12月11、12日に東京で開く日本アセアン特別首脳会議の際に、日本と3カ国との首脳会議を個別に持って、それぞれ交渉開始について話し合う予定だ。
なお台湾とは昨年6月に経済人会議の中の検討会、インドネシアとは今年9月に政府間の予備的協議がそれぞれ行われ、事前検討の段階に入っている。
◆相手国農協との交流を強める全中のFTA対策
JAグループはFTA対策で▽関税撤廃には例外品目を設け▽撤廃する場合は対応策を講じることを主張し、今春から首相をはじめ政府、国会議員らに要請を続けている。11月11日のJA全中理事会では当面、相手国の農協など民間レベルの話し合いを進め、連携して政府に働きかけていく方向などを協議した。
韓国の農協中央会とは、さらに連絡を密にし、互いに訪問して交流を深める方向を確認した。
タイとの産学官共同研究会はメンバーにJA全中の山田俊男専務が加わり、日タイ農協間の協力の経過を踏まえ、農産物貿易との間でどのようにバランスをとっていくべきかの議論を続けていると報告があった。 またJAグループなどがつくった(財)アジア農業協同組合振興機関(IDACA)で研修を受けた“卒業生”がタイ国政府や協同組合連盟などの要職者になっているというつながりも活かしていく方向だ。
フィリピンでも同じく協同組合のトップにいるIDACAの卒業生と話し合って連携していく。
(2003.11.26)