フォックス・メキシコ大統領の来日に合わせ妥結をめざしていた日本・メキシコの自由貿易協定(FTA)交渉は、10月16日午後の閣僚折衝の結果、合意を見送った。予定では11月に事務レベルの協議日程が組まれているが再開されるかどうかは不明だ。
昨年11月から始まった両国の協議で、日本は10月初めまでに農産物では(1)約300品目の関税撤廃、(2)豚、鶏、牛、オレンジ、オレンジジュースなど重要品目は関税撤廃をしない再協議品目とすることなどをメキシコ側に提示していた。
来日したカナレス経済相との閣僚折衝がスタートしたのは、13日夜。日本は川口外相、亀井農相、中川経産相の3大臣が折衝にあたった。事務レベルの交渉での提示案は、メキシコからの輸入農産物の96%(金額ベース)でカバーしたものであり、さらに関税撤廃の期間短縮という譲歩案もすでに示していることから追加的な譲歩はしない方針を農水省は強調していた。
しかし、閣僚折衝でメキシコ側は豚肉など再協議品目についても輸入枠設定などを要求。これに対し日本は「分野を特定するのではなく全体のメリットを勘案すべき。メキシコの対日輸出品はすでに70%が無関税。一方、日本からの輸出品の80%に関税が課せられている」と反論。また、亀井農相は日本の養豚農家は経営合理化を進めているが環境問題への対応などきびしい状況にあることを説明した。
しかし、翌14日夜から15日未明にかけての協議で合意をめざすために日本は豚肉で高価格品(キロ393円超)にかけられている関税を現行の4.3%から半分に引き下げ、5年間で7.5万トン(現行輸入量約4万トン)とする譲歩案を、さらに翌16日の未明にはオレンジジュースでも無税枠の設定を提示したようだ。
◆再協議のスタート地点白紙に戻し検討も
農水省によると16日未明までに日本が示した案にほぼメキシコ側も受け入れを表明したという。そして、小泉、フォックス両首脳会合での折衝継続の指示を受け、同日午後から最終合意をめざした。
しかし、メキシコがその場で要求したのはオレンジジュースで1万トンもの無税枠設定だった。「最後に想像を超える数字が示された。みかん農家のことを考えると限界を超える。できるかぎりの努力をしてきたが受け入れることはできない」(亀井農相)と判断、「やむを得ず交渉妥結に至らなかった」(同)。
記者会見で亀井農相は、メキシコ側の要求として、現在輸入実績のない牛や鶏などについても「3万トン、4万トンなどいろいろな分野で理解できないような数字が出てきた」と語った。
一方、豚肉やオレンジジュースで当初の方針とは異なり、日本側は最後にハードルを下げる譲歩も行ったが「役所の限界を超えることも判断した」と亀井農相自身が判断したことも明らかにした。
ただ、今後の交渉について農相は17日の会見で「(合意に至らなかった)残った分だけ合意をめざすわけではない」と語り、今回の提示案も見直し「あくまでもパッケージ(全体)として考える」と強調した。
◆鉱工業分野も妥結の障害?
最終局面でメキシコが日本がとても受け入れられないような「大幅にハードルを上げた」のはなぜか。
亀井農相が会見で「想像を超える」「限界を超えた」「理解できない数字」などと繰り返したように、メキシコ側には16日未明の段階から急激な変化があった。
そのため「農産物で日本がとてものめないような内容を突きつけた。メキシコ側に妥結をつぶす意図があったのではないか」との声も農水省にはある。
今回の交渉では鉄鋼や自動車など鉱工業品の関税撤廃などがメキシコに求められる。それは日本の産業界の要求だ。しかし実際には、協議の過程でメキシコ側がこの分野で調整がつかず、そこで妥結を避けるため農産物で要求をエスカレートさせる形をとったのではないかということだ。WTOカンクン閣僚会議が示したように包括的な貿易交渉にとって必ずしも農業だけが障害になっているわけでないということだ。
産業界には早期妥結を望む声が多いが、メキシコとEUのFTA締結も3年間かかっている。むしろ1年間で農業分野がこれほどまで協議が進展したことについて「自由貿易協定締結にとって農産物が決して障害にならず交渉が進められるということを示した」と農水省関係者は指摘する。
(2003.10.22)