政府は11月21日、全閣僚が参加する「食料・農業・農村政策推進本部」を開催し今後の農政改革の推進について議論した。
会合では亀井農相が今後の農政改革の方向について説明し、意見交換のあと、小泉首相は「やる気と能力のある経営を後押しし、消費者、生活者の視点に立ち、食の安全と信頼を確保することが必要。改革の道筋をつけグローバル化のなかで過度に国境措置に依存しない体制をつくってほしい」と指示した。
同本部は食料・農業・農村基本計画を政府全体で推進するために設置されたもので、第1回は現在の基本計画が閣議決定された後の12年4月に小渕首相を本部長として開催されている。
今回は基本計画の見直しにあたり各省庁との連携が必要なことから開催された。
■プロ農業経営に支援集中
亀井農相が同本部で説明した農政改革の具体的方向では、(1)プロ農業経営の維持・発展のための支援の集中化・重点化、(2)多様な担い手の参入促進など担い手・農地制度の再構築、(3)環境や農地・水等の保全のための政策の確立の3本を柱に掲げた。
「プロ農業経営」とは農水省によると「食と農の再生プラン」などで示されている、いわゆる「効率的・安定的な経営体」だという。地域水田農業ビジョンづくりでは、集落で担い手を明確化することが求められているが、たとえば、水田農業ではそうした担い手へ支援を集中することで、プロ農業経営が生産の大宗を占める構造をめざす考え。また、合わせて新規参入などの促進ができるよう耕作放棄地利用など農地制度も改めて見直す方針だ。
ただ、同時に水田農業では水管理など地域で共同して作業に取り組むことで、農業生産の維持や環境が保全されていることから地域資源の保全のための支援策も導入する。
具体的な施策としては、EUで導入されている直接支払いがベースになる。プロ農業経営については経営全体を対象にして品目横断的な支援に切り替える方針。また、地域資源を支える取り組み対しても直接支払いを考える。
支援の集中化に対しては、地域で担い手の選別が行われる、との受け止め方もあるため「施策の集中化、重点化と地域資源維持ための施策はセットで導入しなければならない」(渡辺農水事務次官)との考えだ。
また、推進本部では、一方で農業改革を国民が実感できる小売価格の実現のためには流通改革など物価構造の是正も必要だと強調した。
■合理的な国境措置は維持
このような構造改革の実現を通じて「過度な国境措置に依存しない農業」をめざすことを打ち出したわけだが、現在、日本の農産物平均関税率は12%。米国は6%だが、EUは20%だ。現在でも過度に国境措置に依存しているかどうかという指摘もある。
農水省はメキシコをはじめFTA交渉が韓国などとも本格化するなか、農業分野については「最終生命線は、国内の地域農業が立ち行くかいかないか。(交渉妥結で)影響が出てから国内対策を打つのはよくない」(渡辺次官)との姿勢で臨むとしているほか、WTO交渉でも「合理的な国境措置は維持する」(同)としているが、政府全体としてこうした認識が浸透しているのかどうか、さしずめ具体的なFTA交渉などの姿勢に注目しなければならない。
農政改革を含めた食料・農業・農村基本計画の見直しは17年3月末をめざして年明けから議論がスタートするが、「参加、透明性、納得」(亀井農相)がキーワードだという。現場からの積極的な議論の巻き起こしが望まれる。 (2003.11.26)