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「FTA交渉の現状と課題」をテーマに食料・農林漁業・環境フォーラムの学習会(20日、東京都内のホテル) |
自由貿易協定(FTA)はメキシコとの交渉が終盤に入った。次官級協議を昨年11月から今年1月まで積み重ね、農業分野では双方の理解が近づいたという。あとは工業分野でメキシコ側の国内調整を残すが、同国は3月合意を目指している。一方、タイ、韓国との間でも2月から政府間交渉が始まり、合計5カ国が相手国となった。
こうした情勢を受け「食料・農林漁業・環境フォーラム」は2月20日、都内でFTAをテーマに学習会を開いたが、JA代表ら参加者からは「交渉は各国の食料自給率を高める観点に立っていない」などの意見や疑問が出た。
これに対し農水省の豊田育郎国際調整課長が「自給率向上のために(関税撤廃の)例外品目を設けたり、引き下げの影響をカバーする経過期間を確保できるようにしている」と答えるなどのやりとりがあった。
「日本の場合、FTAは農畜産物の輸入拡大、工業製品の輸出拡大という構図だから、積極的に交渉するというスタンスを見直すべきではないか。またFTAで打撃を受ける農業分野に対して、工業分野の利益を還元する方法を考えてはどうか」との意見もあった。
これについて豊田課長は「利益再配分の仕組みができればよいと思うが、利益は輸出企業だけでなく国民全体に及ぶから、その金額がわからない。また『再配分でカバーできるのなら、農畜産物市場を開放してもよいではないか』との論拠を相手国に与えることにもなる」と説明した。
一方、交渉の現状では、日本側の攻勢を恐れるメキシコの鉄鋼や自動車の業界がFTAを望まず、鉄鋼業界が農業界をたきつけてオレンジジュースの輸出拡大という要求になったのではないか、との事情も話題になった。このためメキシコ政府は、工業分野を中心とした国内調整に迫られているという。しかし次官級協議で両国ともに、お互いの譲れない主張に対する理解が深まっているとのことだ。
また、メキシコの豚肉は10社ほどの養豚大資本が輸出しており、自由化は、飼料や加工を含めた米系資本の利益になるなどという実態の指摘もあった。
一方、日本とタイとの交渉も始まったが、米国もまたタイとのFTA交渉を開始すると発表した。米国は投資協定に熱心だが、タイ側が日米両面作戦をどう展開するかが注目される。
学習会では豊田課長が現状と課題、またJA全中の冨士重夫農政部長が「東アジア諸国とのFTAに関するJAグループの考え方」を説明した。
東アジアでは、韓国、タイ、マレーシア、フィリピンとの政府間交渉が始まったが、冨士氏は、FTAをアジアの農村の貧困を解消する機会としてとらえるJAグループの考え方を強調した。自由化だけでなく、農業者の所得向上に向けた農村開発など農業協力とのバランスをとる考え方だ。
協定に至る過程では政府間交渉に入る前に産学官共同研究会を開くが、JAグループは韓国、タイ、フィリピンとの同研究会に参画し、意見を表明した。
政府もタイとの交渉では農業協力とのセットで考えることを主張した。タイ側はコメや鶏肉などの関税撤廃を求める一方、農業協力への期待も示したという。 (2004.2.25)