農業協同組合新聞 JACOM
   
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農政課題をディスカッション
−食糧政策研が25周年記念シンポ (9/11)

■直接支払いで自給率向上実現できるか

食料・農業政策の再建をめざして
 食糧政策研究会(代表幹事/千葉燎郎・元北海学園大教授、三国英実・広島大名誉教授、河合一成・東北大名誉教授)は9月11日、設立25周年記念シンポジウム「食料・農業政策の再建をめざして」を東京都内で開いた。
 シンポジウムでは、WTO農業交渉や米政策改革、基本計画見直しをテーマに研究者の報告をもとに議論した。
 九州大の村田武教授はWTO農業交渉と農政改革について報告。日本では現在、直接支払い制度の導入を検討し、WTO協定上、削減対象外の「緑」の政策への転換を図ろうしている。
 しかし、村田氏は「そもそも日本は削減対象である『黄』の政策で、削減額を超過達成するような対応をして、今後、品目別対策を打ち出せない状況に追い込まれ緑の政策に移行せざるを得なくなったということ。国内政策の枠組みを自ら壊した」と強調。そのうえでEUを例に直接支払い制度の問題点を指摘した。
村田武 九州大教授
村田武 九州大教授
 直接支払い制度は、価格低下分の所得を補償する制度としてスタートし、今後は、農産物それぞれに規定されていた支払い額を農場単位の支払いに転換していく。生産と補助金の関係を断ち切ろうとする方向だ。
 同時に耕作放棄を防ぐために要件に厳しい土地管理を義務づけている。さらに今後は農村開発財源を得るために直接支払いの段階的削減も導入される。
 村田氏は農場単位の直接支払いの導入によって、EUでは大規模農家に有利に働き中小農家の離農が起きていると指摘。不公平感も増しているという。また、面積当たりの直接支払い導入によって、農家は受けた直接支払いを地代に転換する傾向も生まれてきている。
 EUでは過剰生産対策として導入した側面があるのに対して、日本は自給率向上が課題となっている。対象を絞った直接支払いによって構造改革を実現するのではなく、食料自給率目標が達成できるかどうかがこの制度導入の成否だと村田氏は指摘、品目ごとの支持政策も重要だと強調した。

■政策矛盾を「米生産のあり方」に転嫁

北出俊昭 明治大教授
北出俊昭 明治大教授

 明治大の北出俊昭教授は米政策改革の問題点を報告した。
 米政策は、生産調整面積が拡大していたにも関わらず在庫が増加し、さらに生産調整面積を拡大させると未達成者、地域が増えアンバランスが生じた。一方で価格の低下は依然として続くという状況にあった。
 こうしたなかで打ち出された米政策改革は「米づくりの本来あるべき姿」を掲げているが「それはこれまでの政策の矛盾を米の生産のあり方に問題ありと転嫁したもの。しかも一層の米価引き下げをめざしている」。また、需給調整も農業者・農業団体が主役となるシステムをめざすことになっているが、これは政府の役割と責任の放棄であり需給不均衡が拡大する可能性が高いと指摘したほか、MA米の影響についてまったく言及していない不備も強調した。
 こうした分析から現在は、米価低落による農業全体の危機が深刻化していると認識すべきだとして、日本農業の発展は「価格・所得対策の充実が鍵」だと提言。
 産地づくり交付金をはじめとする価格・所得対策は農家や地域による差別をなくすことや、再生産確保を基本とした保障、さらに価格下支えの機能を果たす一定価格による無制限買い入れ制度が求められていることなどを提言するとともに、変革の主体となる農協組織にも期待が高まっていると話した。

■品目別政策の検証を

 東北大の河合一成名誉教授は企画部会の「中間論点整理」について報告。株式会社の農業参入の検討など農業構造改革を効率的に行うことや、価格支持制度の廃止、食品産業との連携強化の名のもとによる農業の従属化などが重点になっているとして、自給率の向上や家族経営の再生などの課題が視野から遠ざけられていると指摘。家族経営、兼業農家など全農家が担い手になれる政策など、自国の主権確立の観点で政策を構築する必要があることを強調した。
 パネルディスカッションでは、“これまでの転作助成政策に検証を抜きに直接支払い制度を導入はすべきでない”“担い手集中政策で農業を守れるか”“自給率向上には価格支持政策の必要性を改めて認識すべき”といった意見が出された。
 1979年に発足した食糧政策研究会はこの日のシンポジウムで活動を休止することにしたが、懇親会ではそれぞれの立場で今後も政策提案に取り組むことを確認した。

(2004.9.21)


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