農業協同組合新聞 JACOM
   
農政.農協ニュース

消費者の理解が前提
−BSE検査と貿易再開 (7/23)


 日米BSE問題で専門家のワーキンググループが、若齢牛について現在の検査方法では異常プリオンの検出は「ありそうにない」との見解などを7月22日にまとめたが、亀井農相は23日の記者会見で「全頭検査とSRM(特定危険部位)の除去は基本的なこと」と話し、消費者の信頼を損なうことがないよう「食の安全、安心を大前提」にこの問題に対処することを改めて強調した。
 ワーキンググループの報告書は5月から3回行われた協議の結果、日米間の一致点と相違点をまとめたもの。
 SRMの除去は人の健康確保の上で非常に重要であることや、と畜、解体過程で交差汚染が起きないように除去すべきことで見解が一致した。ただし、実際の体制では日本はすべての牛からSRMを除去しているが米国は30か月齢以上に限っているという違いがある。

◆月齢での線引きは困難

 検査については若齢牛については、「現在の検査法では蓄積された異常プリオンたんぱくの検出はありそうにない」との見解で一致した。
 ただ、具体的な牛の年齢について議論はされなかった。会見で品川森一(独)動衛研プリオン病研究センター長は「いったいいつから検出できるか分からない。個体差もあり、ある時期、としか言いようがない」と話した。検査で検出できないといっても当然、それは安全であることを保証するものではなく、「少量でもプリオンがあればvCJD(変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)感染のリスクはある」(品川氏)のだ。
 日米協議で双方の溝が埋まらなかった最大の点は、BSE検査の目的。
 日本は食物連鎖からBSE感染牛を排除するために出荷される牛すべてを検査し、感染牛は廃棄処分、検査で陰性であってもSRM除去という二重の体制をとる。これによって食肉の安全を確保している。
 一方、米国はBSEの国内の浸潤状況を調べるサーベイランスがBSE検査の目的としている。日米協議で日本側は食肉の安全確保のため市場に出荷する牛のBSE検査の実施を求めたが、米国は姿勢を変えなかった。
 米国はサーベイランスとSRMの除去でBSE対策は十分との立場だが、そのサーベイランスについても日米で見解は一致していない。
 米国は12か月から18か月間のサーベイランス期間を設けるとしているが、日本では潜伏期間を考えるとその期間の一回限りのサーベイランス実施では有病率の正確な把握は困難だと継続的な検査の必要性を主張した。また、飼料規制が実効性があるのかどうかも引き続き検討することになっている。

◆不透明な米の品質保証制度

 3回めの協議で米国は、農務省農業販売促進局(AMS)の品質保証プログラムを説明、これによって日本の要求を満たした牛肉であることを証明できる、と説明した。
 この制度は民間企業が実施する品質保証プログラムを農務省が証明するというもの。日本が輸入する場合、安全確保のための条件は日本が要求する。その要求を満たしているかどうかを農務省が証明するという。しかし、何を根拠に日本の要求条件が満たされているかを証明するのか不明だという。
 たとえば、日本は食肉安全確保のためのBSE検査を要求したとしても、米国は基本的にサーベイランスしか行わない方針なら、ほかにどのような安全確保策がとれるのかという疑問が出るだろう。全頭検査はもちろん市場に出荷する牛に対してのBSE検査は実施せず、SRMの除去だけで安全確保は十分と考える米国との根本的な違いをどう乗り超えるのかは見えてこない。
 
◆焦点の食品安全委の議論

 日米BSE協議では貿易再開に向けて夏までに結論を出す努力をするとしているが、亀井農相は「重要なことは食品安全委員会で十分に議論しているところ。あくまでも国民の健康保護が重要。食品安全委員会の議論を注視している。そのうえで米国と協議していかなければならない」と語った。
 食品安全委員会は7月16日、若齢牛からは現在の検査法では検出できないことがあるなどの内容の報告書のたたき台を示した。日米協議とは別に検証作業を行ってきたが、その結論は貿易再開問題に大きな影響を与える。同委員会は内容についての国民とのリスクコミュニケーションを8月4日に東京で実施、その後、消費者の意見をふまえて報告書をまとめる作業に入ると見られるが、まとめは9月にずれ込む可能性もある。
 食品安全委員会はBSE発生をきっかけに昨年設立されたもの。国民の健康保護を最優先するとの理念で食の安全確保対策を検証している。委員会設立のきっかけになったBSE対策の検証だけに今後の議論が一層注目される。 (2004.8.2)



社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。