わが国のBSE対策を検証している食品安全委員会プリオン専門調査会は9月6日、中間とりまとめを行った。
7月に示された中間とりまとめの「たたき台」では、現在の検査法では、異常プリオンたんぱくの蓄積量が少ない場合には陰性になる、と検出限界があることを認めたが、それが何か月齢の牛に相当するのかは示していなかった。
この日提出されたとりまとめ案では当初、「20か月齢以下の感染牛を現在の検出感度の検査法によって発見することは困難」との記述が入っていた。
しかし、委員からは「これまでの全頭検査では20か月齢以下の感染牛は見つかっていない、ということが言えるだけ」、「数字では割り切ることがなかなかできない」など科学的ではないとの意見が相次ぎ、結局、検出限界の具体的な月齢を記述した部分は削除することになった。
とりまとめ案の修正は吉川座長と金子座長代理に一任されたが、最終的には以下のような記述が盛り込まれる見通しだ。
(1)これまで約350万頭の検査によって11例の感染牛が発見され、そのうち2例は21、23か月齢。このことから21か月齢以上の牛については現在の検査法で感染牛が確認される可能性がある。(2)21、23か月齢の感染牛の異常プリオンたんぱく量は他の感染牛と比較して500分の1から1000分の1。現在の検査法の検出限界に近い値だった。(3)これまでの検査では20か月齢以下の感染牛は発見されていない。(4)若齢牛については現在の検査法の検出感度では発見することは困難と考えられる−−。
つまり、一定の月齢に検出限界があることは認めるが、その具体的な月齢は示さない。多くの報道にあるような「20月齢以下の検査は除外しても安全性に問題はない」といった判断を専門調査会が下したわけではない。
また、「たたき台」で示したように「検出限界以下の牛を検査対象から除外するとしても、現在の全月齢を対象にした特定危険部位(SRM)除去措置を変更しなければリスクは増加しない」という記述も残るが、これは「検出できない対象をいくら検査しても意味がない」ことを指摘しているに過ぎない。とりまとめは多くのマスコミが報道するような、全頭検査緩和を促進する内容とはいえないものだ。
吉川座長はこの日も記者会見で「調査会では検出限界がどこにあるかを議論してきたもの。たとえば、20か月齢以下の牛は安全か、危険かという問題(を議論してきたの)ではない」と強調した。
そのほか、検査法の改良をふまえて検出限界の改善についても研究が進めるべきことや、SRMの適正な除去、飼料規制のチェックが引き続き重要であることも中間とりまとめは指摘している。
■科学的根拠はあるか?
農水省の石原事務次官はこの日の会見で「とりまとめは20か月齢以下は検査しなくていいということではないと思う。専門家が客観的な事実関係を整理したということ。しっかり分析し厚労省と十分協議してリスク管理の方向を考えていく」と述べた。
両省がBSE検査体制の見直しをする可能性はあるがその場合には、食品安全委員会の意見を聞かなければならないことになっている。吉川座長はかりに20か月齢以下を検査対象から除外するとの案が示された場合、「(それで安全性が確保されるかどうか)分からない。議論するしかない」と科学的根拠は改めて検討しなければならないとした。同時に「日米協議や検査体制のコストベネフィットなどの問題とは一線を画し独立してリスク評価する」と述べている。
一方、石原事務次官は牛肉貿易再開に向けた日米協議について「米国側の関心事項だが、これは食の安全・安心の問題として考えるべき。国内体制が整わなければ協議できない」と話し国民の理解と納得が前提との考え。
報告書は9日にも予定されている食品安全委員会に報告される。その後、同委員会と農水、厚労省は国民とのリスクコミュニケーションの場を設けることにしている。
全頭検査継続を求める声は強い。食への信頼回復のために理解の得られる手順を踏み議論を尽くすことが求められている。 |