不利な条件の地域でも農業生産を継続できるように支援をする中山間地域等直接支払制度の効果などを検証してきた農水省の検討会(座長=佐藤洋平・東京農業大学教授)は8月13日、同制度は耕作放棄を防ぎ、また水田耕作による水源かん養など多面的機能の維持に役立っているとの評価をまとめた。課題としては農作業の受託組織の設立など将来に向けて農業生産を続けるための取り組みは一部にとどまっており、耕作放棄を引き続いて防いでいくためには担い手育成などが重要であるとした。
◆制度継続へ見直し
この制度は平成12年度に導入。農政史上初の試みなので広く国民の理解を得るため第3者機関の中山間地域等総合対策検討会を設置、実施状況を点検してきた。
また実施期間が今年度までの5年間であるため、検討会は今春から総括にかかり、この日、報告書をまとめた。同省は報告が指摘した課題などをふまえて制度全体を見直し、来年度以後も制度を継続する方針。
検証によると、交付金の活用の仕方は集落協定によるが、共同活動(の経費など)に半分以上を配分する協定が一番多く77%、全部を当てる協定が9%、反対に全部を個人に配分する協定も2%ある。
これについて検討会は、話し合いにもとづいた集落協定による仕組みが地域の創意と工夫を生み出し「集落機能の活性化に寄与している」と評価した。
◆多面的機能増進も
「集落協定等」の締結数は3万4000。うち約2%が個別協定で、締結者は認定農業者が8割、農業生産法人が約1割だ。これについては、集落協定の締結が困難な飛び地などで個別に締結されるなど「集落協定の補完的な役割」を果たし「認定農業者や法人などの規模拡大にも役立っている」との評価になった。
耕作放棄の発生防止については、この制度によって、66万2000ヘクタールの農地で生産活動などが行われ、水路や農道の共同管理が充実するなど「耕作放棄の防止と復旧などの効果が生じている」と評価した。
この制度がない場合、約1万3000〜3万ヘクタールの耕作放棄が発生すると推計、それを農地に復旧する費用は806〜1860億円程度という試算も挙げた。5年間の交付額は約2550億円と見込まれるため、効果は大きいとした。 また生産活動などで多面的機能が維持されるだけでなく、その増進につながる取り組みの促進にも一定の効果があったと評価。国土保全機能を高めるほか保健休養機能を高め、さらに自然生態系の保全に役立つ取り組みを一層積極化することも提言した。
◆「将来像」が課題
一方、将来に向けた農業生産活動の継続に対する集落のステップアップが漸進しているとの評価もした。
とはいえ、多くの集落協定では生産活動の継続に向けた動きが見られる程度で5年間継続という交付金の基本的要件は達成しているものの、将来に向けた軌道に乗り切れない協定もあり今後、過疎化と高齢化が進む中で集落の生産活動をどう位置づけていくかが課題となると指摘した。
中山間地域は国土面積の69%と比重が大きく、耕地面積の42%、総農家数の43%、農業産出額の37%を占めているが、12年度までは平地に比べ耕作放棄の増加が著しかった。
販売農家の1戸当たり農業所得は10年が平地の65%だったが、14年度は56%と大きく減少している。 (2004.8.17)
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