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シリーズ 卸売市場を考える(3) 座談会−2
卸売市場のビジョンを描くために
―基本的な機能を再検討する―

卸売市場がもっているもっとも優れた機能
――代金決済機能

 


◆金融機能を担う仲卸・代払組合 ―量販店と市場の決済サイト

 原田 農協が独自に量販店や生協などに販売する努力をしていますが、一番ネックになるのは代金回収です。卸売市場に委託すれば相場で売れて間違いなく3日くらいで代金回収ができるわけです。なぜ、こういう決済方法になったのでしょうね。

藤島廣二氏
藤島廣二氏

 藤島 生鮮品は、買った人がすぐに消費してしまいますから、後でお金が払えませんといっても耐久財のように商品を回収できませんから、当然といえば当然のことですね。
 欧米やほかの国でも、生鮮品の代金支払いはけっこう早いですね。即日に支払わないと次からは売りませんという国もけっこうあります。例えば、南アフリカでは、非効率的な方法ですが、自分が買いたいものを決めると代金支払所へ行って代金を支払い、その領収書と品物を交換するという方法をとっています。オランダでは、買参権をもっていない人も買いに来れるんですが、その人たちはその日のうちに代金を支払います。これが基本だと思いますね。

 原田 八百屋さんが買い手の場合は現金で回っていたわけですが、量販店が大きなウェイトを占めるようになって、月に2回とか3回の決済しかしないようになると、現金が仲卸と量販店の間で途切れるわけです。それでも卸会社は3日で決済しているわけですね。

 森口 仲卸が量や価格の調整機能を果たすと同時に、金融機能も果たし支えているわけです。仲卸を含めて買参者は、代払組合といわれる互助組織でそれを担っているわけです。
 代金決済機能は、消費者からはほとんど分からないと思いますが、生産者や関係者からみれば、卸売市場がもっている一番評価できる機能ですし、すごい仕組みですね。しかし、素晴らしい仕組みだけに、産地がお金は入ってきて当たり前と考え、安易になることはあります。

◆代払制度が崩れれば市場機能は低下 ―岐路にたつ代払組合

 原田 しかし最近は、量販店のウェイトが高くなるなかで、どのように運営するかが代払組合で大問題になっています。代払組合が十分機能しなくなったときに卸売市場の代金決済機能が問題になってくるのではないでしょうか。

 藤島 代払組合が機能しなくなると、卸も仲卸も経営的に厳しいですから、取引きがスムーズにいかなくなることは間違いないですね。そうなると卸売市場機能自体が十分に発揮できなくなります。そうならないように事前に十分考えなければいけないわけですが、行政は代払問題については仲卸会社の経営体質の改善を中心に考えていて、この問題に直接取り組んでいないように思います。

森口 俊氏
森口 俊氏

 森口 いい仕組みですが、あちこちで綻びがでてきているのも事実です。代払組合の構成員の経営内容やレベルが似通って同質的だと、互いに助け合うという互助精神が成り立つわけです。ところが、ここ4、5年の間に代払組合の組合員に経営格差が生まれてきて「何であんな放漫経営している経営者をわれわれまじめな経営者が支える必要があるのか」という状況がでてきています。したがって、一部には、いい経営者グループだけで独立しようとか、放漫経営者を排除する動きがありますね。あるいは、金融機関とタイアップできないかとか、保証金額に制限を設けてみたらとか、新しい仕組みを模索しています。これから数年の間で、これを維持していけるのか、破綻してしまって出荷側なり買い手側が代払組合に頼らない新たな仕組みを考えなければいけないのか、そういう岐路にきていると思いますね。

 原田 代払組合は分かりやすくいえば連帯保証の仕組みですよね。

 森口 そうですね。

 原田 いま行われている卸売市場改革の議論のなかで、卸と仲卸の垣根を低くしようということがいわれていますが、取引きではいいとしても、決済をどうするかということについて補強策をとっておかないと、見えないけれど非常に大事な機能であるだけに、大きな問題を起こす可能性がありますね。

 森口 代払制度を支える行政の応援策の一つである完納奨励金をどう維持するのか、廃止するのか。これによっても代払組合が維持できるかどうか変わると思います。

 原田 おおむね1%ですか。

 森口 そうですね。0.7%が組合員に戻り、0.3%で代払組合が運営されているようです。

 原田 量販店の延払いという大きな金額が動くときに、それで代払機能を維持するのは難しいでしょうね。

 森口 基本的には、卸・仲卸自分たちが産地から信頼されるために、拠出して販路を確保していこうということですね。そのために行政が一部バックアップしていると考えた方がいいでしょうね。

◆何重にも必要なセーフティーネット ―共存共栄できる仕組みを

原田 康氏
原田 康氏

 原田 卸売会社は集めて売るだけで、債権管理をしなくていいという珍しい事業体だといえますね。そこに債権を確保するという問題が出てくると、いままでとは違った機能をもたないと成り立たなくなりますね。

 藤島 もし代払制度がダメになると、卸会社かどこかが回収しなくていけないわけです。そのコストもかなりかかりますから、いまの手数料率では無理だと思いますね。

 原田 今の制度の下では出荷側も形式的な債権保全はしますが、売買契約のように担保措置を求めるとかはしていません。今後、例えば担保をということになると、大勢の出荷者に担保を提供するわけですから、経営基盤がしっかりした卸会社でないと無条件委託はできないことになりますね。

 藤島 担保が無理なら、なんらかの形の保険に加入することでしょうね。

 森口 個別の出荷者が卸に担保を求めるのは、基本的に不可能です。例えばトラック1車分が200万円だとすると3日で5〜600万円になり、出荷者が20いればすぐ1億円を超えますから、卸は担保倒産します。それよりも、個別JAか県段階でまとめて担保措置をとることだと思います。もう一つは、既にありますが、出荷側の互助組織ともいえる信用保険制度を確立することですね。

 原田 保険というときに、卸売会社は代払組合があって、しかも開設者が監督をしているので、基本的にはある日突然ということがないということで、保険料率が低くなっていますね。それがリスクを伴うということになると、保険料率が高くなりますね。そうなると、いまの市場手数料や農協の販売手数料より高くなる可能性もありますね。

 森口 セーフティーネットを何重にもつくるしかないのではないですか。代払組合が形を変えても一つの安全弁になっている。そして卸売会社自身が合併も含めて万が一に備えた体力増強をする。同時に出荷者側も信用保険のようなセーフティーネットを持つことで、各々が分担しあい、市場流通を守り育て、共存共栄できる仕組みをつくっていくことではないですか。

 原田 代払組合が見えないところで非常に大事な機能を果たしていたわけですが、これからは各々が破綻をきたさないような仕組みを考えていかないと、現金に近い形で金が回っていかないという大きな問題も抱えているわけですね。

 藤島 代金決済機能は非常に大事な問題ですね。ただ、代払組合に加入しないと買えないというのは問題があるかなと思います。オランダのように買参権がなくても、即日支払いなら買えるという仕組みが日本にはないですからね。

 原田 参入規制にもなりますね。これは日本だけですか…。

 藤島 ほかでは聞きませんね。

◆見えない機能を分かりやすく ―消費者も参加できるシステムを

 原田 卸売市場のビジョンを描くときに、代金決済といいますか支払いをどう保証していくかという問題をどう描くかは大事なことですね。

 藤島 いま青果物の価格が下がり、1人あたりの消費量は増えないのに、市場外が増えていますから、市場の取扱数量が減り、卸売でも仲卸でも利益が低下し利益率も下がり、経営体質は悪化しています。そういうなかで代払制度をどうしていくのかは、非常に大きな問題です。

 森口 代金決済、代払制度が崩れるときはどういうときかと想定すると、出荷側から「いまのセリの価格では納得できないから買い取ってよ」といわれたときに、これに対応できる卸の体力、仕組みがあるのかということがありますね。すでに買取りではありませんが、この価格幅のなかで売って欲しいという動きはあります。そのときに常識を外れた価格をいうことはありませんが、採算分岐をクリアするような価格を要求することになります。買い手側から見ると、年間販売企画をたてているものは、それに近い価格でという圧力も高まってきます。
 買い手と売り手がそうなったときに、市場はそれをどう受けとめるかですね。あるいはITの高度利用でセリや相対の仕組みを市場を通さずにできるようになるかもしれません。したがって、市場もビジョンづくりをのんびりしているとまた市場無用論がでてくる可能性もありますね。

 原田 市場関係者がこれからどうしていくかということと同時に、出荷者も高いところへ出すぞなどといわずに、リスクを負いながら、価格形成に一定の判断をしながら、経済ベースで商行為として責任をもたないと取引きそのものがうまく回っていかなくなってしまいますね。

 森口 代金決済については、消費者から見えない部分ですが、市場がこれから消費者の支持を受けるためには、この仕組みをいかに分かりやすく伝え理解してもらうかではないですか。

 藤島 その通りですね。代払制度もそうですが、卸売市場そのものもいい仕組みなんです。市場があるから、安い価格で豊かな食生活ができているわけですからね。そのことを積極的に消費者にアピールしていかないと理解してもらえません。

 原田 消費者が市場の問題に参加し、納得してもらえるシステムが必要になっていますね。

(2003.4.8)



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