農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ 卸売市場を考える(4) 座談会−3
卸売市場のビジョンを描くために
―品揃え・物流機能を再検討する―
多様化する産地・消費地に対応した機能の強化を
――品揃え機能――


森口 俊
 全農青果サービス社長
藤島廣二 東京農大教授
原田 康 農協流通研究所前理事長

 卸売市場の将来ビジョンを考えるために、市場がもっている基本的な機能である価格形成機能(第1回)、代金決済機能(第2回)について再検討してきたが、今回は残る基本的な機能である「品揃え機能」ともっとも問題があるとされる「物流機能」について検討した。なお、この座談会は次回で終わるが、引き続き卸売市場のあり方についてシリーズとして多角的に検討していく予定にしている。

◆素晴らしい機能だが受け身の姿勢でも集まる仕組み
森口 俊氏
森口 俊氏
 原田 卸売市場の品揃え機能は、全国から毎日毎日いろいろな農産物が集まりますから、大変便利なものです。しかも、品目が多いだけではなく、品質とか規格など非常にバラエティに富んでいるという特徴を持っています。そうなりますと、前に森口さんからご指摘があった日本の食文化という観点からみても、市場は大変に便利な場所だといえます。一方で、決まったものをきちんと仕入れたいという外食とか量販店からは、機能として不十分ではないかという指摘もあります。こうした品揃え機能について森口さんはどう評価していますか。

 森口 市場の品揃え機能は素晴らしい機能ですが、振り返ってみると、必ずしも積極的な品揃えでこうなったわけではなく、無条件委託で、何でも換金できるという仕組みがさせたという部分があるのではないでしょうか。
 しかし、何でもあるということは、いまユーザーが市場に求めている必要なものが、必要な量だけ、必要なときに、必要な価格できちんと確保されることとは別問題だといえます。ユーザーが求めていることに、市場が本当に対応しているかどうか。市場の競争力を高めるためにも、この点を市場は考え直し強化しなければいけないと思いますね。

 藤島 野菜だと少なくとも100種類以上の品目があって、それぞれに規格がありますから、1000以上の商品数があるわけです。これを個々の小売店が産地から直接、揃えようと思えば、コストがかかりできませんから、いろいろなものを揃えられるということは、それなりに市場の強みになっていると思います。

◆差別化商品の品揃えが課題
  ―何でもあるが物足りない…

藤島 廣二氏
藤島 廣二氏

 藤島 しかし、市場の場合には森口さんも指摘したように、市場が積極的に集めたというよりは受身で集まってきているという面があります。その場合、差異化商品、差別化商品を卸売市場ルートで揃えられないという問題が起こりやすくなります。こうした品物は数量が少ないので、卸売市場で揃えるのが難しいということもあると思いますが、今後はこうした品物を卸売市場でどうやって揃えるのかが重要になってくるのではないでしょうか。卸売業者が揃えなくても、仲卸業者が揃えてもいいわけですからね。

 原田 出荷側からみると、通信販売とか契約的な取引きをすると、ピーク時期の売りやすい規格のものが取られるわけです。しかし、日本の農家は、米国などとは違って、生産したものを全部お金にしないと成り立たちませんから、ピーク前後やいろいろな規格のものをどう販売するかが問題です。そうなると、いまの卸売市場はいろいろな品物を相場で売ってくれるわけで、出荷者側からみると便利な存在だといえますね。

原田 康氏
原田 康氏

 森口 その通りですね。市場に持ち込めば価格を付けてくれるしお金の回収の心配もないわですからね。ただし、時代が変わってきていますから、農家といっても多様化し、企業的なイメージの出荷者も出てきています。こうした企業的な出荷者は、必ずしも作ったものをすべて売ってくださいと要求しないと思います。また同時に、数量は多くはないけれども個性的なものを作っている農家の生きる道を確保してあげることも必要ですね。そういう意味で市場は、大規模や企業的農家だけではなく、零細な農家も受け入れていくという姿勢を貫いて欲しいと思いますね。

 原田 藤島先生、海外の市場ではどうでしょうか。

 藤島 欧米のように1つの卸売市場に多数の卸売会社が存在して、個々の卸売会社の規模が小さいと、どうしても売れるもの中心の品揃えになり、何でも揃えるということにはならないと思いますし、それが買い手にとっても不満でしょうね。日本の場合は、何でも受け入れてくれるし、何でも販売できるという懐の深さがあります。農産物に限りませんが、作り手が販売先を見つけることは一番難しいわけで、そこを抜いて商売ができるわけですから、市場は大変に便利な存在ですね。

◆ますます低くなる卸と仲卸の垣根
  ―競争のなかで効率化が進む

 原田 日本の場合は、卸は集荷する機能を持ち、仲卸が専門的な立場で集まったものをそれぞれのユーザーに分けるというように機能分担しているわけです。いまの市場改革の論議のなかでは、卸と仲卸の垣根を低くし一体化するという意見が色濃く出ています。競争条件を確保するためには、どうしたらいいと藤島先生はお考えですか。

 藤島 市場内で競争を行うために卸売業を複数制にし、仲卸も多数にしているわけです。しかし、これからは、農協も大規模になると同時に生産者も大規模化する者が現れ、出荷者が多様化すると思います。そうすると、とくに大規模な出荷者の場合、トレーラー等を利用して、輸送コストを下げようとするでしょうから、それに対応できるような大規模な卸売業者が必要になると思います。そうなると1つの市場で卸売業者が単数になるとか、あるいは、複数の市場が共同で荷受するとかもあると思います。いずれにしても、卸売業者の数は少なくなっていかざるをえないでしょうね。

 原田 その場合に、小規模な出荷者はどうなるのか。競争条件はどうなるのか、という問題が出てきますね。

 藤島 現在、集荷面では、卸売業者と仲卸業者の垣根はかなり取り払われてきていると思いますし、今後もそれは進むと見ておく方が妥当ではないかと思います。卸が大規模化した場合に、高コストになるなら仲卸が自分で集荷する。あるいは、小規模なものについては、仲卸が集める方が効率的かもしれません。そういう集荷面での競争関係ができてくると思います。
 大型農協や大型出荷者から受け入れる大規模な卸も、例えば関東に複数あっていいわけです。そして仲卸的な業者は、複数の卸から仕入れることになれば、卸売業者間の競争もありますから、競争の中で効率化も進められると思いますね。

 原田 力のある仲卸がグループ化して自分で荷も引くし他の市場から買ってくることが行われていますね。

 森口 そういうことが現実に起きていますし、ますます起きると思います。なぜかというと、卸と仲卸の機能分担が成り立つ部分と成り立たない部分が出てきているからです。

◆市場そのものが多様化していくイメージをもって

 原田 具体的にはどういうことですか

 森口 仲卸が取引先対応をしていますが、ユーザーの多様な要求を産地につなぐのに卸を経由することから、時間とエネルギーをかけていますが、仲卸が直に産地につないだ方が正確に早く伝わるのにというジレンマがあります。一方、卸には販売先の顔が見えずに集荷しているもどかしさがあります。また、出荷者も自分の作ったものが、最終的にどういうところで売られているのか見えず確信がもてない。そういう意味で、卸と仲卸の垣根が低くなるのは時代の流れではないでしょうか。
 これからの市場を考えると、卸と仲卸の機能を整然と分けた市場、卸しかいない市場や仲卸機能しかない市場というように、市場そのものが多様化していくイメージをもっています。あるいは、市場ごとに、外食に強い専門的な市場とかスーパーの品揃えに対応する総合的な市場、集荷に力点をおいて産地を育てるイメージの市場とか、それぞれが特色をもつようにイメージを膨らませた方がいいと思いますね。

 原田 もっと自由に仕事ができる卸売市場にしないと発展がないということですかね。

 藤島 まず現実がどう変わっているのかを見て、それに現在の卸売市場が合っているのかいないのかを考えることです。小手先の改革ではなく、現実を直視して法律を変えるならどういう法律にするかを考えるべきだと強く思っています。 (2003.4.22)



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