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シリーズ コメ卸から見た流通最前線 ―― 6

「改正JAS法」時代を追い風に
価格安定に調整保管の弾力化も必要

 13年産自主流通米の入札が8月からスタートした。これまでの取引では前年産同時期を上回る価格となり、9月14日の第3回入札でも上場全銘柄の平均指標価格は60kg1万6648円と前年にくらべて1%(165円)の上昇と、堅調に推移している。
 しかし、米の販売面では「このデフレでは、やはり安いほうへ、安いほうへとバイヤーの心理が働いている」(米卸)と厳しい状況にある。
 13年産の作柄はまだ明らかではないが、最近の市場動向を踏まえて米産地には何が求められているのか、卸業界を中心に聞いた。

小売業界の反応
 −−「下がった価格が、なぜ、上がるのか」

13年産第3回入札は9月14日に実施。前年比1%の上昇。

 まず、12年米の価格動向を振り返っておこう。
 昨年8月に1万6350円(60kgあたり、以下同)と11年より1478円も低い入札価格でスタート。その後、11月には1万5726円まで下がった。
 しかし、「緊急総合米対策」による特別調整保管による市場隔離が決定し、12月からは7回連続して上昇し、今年6月入札では1万7223円と11年産同時期を上回る価格となった。厳しい生産調整に取り組んでいる生産者にとっては今後に期待できる推移となった。
 しかし−−、
 「大手量販店には、12年産の価格推移は理解されませんでした。今の時代に、一度下がった価格が上がるなんて、まして生産は年に1回で作柄も秋には分かっている。それなのになぜ?と。あなた方の都合でやったことでしょ、と言われてしまうだけ」とある大手卸の幹部は話す。
 生産者にとっては、昨年の秋、「一体、どこまで価格は下がるのか」と不安が広がった。が、市場では、その後の推移を「調整保管などあくまで人為的な操作による乱高下」と受け止めている。
 特別調整保管による市場隔離銘柄と数量が決まった4月以降、改正JAS法の施行もあって価格はさらに急カーブを描いて上がり前年水準を超えた。
 しかし、「6月の入札結果ははっきり言ってバブル。JAS法改正で産地、品種、生産年の3点セット表示が厳しく求められるようになったうえに、端境期を迎え原料を切らすわけにはいかない事情があった。だから実際以上の価格になったわけで、生産者は誤解してはいけないと思う」と先の関係者は強調する。

適切な市場隔離で需給ミスマッチ防げ

 さらにこの急上昇の原因は今回の市場隔離のやり方にもあると指摘する。
 緊急総合米対策に基づく12年産米64万トン市場隔離は、米穀年度当初から実施することに決めたことが、これまでの調整保管との大きな違いで確実な効果が期待された。
 しかし、「具体的な銘柄と数量がはっきりしたのは4月。われわれからすれば実施が遅かったと言わざるを得ない」という。しかも、市場隔離された銘柄には前回もこの欄で紹介したが、業務用筋に人気があり、指定銘柄となっていた北海道、青森の米が含まれていたために卸はあわてて手当てに走った。
 「結局、市場ニーズとミスマッチを起こして高騰を招いたということ」。
 そして産地にとって問題は、大手ユーザーのなかには、価格上昇を受けて指定銘柄を見直す動きも出てきていることだ。

業務用の人気銘柄見直しの動きも

 図のように、業務用ではユーザーが食味と価格を評価し産地指定をしているケースが増えてきた。卸はその指定どおりに納入するために玉を確保しなければならないわけだが、「価格が上がったために、たとえば、50%は北海道きらら397と指定するが、残りは卸の裁量に任せます、という話も出てきた」という。
 もちろん、ユーザーの要求する品質は確保しなければならないが、「卸業界としては、残りの50%の米は外国産米も含めて手当てを検討するのは当然のこと」だという。
 つまり、価格が上がったことによってユーザーの指定から外される銘柄もあるだけでなく、極端にいえば国産米のシェアを外国産に奪われかねないことになる。それほどまでに低価格志向が強まっている。
 今、一般消費者向けの売れ筋価格は、5kg1980円。2000円以上では売れ行きが鈍いという。その価格から逆算した60kg価格は1万6500円程度。せめて1万7000円台をと望む産地とは開きがあるのが現実。
 しかも、繰り返し指摘されていることだが価格決定権は大手量販店が握っており、入札価格が上昇しても卸は小売価格に転嫁できず苦しんでいることに変わりはない。
 こうした状況をふまえ、先の関係者はこう話す。
 「価格が上昇してほしいという気持ちは分かるが、やはり安定した価格で推移することが望ましいのではないか。
 そのためには、調整保管をするならできるだけ早く銘柄と数量を決めてもらいたい。
 しかも、今回のように業務用に人気のある銘柄が高騰するといった需給に見込み違いが生じたときはすみやかに修正すべき。弾力的な運用をしないと結局は、生産者サイドも消費者や実需者から反発を喰うだけではないか…」と強調する。

本質見極めたい改正JAS法施行

 一方、すでに指摘されていることだが、年明けからの価格上昇には改正JAS法施行の影響もある。
 米の販売にはいわゆる3点セット(産地、品種、生産年)の表示が義務づけられた。
 先に触れた業務用ユーザーからの銘柄指定にも、もちろんきちんと応えなければならない。図はコンビニエンスストア(CVS)への米の流通ルートだが、ごはんの品質を重視するCVSの要求に製品を納入するベンダーがしっかり指定銘柄を確保することになる。
 規制の緩やかだった時代はこうした業者も価格重視で原材料を確保する動きもあったというが、今後はたとえば「秋田あきたこまち」が求められるとすれば、その銘柄の確実な仕入れが必要になる。
 いってみれば単に米というより「秋田あきたこまち○年産」という商品を業界は必要としている。
 改正JAS法の施行は米流通業界にこうした側面を生んでいるが、その背景には精米流通が主流になってきたことがある。東京、神奈川、千葉では精米流通がほとんどを占めるようになっているという。
 この変化を販売の場面で考えると「対面販売からセルフサービスへの転換」だと指摘するのは、4月に誕生した全農パールライス東日本鰍フ福島豊純取締役営業部長である。
 対面販売とは、商店街の米穀店に象徴される。納入は玄米で店で精米するが、売る際には消費者に説明が可能だ。
 一方、セルフサービスは量販店に代表される。そこでは対面販売のように店員の説明はなく、表示だけで消費者が価値を判断する。その店頭に並べられるのは卸が精米した商品だ。したがって、量販店が米販売の主流になれば、当然、精米流通の占める割合も高くなることになる、との見方である。
 改正JAS法はこうした流れのなかで米という商品の信頼を確保するために必要になったともいえる。

問われる産地の米づくりの姿勢

 では、産地としては、このような動きをどう受け止めるべきか。
 福島部長は「精米でどう流通させられるのかが問われている。それは言い換えればいかに“無説明”で販売できるかということです」と指摘する。
 玄米流通の時代であれば、米穀店のように表示に加えて店の説明が消費者の理解にもつながった。しかし、セルフサービスに対応した精米流通の時代は、商品そのものが、どれだけ情報を伝えられるかが重要になる。
 その情報は食味、減農薬、有機栽培など栽培法などももちろん大切だ。ただ、福島部長は、それだけでなく「産地の品質管理の姿勢がもっと大切になるのではないか」という。
 安心、安全は食品にとってのキーワードだが、それを産地としてどのように保証するのか。たとえば、残留農薬検査の定期的な実施や、大型流通に対応し施設集荷での品質管理、さらに地域の倉庫での管理など、消費者やユーザーが納得できる生産、販売体制が求められるという。
 しかも、今後はそれらを丁寧に記録しておき必要があれば情報として公開できるようにしておく。いわば米産地の信頼を改めて確保することが大切になるという。
 先の大手卸幹部も「これからは米の売場でも情報を付加価値として提供している商品はそれなりに扱われるようになるだろう。今は計画外流通米との差がないといわれているが、情報の付加価値は計画外流通との差別化につながる」と予測する。
 福島部長も「消費者に見える分かりやすい形での生産が必要。消費者を味方にすることでしょう」と話している。
 価格回復に向けた努力も必要だが、一方で確実に販売できるよう時代に合った対応も課題になっている。



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