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シリーズ コメ卸から見た流通最前線 ―― 7


産地の問われるマーケティング力
業態に合った米求める業界
米価の先行きに不安拭えず
 この秋、米政策改革の論議がヤマ場を迎えるなかで始まった14年産米の入札結果は、これまでいずれも前年産同期価格を下回るという厳しい現実となっている。14年産は昨年に引き続き需給調整水田に取り組み、また、作況指数も101と平年作であることから、需給は大きく緩和していない状況だが、卸業界には銘柄によってはまだ米価が下がると見る向きもある。
 12月3日に決定した米政策改革大綱は、市場重視の米政策への転換を打ち出し、市場実勢を反映した価格形成の育成など販売、流通分野から改革が進む。計画的な生産による米価の安定に取り組むことは引き続き重要な課題だが、一方で需要に応じた売れる米づくりへの取り組みもJAの課題となる。
 今回は15年産以降の米づくりも含め、実需者は国産米の需要動向をどう見ているのか探ってみた。

■業務用米ニーズの変化

 9月の14年産自主流通米第4回入札では、全銘柄の落札加重平均価格は1万6176円(60kg、以下同)と昨年同時期を457円下回った。また、10月の第5回入札では1万5624円と昨年同時期を497円下回り、10月25日の第6回入札でも1万5969円と1万6000円を割り込む水準となっている。11月の第7回入札でも1万5949円と前年同時期を588円下回った。
 今後、米価はどう推移するのか。大手卸関係者はこうみる。
 「おそらく来年3月まではこの水準を維持できてもそれ以降は60kg1000円近く下がることもあり得る。在庫を抱えて売り浴びせてくる産地が出ると思われるからだ。暴落になるかもしれない」
 理由は、現在のニーズを考えると「はまる場所がない銘柄が多い」からだという。そのため有利な取引をしようと急いで玉を手当する必要もない。実際に卸業者の在庫水準は7月、8月は前年を大きく下回って25万トン程度となっている。つまり、「当期買いで済む」
状況だという。
 もっとも10月末の在庫は37〜38万トン程度になったといわれる。ただし、これは卸への未受渡し分が米穀年度末を迎えて全農などから所有権の一括移転による販売が行われたためだ。
 別の関係者は、この在庫数量は「今年5月の事前年間契約分のうち、卸が需要の変化を読み切れなかった“契約見間違い分”」だという。
 その需要変化とは業務用米のニーズ。
 米の消費は、業務用の比率が上がり大消費地では4割を占めるまでになっているというのが業界の定説だ。
 一方、家庭用の米はJAS法の改正により表示が厳格化されたことにともない、大手量販店などは、消費者の信頼を損なわないよう新潟コシヒカリや秋田あきたこまちなど一部の限られた銘柄の販売に偏った。
 そのためそれまで家庭用としても店頭に並んでいた銘柄は業務用に振り向けられることになった。もちろん業務用として販売されていた裾もの銘柄と競合するため、品質は良くても価格は引き下がられることになる。
 こうして業務用米の世界では、従来の家庭用銘柄に値ごろ感が出て、その結果、裾ものが溢れるという事態になったのだという。先の関係者が指摘した、契約見間違い、とはこのことを指す。
 裾ものといっても「味が悪いわけではない。安くてそれなりの品質を提供していた」(卸関係者)米である。ただし、中小卸ではこうした米が積み上がっており、今後の販売にあたっては「さらに一段の引き下げをしないと売れないという状況にある」。

■産地・銘柄指定も強まる

 
大消費地での業務用需要は4割を占める。
今後はこの分野でもトレーサビリティーの確立が求められてくる。

 業務用米としての販売には12年産古米も「十分に使える」というのが業界の判断だ。その価格は、1万2000円台。さらに13年産自主米では調整保管分の28万トンがこれから販売されるという状況にある。
 14年産第6回入札では1万3000円を下回る銘柄でも多くの落札残が出たが、「その結果が象徴的。新米だからといっても、業務用なら12年産や今後の13年産調整保管分で対応できると見ているから売れ残ることになる」という。
 一方、家庭用米としては14年産に限れば「不足感が出る」と予想する関係者もいる。しかし、「価格が上昇しても販売には結びつかない。価格が上げれば消費が離れ、下がれば戻る、ということ」だという。家庭米向けでは、「5キロ2000円以下、10キロ4000円以下が常識になった」と指摘する。
 このように米価水準としては厳しい状況にあるが、米に対する消費者、実需者のニーズはむしろはっきりしてきており、産地としての対応が急いでほしいというのが卸関係者の一致した見方だ。
 そのニーズとは、産地、銘柄が明らかなことに加え、いわゆる生産履歴が明確な米だという。
 「安心・安全をうたえる米を、という要望は急速に強まった。これまでは一部のこだわり米だけでよかったが普通の米にも生産履歴などが求められるようになっている」。
 「生協や量販店からは、14年産までは仕方がないが、15年産からはトレーサビリティに対応できない米は取引しないと明言されている」
 しかもこうした動きは、家庭用だけではなく業務用の世界でも当たり前になりつつあるという。安くてそこそこの品質の米という感覚は大手の実需者にはすでになく、産地などを要望してきている。
 業務用需要とは、価格だけでなく、実需者の業態にあった品質が求められる。コンビニのおにぎりには、粘りが求められるため値ごろ感さえあれば東北などの銘柄米も使われる。しかし、逆に丼ものや冷凍米飯には、粘りのある米は加工適性がないということになる。
 こうした加工適性に加えて、生産履歴までが要求される時代になったのだという。

■JAの米づくり戦略に期待する卸

 冒頭の「はまる場所がない」米が過剰になっているという関係者の指摘は、品質だけでなく安心、安全対策も含めて残念ながら評価が低い米ということになるだろう。
 とくに関係者が強調するのは「残った米を業務用に回せばいいということではない。4割も占める市場を見据えた対応が必要だ。誰かが業務用を作ってくれるだろうという意識なら、そのうち外国産米に市場は奪われてしまう」ということだ。
 業界では今後は業務用でも産地指定の動きを強めるという。
 「ある県内の米を平均的に手当するという仕事の仕方では実需者のニーズに対応できない。JAがしっかりした戦略をもって生産してくれればわれわれも産地として評価する。その結果、端境期に在庫がゼロになる、つまり、売り切れる産地になるのではないか。地域の指導力が問われると思う」とある関係者は指摘している。
 ただ、米価は急激に下がりすぎた、というのは多くの関係者の一致した見方で、少なくとも再生産のための水準が確保されなければ消費者の望む国産米の供給に不安を抱く業界関係者がほとんどなのは事実。
 「作る喜びを感じられる」(大島農相)米づくりに向けて、政策的なバックアップとともにJAに米が集まるようJAのマーケティング力が問われることになる。




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