適期適正な防除で安全な農産物を! ルポ・安全防除優良JAを訪ねて |
島根県では従来からの米依存型農業から脱却するために、野菜の生産拡大をはかってきている。国の野菜価格安定対策事業に上乗せする形で「島根県野菜価格安定対策事業」を設置している。なかでも、キャベツは最重点品目として栽培を奨励、平坦地を中心に全県的に作付けがされ「島根キャベツ」のブランドで、大阪などの消費地でかなり高い評価を得ている。 県内各産地では、生産者・農産物・環境の安全に配慮した栽培を進めているが、11年度の安全防除優良JA拡大運動に、JAくにびき松江・八束くにびきキャベツ部会(奥名昭一部会長)とJA石見銀山キャベツ部会ミセスくらぶ21(楫喜美代会長)が参加し、優良JAとして表彰された。 フェロモン使った一斉防除で出荷量増加 ◆大阪で高く評価される干拓地のキャベツ JAくにびきの松江・八束くにびきキャベツ部会は、平成元年に竣工した中海干拓揖屋地区(農地203ha、圃場1枚30a)のキャベツ生産者80名で構成されている生産者組織だ。 キャベツについては、取組みの当初から大阪をはじめ市場評価が高く、栽培面積・出荷量が伸び、現在は約40haで栽培し、年間およそ1000tを出荷している。平成4年には国の野菜指定産地となり、5年には中四国農政局の国営土地改良事業地区営農功労者表彰を同部会が受賞するなど、県内屈指の優良産地だ。 ◆フェロモントラップで発生調査 しかし、栽培面積が拡大しても出荷数量があまり伸びていかなかった。その原因として、異常気象などによって病害虫の発生消長の変動が大きく、適切な農薬による適期防除がしにくいため、病害虫による被害が大きいことが考えられた。そこで、平成7年から、性フェロモンを使った総合防除に取組むことにした。 ◆適期防除で防除回数が減る また、定植後の日数(生育)に応じて農薬散布を行う設定になっていた防除暦を、秋冬キャベツ全品種、全作型を一度に防除できるような「一斉防除方式」に改めた。この防除暦は、毎年内容検討を行い、栽培開始前に策定されている。 害虫発生調査結果と、一斉防除の実施については、ポスターをつくり同地区に出入りできる3ヵ所に掲示し、生産者に周知徹底されている。ポスターを掲示しての一斉防除は「効果がある」ので、「今後も継続して欲しい」と生産者からも支持されている。 ◆交信攪乱剤でコナガを防除 抵抗性が発達しているために、防除しきれない圃場が多かったコナガについては、試験的に導入していた「コナガ交信撹乱剤・コナガコン」を、平成7年から本格的に導入することにした。これを設置した圃場では幼虫発生が少なく、キャベツ玉への被害も少ないということから、設置面積が拡大してきている。 こうした取組みよって、7年以降、栽培面積は増えていないが、害虫の防除状況によって左右される10〜12月の出荷数量を中心に、出荷量が増えてきており、この取組みの成果が出てきている。 取材を終わって帰りがけに「防除指導で一番気にかけていることはなんですか?」と聞いたら、岩田さんは「防除する生産者の安全です」と間をおかずに答えた。そして「農薬は適正に使っていますし、収穫前は余裕をみて設定していますから、出荷されたキャベツは安全なんです」とも。
◆農家所得を向上させるために JA石見銀山では、生産調整による転作田を有効に活用し、換金性の高い作物を生産して農家所得を向上させるために、キャベツの作付拡大を進めている。 裏作として春どりキャベツの生産は行われていたが、JAの提案に応えて周年生産されるようになるのは平成5年からだ。以後、栽培面積は着実に増え、現在は15haで、JAの11年度販売取扱実績は約2800万円となっている。水田転作のため、排水を考え畝にしているために、畑作地域のような収量をあげることはできないが、それでも10a当り4〜5t/年はあげているという。 ◆積極的に活動する女性たち 本格的な生産がはじまった平成6年に、ほとんどの作業を担っている女性の生産者組織をつくってはどうかと営農指導を行っている岩谷幸子さん(営農部農産課)が提案して、キャベツ部会に「ミセスくらぶ21」が誕生する。 ◆分かりやすい防除暦づくり 会長の楫喜美代さんは、「大豆からキャベツにした当初は、虫にやられて1.5町歩で2tくらいしかとれず、防除しなければキャベツはできない」と思ったという。ミセスくらぶができてからは、岩谷さんや仲間と一緒に勉強し、いまは5t近く収穫できるようになった。 農薬は種類が多く、薬剤名を見ただけでは系統が分からないので、「できるだけ分かりやすいように」という工夫の表れなのだ。 ◆孫が食べると思い、愛情込めて 「暦は最低限のことで、都会に出た孫が食べると思って、愛情込めてきれいな玉を仕上げるのが農家の仕事」だと岩谷さんはいう。そして防除は「農家に利益をもたらすために必要なもの」だとも。 ◆みんなで一緒に儲けたいから 耕種部門では全国的にも数少ない女性だけの生産者組織ミセスくらぶ21ができて、生産から販売までの意識が高まり「ものがいえるようになって、みんなが明るくなった」という。 |