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虚報−背景に金融界のモラルハザード(倫理喪失)
  そごう処理の影に「農協系救済」のデマ

 百貨店そごうに対する新生銀行(旧日本長期信用銀行)の債権を国(預金保険機構)が買い取って放棄するのは農協金融を救済するためであるとする一部報道があったが、民事再生法適用申請後は、農協金融のピンチか、といった論調に変わった。しかし公的資金を投入するシナリオの背景に農協系救済があったとする記事の基調は変わらない。
 なぜ、そごう処理の影の主役が農協系なのか、奇想天外ともいえる仮説に当の農協系はあきれ果てるやらカンカンに怒るやら。

 だが、そごうのメーンバンク日本興行銀行は早くから法的整理は中小金融機関への打撃が大きいと説き、私的整理によるそごう再建計画を推進していた。農協系も中小金融だ。このあたりが農協系救済説の一つの震源地らしい。
 JA貯金は69兆円。都市銀行の上位行並み残高を誇る。その基盤には系統信用事業への信頼がある。救済説はでたらめだが、ウソ記事も度重なると、その信頼にひびを入れかねない。改めて系統信用事業の概況と救済説の背景を検証した。


引き当てと担保で−−系統金融 影響は限定的

 「全国の信連の決算内容をみると98年度までに不良債権処理を前倒しで行った信連が多く、このため99年度決算は全体として経常利益が前年度より72%と大幅に伸び、内部留保も厚くした。不安説など、どこから出てくるのか。騒ぐほうがおかしい」(永井和夫全国信連協会専務)というのがまず概括的な状況だ。
 環境は厳しく、課題は山積しているが、それは金融界全体のこと。系統金融であるがゆえの弱点が、今後とも、そごう問題で出てくることはないという。

 JAグループのそごう向け貸出残高は合計667億円(3月末)。内訳は農林中金が420億円、6信連が計100億円、JA共済連(全共連と旧4県共済連の合計)が147億円だ。 そごうは、かつて各地に別会社をつくって巨大店舗を建てた。地元金融機関の多くが、これに融資した。店舗所在地の6信連もおつき合いをした。
 だが、そごうの放漫経営は行き詰まった。結局、73の金融機関に合計約6830億円の債権放棄を要請することになった。JAグループでは農林中金、広島県信連、同共済連に対する計231億円の免除要請が当初含まれていた。

 ところが、そごうは、その再建路線を民事再生法適用による法的処理の手続きに突然、転換した。
 このため貸出残高の少ない中小金融機関にも負担が及ぶことになった。私的整理に比べ法的整理では裁判所が、甘い再建計画を認めないため、どうしてもそごう側の返済負担が軽くなってしまうためだ。
 当初は債権放棄の対象外として損失ゼロだった埼玉、千葉などの5信連にも損失が及ぶ見通しとなった。

 しかし債権額からすれば「系統金融への影響は限定的なものと考える」(高木勇樹農水事務次官)という。
 667億円のうち230億円には担保があり、無担保438億円には「リスク管理債権」に見合う形で300億円余の引当金を積み立ててあるからだ。これは当初の放棄要請額を大きく上回っている。ただ今後の法的手続きでは放棄要請額以上の負担が予想される。
 しかし系統信用事業には安全網(セーフティネット)の強化がある。従来は農水産業貯金保険制度による資金援助の対象はJAだけだったが、新たに信連と農林中金も対象とした。これは先の国会で貯金保険法が改正されたことによる。

 一方、主力銀行である興銀のそごう向け貸出残高は3630億円。そごうの放漫経営を後押しした罪は大きい。同行には大阪の一料亭に巨額を融資した尾上縫事件などの前科もある。次いでそごうの準メーン新生銀行(旧日本長期信用銀行)は2050億円。
 残高順位で農林中金は9番目。各地のそごう22社と関連2社へ融資した。

 以上、どうみても、そごう問題を種にした系統信用事業のクローズアップは無理な話。にもかかわらず農協系が引き合いに出されるのはなぜか。

源流は住専処理問題 −−系統への責任転嫁

 源流はやはり住専処理問題にあるようだ。当時、母体行責任を主張するJAグループに対して母体行側は貸し手責任を唱え「公的資金の投入は系統金融救済のためだ」と合唱した。
 だが98年7月、住管機構が住友銀行を相手どり母体行責任を問う損害賠償請求の訴訟を起こしたことから責任逃れの歌声は消えた。  「なんで金融界や大蔵省の不始末を国民が負担せなあかんねん」「銀行の経営者に公的資金を受ける資格があるのんか」。住管機構を率いる中坊公平社長の怒りの声が響いた。この裁判は全金融機関のモラルを問うものだとも語った。
 その後、住管機構の後身である整理回収機構は富士銀行を相手に損害賠償の民事調停も申し立てている。

 ところがスキあらば系統に責任を転嫁する住専処理時の銀行パターンは消滅していなかった。そごう処理でも、その機能が働いた。
 住専処理に投入された公的資金は6850億円だったが、現在、組まれている銀行支援枠は70兆円。ケタ違いの税金食いである。
 うち21兆円以上がすでに投入され、このままでは9兆円余が返ってこないで国民負担となる。銀行に対する国民の怒りは大きい。
 大手22行は公的資金の注入で資本を増強したが、注入条件のリストラを計画通り実行していない。役員の報酬や賞与や退職慰労金の支給額が計画を上回っている。まさしくモラルハザード(倫理の喪失)だ。

 一方、系統は「公的資金による救済を一切受けずに協同組合の力でやってきた」(角道謙一農林中金前理事長の退任あいさつから)。  これに対して「やがては農協系も公的資金を受けるだろう」といったリークが流されている。
 住専問題以後も大銀行は類似のモラルハザードを起こしている。商工ローンへの巨額融資だ。ローン各社は借りた金利の10倍以上で中小企業などに貸し付け、取り立てでは「目玉か腎臓を売ってでも返せ」と脅すなどして逮捕者も出た。公的資金を受けて悪徳高利貸しを支援していたのだ。

 つぶれて国有化された日本長期信用銀行の不良債権は3兆6000億円の血税で穴埋めされ、さらに外国投資グループに二束三文で売られ、新生銀行になった。
 売買契約には「引き継いだ債権が二割以上目減りした場合は、国(預金保険機構)が買い戻す」という瑕疵(かし)担保特約がある。そこで同機構がそごう向け債権を買い取って放棄する方針を立てたが、血税によるそごうと銀行の救済に批判が高まり、結局はそごうの法的処理となった。


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