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打保正三氏JAグループ
米穀事業の改革について

     JA全農 米穀総合対策部 部長 打保 正三

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T.米穀事業改革の趣旨と検討経過

  食糧法(7年11月)施行後この5年間で、米の政策、流通実態およびJAグループ組織は大きく変化してきています。また、「水田を中心とした土地利用型農業活性化対策」(11年10月、以下「水田農業活性化対策」という)で、向こう5年間の米政策の方向づけが出されるなかで、JAグループ米穀事業は転換期を迎えています。
 このような環境変化から、食糧法以降JAグループが方針としてきた「新たな米共販運動の展開」(7年8月制定)では対応しきれなくなってきており、新たな改革に挑戦する必要があることから、今後5年間程度を見通した「JAグループ米穀事業の改革」について検討をすすめてきました。

 本年1月、「経済連・県本部米穀担当部長研究会」(13県経済連・県本部米穀担当部長で構成)および「米穀・食販事業合同研究会」(20県経済連・会社および全中・全農の常勤役員クラスで構成)を設置し、これを中心に検討をすすめてきました。研究会はそれぞれ4回、延べ8回開催し、8月1日に研究会としてのとりまとめを経て、8月4日、全農の経済事業委員会の一つである米穀委員会において審議を行い、8月24日の全農理事会で「JAグループ米穀事業の改革について」として決定をみました。
 以下、この「改革」のポイントについてふれたいと思います。

U.JAグループ米穀事業の改革

 1.改革の必要性 

(1)事業をめぐる4つの環境変化
 なぜ改革が必要になっているかについては、事業をめぐる環境変化を4つの分野から分析し整理しました。

 その1、米政策の変化であります。
 食糧法以後の米政策の展開は、「新たな米政策」「農政改革大綱」を経て、平成11年の「食料・ 農業・ 農村基本法」を受け、「水田農業活性化対策」に体系化されました。「水田農業活性化対策」においては、当面5年間の政策的基本を、次のとおり方向づけしています。
 @水田の活用では、需要に応じた米の計画的生産を実施しながら、麦・ 大豆等の本格的生産へ誘導
 A担い手対策については、兼業農家から大規模農家・農業生産法人等の担い手に重点を移行
 B価格政策は、価格支持政策から所得補償政策へ転換
 C国の業務については、民間移管を推進  

 その2、米流通の変化であります。
 こうした国の政策変化をうけて、米流通の実態も次のとおり大きく様変わりしています。
 @計画流通米の集荷数量が年々減少する一方、生産者直売の増加等により、計画外流通米が増加している。
 A需給緩和を反映し、産地間・卸間の競争激化のなかで、自主流通米の価格は、下落・低迷している。
 B流通形態は、大量安定流通と特徴商品流通に分化しつつある。
 C量販店等の台頭により、卸主導から小売主導へ移行し、卸業界は競争激化によって再編・ 二極化が進展している。
 Dミニマム・アクセス米が、徐々に国産米へ影響を及ぼしている。

 その3、JAグループ組織の変化であります。
 JAグループの組織も、JA合併と統合連合組成がすすんでおり、こうした組織整備の進展に対応し、米穀事業の強力な事業基盤確立が必要となっています。
 @JAの広域合併が進展し、全国のJA数は1,378 となっている(平成12年8月1日現在)。
 A13年3月の第2次統合で30県連程度、14年3月の第3次統合では大多数の県連と全農との統合を予定している。

 その4、情報技術(IT) 革命の影響であります。
 情報技術(IT) の進展により、電子商取引(Eコマース) 等がJAグループ米穀事業の集荷・販売に大きな影響を及ぼすことが想定されています。

(2)JAグループとしての克服すべき課題
 次に、これまですすめてきた米穀事業をふりかえって、JAグループとして教訓とすべきは何かについて整理しています。それは、集荷量の減少や価格の下落は、大幅な供給過剰(豊作、消費減等) 、規制緩和・市場原理の進展、外国産米の影響などの国の政策・外的要因に負うところが大きいわけですが、JAグループ自身の取り組みにも一因があるとの反省にたって、次のとおり集荷と販売面から大きく2点に集約しました。この反省・教訓を引き出すということは、今後のJAグループの事業改革をすすめるうえで重要なことです。

 @集荷面では、食糧法になり、「集まる」から「集める」集荷に変化したなかでも主体的な“攻め”の姿勢に弱さがあった。
 A販売面では、各産地が需給緩和のなかで自県産米を売り切るために、過度の販売対策費を支出せざるをえなかったことが、産地間競争・生き残りをかけたたたかいを一層激化させた。

 2.改革の方向 

 次に、こうした環境変化と克服すべき課題をふまえ、今後の米穀事業を基本的な考え方として、どういう方向で改革していくのかについてふれています。これも大きく2点で括りました。

 @政策の流れは、「国の役割限定」から「JAグループの主体的な取組み・役割の増大」へ向かっているが、国が今後とも食糧法に定める「需給と価格の安定」に責任を果たすべきであることから、JAグループは、引き続き、需給均衡化対策、稲作経営安定対策の充実など、必要な対策を国に求める。
 AJAグループとしても、市場原理一辺倒の「なすがまま」に委ねるのではなく、量販店等の流通支配の流れを変えていくため、組織の結集を基礎に、自らの力で改革を推進していく。

 3.改革の期間 

 今回の改革をどの程度の期間ですすめていくのかについてですが、経済・社会情勢の変化、JAグループの組織整備の進展をうけて、JAグループ米穀事業をとりまく環境・時代の流れは、将来、相当変化することも想定されます。しかし、その変化を確実視できない現在、それを前提として事業を組み立てることは時期尚早と言えます。このため、今回の改革は、「水田農業活性化対策」の期間にあわせ、向こう5年間程度を見通した対策としています。

 4.改革のポイント 

 さて、改革の中身ですが、今回とりまとめた「JAグループ米穀事業の改革について ─21世紀に向けた米戦略─」は、A4版でちょうど50ページに及ぶ長い書きものになっています。ここでは、今後どういう改革をすすめようとしているのかのポイントについて紹介します。

 経済事業面からみて、米穀事業のどこをどう変革することとして具体的に提起したか。いろいろありますが、特徴点は次の3つです。
 第1は、生産・集荷面です。
 「水田農業活性化対策」では、JAが地域の協議会と相談して水田農業振興計画を策定することになっています。JAグループとしては、生産・集荷はJAの基本機能であるという位置づけを明確にして、ここで策定した産地銘柄別作付計画を集荷に結びつける取り組みを提起しました。あわせて、ガイドライン内で生産する米すべてを集荷の対象にしていく、つまり計画外流通米についても生産調整実施者の生産したものであれば集荷の対象とし、「部分業務委託」方式を導入して集荷していくということで、従来より踏み込んだ方向を打ち出したことです。

 計画外流通米については、近年、@入札の対象とする(10年産米〜) 、A自主流通対策費の廃止(10年産〜)、B稲作経営安定対策の対象(12年産〜)の制度的措置がとられ、自主流通米との実質的な差がなくなりつつあります。JAグループとしては、計画外流通米については、これまで計画内に取り込むことを基本にした事業方式ですすめてきましたが、上記の制度措置や近年の集荷状況に鑑み、計画内に取り込むことが困難な場合は、生産者のニーズに応えること、米取扱量の拡大で経営に貢献すること、計画外も含めた全体需給調整をはかる必要があることなどから、生産調整実施者の米に限り計画外流通米として取り扱うという方針を打ち出したものです。

 なお、「部分業務委託」方式とは、集荷・販売に係る業務の一部(保管、運送、代金回収等)について、JA・連合会が業務を受託する方式です。

 第2は、販売面です。 
 とくに、13年3月には経済連と全農との統合が約30県程度となり、統合メリットを還元するために、合理的な事業方式によるJAグループ間(とくに新全農の全国本部と県本部)における販売の機能・役割分担をどう整理するのか、が焦点になっていました。これについては、次の方針ですすめることとしました。
 @産地形成や自主流通米の販売推進は、県本部(県連)機能とすることを基本とする。
 Aしかし、以下の観点から、一定集荷規模以上で県間販売主体の県については、県本部(県連)と全国本部(全農)が一体となって販売推進を実施する。
    (1)同一法人(「新全農」)内の各県本部・全国本部の統一性を保持する必要がある。
    (2)各県本部(県連)がそれぞれ少数の大手卸売業者に販売推進することによる産地間競争の排除と、二重三重にかかる流通コストを削減する必要がある。

 このため、具体的には、
    (1)県本部(県連)の消費地米穀駐在事務所(21県連で約 100名配置)は段階的に廃止していく。
    (2)全国域での販売・需給調整を効果的に行うため、県域共計から全国共計へ一定額を移管し、全国共計による「販売・需給調整措置」(仮称)を構築する。この場合、県共計は経費支出(運賃、保管料等)を中心とし、全国共計は販売推進に要する費用(販売対策費)等を中心とする。
 こうした方向で運営することにより、産地間競争・価格低迷の悪循環を断ち切っていくことができるのではないかと考えているところです。
 Bまた、JA直接販売については、県ごとに取り組みに差がある現状をふまえ、県内合意を前提に、域内流通を基本にして行うことで整理しました。

 第3は、JAグループの川下対策──パールライス事業の強化についてです。
 米の販売業界はグループ化・系列化、大手卸の広域事業展開と再編、商社の米ビジネスへの参入などがすすんでいます。また、販売競争激化から低価格・低マージンでの納入を余儀なくされており、JAグループ卸の経営が一段と悪化しています。販売シェアも近年30%から28%に低下しており、米穀卸事業の競争力強化が緊急の課題になっています。

 とくに、大消費地において、量販店・大手外食産業の広域事業展開に対応できる販売体制の整備が急務となっています。JAグループ・各県がそれぞれの領域で卸業務を行っていたのでは、他の大手卸や量販店との対抗が限定されるわけです。そこで、県域を越えた広域事業展開をはかる体制整備、広域の卸会社設立がどうしても必要と判断したわけです。

 「改革」では、地域性や商圏等を勘案し、大消費地を中心に、東日本地区と西日本地区に広域米穀卸会社を設立することを打ち出しました。業界内でのリーダーシップを発揮しながら、量販店等の流通支配の流れにJAグループが対抗できるようにしていきたいと考えています。東日本は、13年3月までに、「全農パールライス東日本株式会社」(仮称)を設立することとしており、西日本もできるだけ早く設立する方向ですすめているところです。 

 以上が、改革の3大ポイントです。

 そのほか、「改革」では、次のような方向づけを行いました。
 (1)国の役割の明確化
 食糧法下における米の「需給と価格の安定」に果たす国の役割を改めて明確にし、国に対して、JAグループの組織をあげて、次のような基本的対策を求めていく。
 @需給均衡化対策や円滑な販売対策の確立、A計画的生産(生産調整)実施者のメリットとしての稲作経営安定対策の充実、B国産米需給に影響を与えないミニマム・アクセス米の管理・運営、C精米表示の適正化、など

 (2)生産・集荷の機能分担
 生産・集荷は、引き続きJAの基本機能と位置づけて取り組むが、連合会が果たすべき機能については、JAの需要に応じた計画的生産を支援するため、迅速な情報提供を徹底して行う。このため、ホームページによる情報発信、JA・生産者等の登録者への電子メール送信など、最新の情報技術(IT) を積極的に活用する。

 (3)大規模農家・農業生産法人等の担い手への連合会の直接対応
 現在、大規模農家・農業生産法人等の担い手対応を、全JAで一律的に行うことには、企業的生産者のハイレベルのニーズへの対応や、組合員に対する一律公平な組織運営などの面からみて一定の限界がある。このため、大規模農家・農業生産法人等の担い手に対しては、JAと連携し、生産・集荷・販売面で連合会による直接対応力を強化する。

 (4)農産物検査実施業務の民営化対策
 米については13年産から、麦については14年産から、民間による検査がスタートする。JAグループは昨年12月、全中農対本部委員会で、「JAグループが米等の流通の太宗を担っていくためにも、検査実施業務に参入していくことが必要」との組織決定のもと、民営化に移行しやすい検査場所(CE等の施設)から順次実施していくことで準備をすすめている。今後は、この秋の運動のなかで、JAグループとして現実的に取り組める条件の整備を国に求めていく。

 (5)自主流通米の全国的な「販売・需給調整措置」の構築
 適正な価格形成を実現するため、自主流通米価格形成センターの「自主流通米の入札取引の仕組みに関する検討小委員会」に対して、売り手の意見反映を行い、入札・相対取引方法の見直し・改善をはかる。課題は、上場義務のあり方、買い手に対する自主米センターの参加指導、相対価格のあり方、入札指標価格の小売価格への反映などであり、JAグループとしても「研究会」を設置し、すでに検討をはじめている。
 また、JAグループ米穀卸の事業拡大と経営の安定をはかるため、品質管理、信用保険制度の充実に取り組む。

 (6)米飯学校給食を中心とした米消費拡大への取組み
 米消費拡大のため、とくに大消費地(東京、大阪等)における米飯学校給食について新たに全国的な仕組みを構築し、推進する。

 (7)物流・業務改革による流通コストの削減
 合理的・効率的な事業・業務運営に努めるとともに、物流・業務改革をすすめ、流通コスト(とりわけ運賃、販売対策費中心)を削減して生産者手取額の増加を実現する。

 (8)事業機能の強化と経営改善対策
 @JAグループ米穀事業の改革を確実に実行するため、事業機能を強化するとともに、経営基盤の確立をはかる。委託販売手数料については、定額制にしていくことを検討する。
 A「新たな米政策」や「水田農業活性化対策」により、「とも補償」、稲作経営安定対策および新たな「米需給調整・需要拡大基金」に係るJAグループの事務が極めて煩雑・膨大になっている。このため、情報システムを開発して合理的な実務処理体制を築いてきており、こうしたJAグループの事務処理に要する経費(事務費)について、基本的には13年産から収受する(全農・全国本部は10円/60kg)こととした。

 5.今後のすすめ方 

 以上が「改革」のあらましであります。改革は、テーマによって、やや具体的に提起したものから、今後の方向づけを行ったものまで、段階がいろいろあります。方向づけに止め今後つめていく必要がある課題については、JAグループ内でプロジェクトを設置するなどして具体化に取り組み、実行をあげていく必要があります。

 現在、米の需給は、国の12米穀年度末在庫が計画を約60万トンも上回ることや、12年産米の豊作基調から、相当量の供給過剰、在庫積み増しとなることが見込まれており、自主流通米にとっては、かつて経験したことのない厳しい集荷・販売環境となることが想定されます。この9月を目途に緊急の需給対策を決定すべく、国・JAグループあげた検討がすすめられていますが、こうした事情が、JAグループの「改革」のテンポを早めていくことも考えられます。グループ全体で、情勢の進展具合にマッチした「改革」への取り組みと具体化を急ぐ必要があると考えています。                                     以上



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