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国内農業生産と
公正・公平な貿易ルールの重要性 閣僚らが確認

米国NGO 食料安保に熱意なし

第25回FA0アジア・太平洋地域総会から

第25回FAO(国連食糧農業機関)アジア・太平洋地域総会 8月28日から9月1日にかけて第25回FAO(国連食糧農業機関)アジア・太平洋地域総会が横浜で開催され、32か国が参加、持続可能な農業開発と貧困の緩和、2015年までに栄養不足人口を半減させるとした世界食料サミット(1996年)のフォローアップなどをテーマに議論した。その結果、農業の多面的機能については意見対立もあったが、最終日に、国内農業生産や公正な貿易ルールが重要であることなどを盛り込んだ報告書を採択。また、総会に並行してNGO(非政府組織)/CSO(市民社会組織)協議会も開かれ、食料自給率の向上が食料安保達成にとって重要であることなどを総会に報告した。今回の会議は、WTO農業交渉にどう影響するのか。NGO/CSO協議会を含めその意義を考えてみる。


■アジアのNGO熱心に参加

 FAOは奇数年に全体総会、偶数年に地域総会(5地域)を開催している。日本での地域総会の開催は3回目、26年ぶりとなった。アジア各国のほか、南西太平洋地域からはオーストラリア、ニュージーランド、米国など32か国が参加した。

原田全中会長 今回の主要議題は@持続的な農業開発と貧困の緩和、Aバイオテクノロジーの可能性、B栄養不足人口を半減させることなどを宣言した世界食料サミット後の進捗状況、であった。
 前半の3日間は高級事務レベル会合が開かれ熊澤農林水産審議官が議長を務めた。また、後半2日間は谷農林水産大臣が議長を務めた閣僚会合が開かれて各国の農業事情について意見交換が行われた。

 また、FAOは、これと並行して28、29日の2日間にわたって「NGO(非政府組織)/CSO(市民社会組織)協議会」を開催した。FAOはNGOとの対話と協力をすすめる方針にしており他の地域総会でも同様の協議会を開いている。日本での協議会は、JAグループや全国農業会議所など10団体が開催を支援。30か国、250人が参加した。おもな参加団体はフィリピン、韓国、インドネシアなどの農業、協同組合関係団体やアジア地域での農村開発に取り組むNGOのほか、国際消費者連合など。議長にはJA全中の原田睦民会長が選ばれた。

■貿易自由化の問題点を検証

NGO・CSO協議会 同協議会では食料安保達成とFAOとの協力関係の構築をめぐって意見交換した。そのなかでJA全国女性組織協議会の伊藤副会長も基調講演を行った。
 伊藤副会長は、戦中戦後の食料不足の体験を話し、「家庭レベル、地域レベルでの食料安全保障を積み上げていくことが解決策。貿易自由化のみで達成しようというのは世界にとって建設的ではありません」などを訴えた。
 また、日本の農村社会では依然として女性は脇役に置かれていることを指摘。 食料安保を達成するためにも「女性と男性が力を合わせて国内自給率を上げていくこと」も主張した。

 他国の参加者からは女性も農地や経営資金などを活用できることが重要との意見も出された。また、貿易自由化には批判が続出。企業的農業経営や多国籍企業だけが利益を受けてきたなどの問題点が指摘された。
 こうした議論を踏まえて、協議会はFAOへ提言する報告書をまとめた。
 その概要は@農業や開発プロセスへの女性の平等参加、A食料安保の達成は国内自給率向上が第一義的な目標とすること、B農業の多面的機能に対する認識は貧困の撲滅と食料安保の基礎となるべきこと、C貿易自由化によって農業が商業化・集約化したこと、D食料の緊急事態に十分備えること、などである。報告は原田JA全中会長が閣僚会合で行った。

■多面的機能への理解は深まる

 一方、FAO本体の会合では、高級事務レベル会合で、アジアの経済危機の教訓を踏まえ、国内農業が失業の吸収、貧困緩和、食料安保に重要な役割を持つことや持続可能な農法の必要性については一致したが、「農業の多面的機能」という概念をめぐっては意見が対立したまま、閣僚会合を迎えた。
 結局、地域総会としての報告書には「多面的機能」という言葉は盛り込まれなかったが、国内生産、公正・公平な貿易ルール、持続可能な農村開発など、食料安保達成と貧困の緩和のため適切な農業政策が必要であることを強調する内容になり、日本の主張は盛り込まれているといえる。

 会議後の記者会見で谷農相は「(貿易自由化を主張する)ケアンズ・グループとの溝は埋まったとはいえない」としながらも「多面的機能についてはみな考えているのではないか。言葉の上では違っても堀下げて話してみると同じ(ことを言っている)という気がした」と会議の成果を語った。

■ケアンズ諸国 食料安保に関心なし?

 今回の会合でNGO協議会の提言は1つの“情報”として閣僚らに報告されたにとどまったが、アジア太平洋地域総会の公式文書として採択されたことに変わりはない。

NGO・CSO協議会には30ケ国、250人が参加 NGO協議会について、JA全中WTO対策室では「多面的機能という言葉がまだ広がっていない面も感じられたが、NGO間で国内農業生産の重要性などの認識にはズレはまったくなかった」と評価する。その背景にはJA全中が昨年立ち上げた「協力のためのアジア農業者グループ」がある。これまでに日本でのシンポジウム開催など2回の会合を持ち、アジアの気候、稲作を中心とした農業などの点で共通認識を深め、とくに2回目の会合では「米作を中心にしたモンスーン地域」という考え方を共有している。今回の会合にも同グループからの参加も多く基調講演なども行った。JA全中では今回の成果を機に「アジアを足場」にした連携を一層深めていきたいとしている。

 地域総会では、オーストラリアなどからは食料安全保障達成のためには、貿易自由化の促進が重要との主張が相変わらずなされた。しかしながら、米国やニュージーランドから出席したのは農務省などの課長、オーストラリアは在京参事官という対応だった。また、NGOに対しては、FAOは400通もの案内を出し、なかでも米国、ニュージーランドのNGOには再三にわたり会合の開催を知らせたという。しかし、参加するNGOはなかった。
 参加すれば、貿易の自由化こそ食料安保達成の道とのこれまでの主張を展開することもできたことから「そもそも米国などは食料安保達成に熱意がないのではないか」(JA全中WTO対策室)という声もある。一方で世界の食料安全保障の観点から貿易ルールの見直しを考える必要性について、多くの国でその認識が深まりつつある。WTO交渉での大きな焦点になるだろう。



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