価格下落の原因を過剰生産に求めるのが経済学の常識だが、日本では生産が減り、農産物が不足し、自給率が低下しているのに値崩れがひどい、常識が通用しない構造になっている――などとして共産党は10月30日、東京都内で「農産物価格下落問題シンポジウム」を開き、輸入急増に対応するセーフガードの発動や、コメのミニマムアクセス(MA=最低輸入義務)撤廃などを政府に迫った。
東北大学の河相一成名誉教授は、値下がり要因の一つとして世界貿易機関(WTO)体制を挙げた。
WTO体制は、世界市場支配の条件づくりに向けたカーギル社(米国)などの多国籍企業が中心になってつくりあげたものであり、市場原理至上主義で規制緩和を推進し、価格を下落させていると説いた。
これに沿って日本は、価格下落の仕組みを整備し▽実需者(食品関連企業、流通業界、量販店など)や商社の要求と需給実勢の反映▽大幅な予算削減など価格支持政策の後退▽コメの場合は食管法廃止などの自由化を進めてきたと述べた。
打開策としては、米国などの農業政策をにらんだ▽固定支払い▽市場損失補償▽融資差額・不足払い▽最低支持価格買い入れなど価格支持政策復活の課題があるとし、自治体で出来ることもあると指摘。さらに自給率向上に向けたWTO協定の大幅改定を挙げた。
農民連の小林節夫代表は価格暴落の原因として中国からの開発輸入激増を指摘した。商社など日本のアグリビジネス3000社余りが開発輸入を競い、卸売市場を通さず、量販店などに直接販売をしているが、農水省はこれを「先進的流通」と位置づけ、セーフガードを発動しないのだという。
また台湾から中国に進出した多国籍企業が山東省に野菜の冷凍加工工場を建設するなど農産物輸出に血道をあげている例を示し、その結果、中国の農家は年4回のホウレン草連作という非常識をあえてやったり、作物を農薬まみれにしていると告発した。
農民作家の坂本進一郎氏は生産者の実感をもとに、WTOは多国籍企業のための貿易を目的にしているとし、かつてのガットは自由貿易を掲げたが、WTOはMAによって、いらないコメを押し売りする管理貿易を進めていると論じた。
シンポでは、産地の実態報告がたくさんあったが、これら議論をまとめる形で共産党の中林よし子衆院議員は「農業と農家経営を守る最低限で当たり前のルールの確立を−価格暴落が広がる異常事態を打開する日本共産党の緊急提案」の実現を目ざす運動を訴えた。
【共産党の緊急提案】
@米価低落に歯止めをかけ、最低価格を保障するルールを▽自主米取引に、2年前の米価と同じ水準の下限価格を設定する▽落札残は政府が買い支える▽MA米輸入量を大幅削減する▽MA米在庫は加工用を含め国産米需給と完全に切り離す▽適正水準を超える政府在庫も加工用などで処理し、減反拡大を中止する。
A輸入急増を抑え、野菜などの国産農産物を守るルールを▽セーフガード発動を機敏に行う▽価格補てん制度を実情に合わせて改善する(対象となる品目と産地を全国に広げるなど)▽異常時の減収を補償する▽野菜生産安定のための法案化を図り、実現を目ざす。
B不要不急の公共事業を削減して、価格保障の財源にする。
CWTO交渉で、輸入規制・価格保障が可能となる貿易ルールを▽食料輸入国の食料自給率を引き上げるため、コメを輸入自由化の対象から外すなど農業協定の枠組みを変える。
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