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「農村計画法」制定を展望
土地利用計画や「多面的機能の発揮」を議論

−JA全中が「地方分権時代のまち・むらづくり」シンポ

 農村荒廃の中で、JA全国大会は〈『農』と『共生』の地域社会づくり〉を打ち出したが、これを受けてJA全中と(社)地域社会計画センターは24日「地方分権時代のまち・むらづくり」をテーマに「農村計画シンポジウム」を東京・大手町のJAビルで開き、JAグループや自治体の担当者ら約160人が土地利用計画などを考えた。JAが地方行政に参加するテーマを、こうした形でJA全中が追求するのは今回が初めてだ。

「地方分権時代のまち・むらづくり」シンポジウム

 JA全中の原田睦民会長はあいさつの中で、従来の区画整理の画一性を指摘。今後は「地域に合った個性的な再開発が期待される」との方向を提示した。
 山田俊男専務は、分散している荒れた農地をまとまった形で担い手に集積するのが困難な現状を報告。転作大豆助成が最高額となる4haの団地化でさえ難しい例を挙げるなど、効率的な土地活用が切実に求められると問題提起した。
 またJAの積極的な地域づくり参加を訴えた。

田中秀一氏
前JA松本ハイランド組合長
田中秀一氏

 現場の報告では、長野県・JA松本ハイランドの田中秀一・前組合長が、田んぼの中に建つパチンコ屋や中古車センターなどの写真を示しながら、虫食い開発による環境破壊への危機感から、住民とJAと行政が一体となって「農村計画」を策定。その実現に取り組んでいると報告した。
 田中氏は、JAは地権者集団として、その意思を行政に対して明確に打ち出すべきだとの立場を強調し、道路建設や松本空港拡張などにも地権者の意思を反映させてきたと語った。

 これに先立ち東京農大の北村貞太郎教授は基調講演で「農村計画法」という新しい法律を制定することを提案した。
 農業・農村関係の個別の法律は、はかなり整っているが、農村を全体的にとらえて「育成」する施策は欠落している、農村は「生きもの」であり、有機体だからこそ多面的機能を発揮できるという考え方から、新法の必要を説いた。
 農村づくりの制度的欠陥として▽市町村の土地利用計画は面積の数値だけ。農村全体を地図で色分けしていない▽俗称「農振白地」である村落を背景とする法律がない▽農用地区域以外の開発規制が農振法にはなく、村落周辺で無秩序開発が進んでいる▽農村には工業も商業もあるが、農振法は農業が対象で、商工業施策と一体化されていない−−と指摘。農村土地利用計画を中核とする農村計画法の制定を提案した。
 また北村教授は、JA松本ハイランドが取り組む農村計画は小土地利用にも着目した事業であり、先進国ドイツの利用計画に似ていると高く評価した。

藤平博司氏
神戸市農政計画課長
藤平博司氏

 一方、法制度の欠落に対し、条例で土地利用を総合的にコントロールする市町村が出てきて、昨夏の「地方分権一括法」以後は住民参加で、これに取り組む地域づくりが加速している。
 シンポでは、その事例を田中氏をはじめ、神戸市農政計画課の藤平博司課長と新潟県上越市の大野孝・副市長が報告した。
 神戸は「条例による集落主導の里づくり」、上越は「地方分権の実現を目ざす食料・農業・農村条例」の取り組みが進んでいる。
 農村計画法が実現していない今、地方分権の時代にふさわしく、各自治体が条例で土地利用計画づくりを進めているという報告は参加者を大きく力づけた。

 現場からの報告に引き続き行われたパネルディスカッションでは、田中氏や藤平氏が、今後の農村計画づくりには、JAの力が重要になることを改めて指摘した。とくにJAの合併が進み複数の市町村を管内とするなか、一方で土地利用計画などは市町村単位で策定されるため「広域JAとしてどう行政と関わりを持つか」(田中氏)が重要と指摘した。

大野孝氏
新潟県上越市副市長
大野孝氏

 また、大野氏は、自治体が制定した条例から具体的な施策を実行するにあたっては、「どの施策をどういう段取りで実施するのか、また効果をどう評価するのかも地域に示す必要がある」と指摘した。

 北村氏は、農業政策と一体となった農村計画づくりが必要だと強調した。そのためには、たとえば自給率の低い飼料生産について「山地酪農」の導入や、稲作以外の作物の生産振興なども視野に入れた農村づくりや、都会の人々が長期滞在して農業に携われるような仕組みも合わせて求められることなどを訴え、従来の農村整備が「開発」だったのに対し、今後は「農村づくり」という観点で、まずは自治体が条例づくりに取り組むことが「地域の連帯感も高まる」と、自治体とJAに対する期待を語った。


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