JA全農の実践SS1号店「JASS‐PORT草加」が平成11年12月3日にオープンして1年余が経過、実績も順調に推移している。同店はセルフSSだが、その成功の要因は、フルサービスSSでも十分に参考にできる内容をもっている。そこでJASS-PORT草加の1年余の運営・展開を振り返り、SSに対する消費者ニーズは何なのかを探ってみた。
きれいなタオルを好きなだけ使えるSS
◆若い人が週末に利用
一般に、セルフSSが成功する最大の要件は、価格だといわれているが、JASS‐PORT草加の場合には、周辺のフルサービスSSが、同SSの価格に追随してきているために価格の優位性を発揮することは難しい。そのため、当初は300kl/月の販売量が確保できるのかという懸念があった。しかし、オープン以来のガソリン販売量は月平均約400kl(表1)、これに軽油と灯油を加えた燃料油全体では、503kl/月とこの懸念を吹き飛ばす実績をあげている。
同SSのどのようなサービスが利用者に評価されているのだろうか?
同SSの利用者を年代別に見ると、10〜20歳代30.7%、30歳代40.1%、と30歳代までで70%を超え、40歳代15.5%、50歳代9.2%、60歳以上4.5%と、年齢が高くなるにつれて低くなる。特に女性客の80%以上は30歳代まででとなっており、若い世代の利用客が多いというセルフSSの特徴が同SSでも顕著にあらわれている。
また、曜日別の来店台数は、平日を100とすると、日曜・祝日が約160、土曜が148と休日型となっている。これを時間帯別にみると、平日の場合には夕方の午後5時から11時にかけての利用客が多くピークは午後8時前後だが、土曜・日曜・祝日は午前10時から午後11時までほとんど差がなく利用され、特に土曜日は午前1時頃までピークが続く。午前1時以降早朝午前5時までの利用者もかなりいるという。
◆愛車を自分の手で心いくまで磨き上げる
こうした顧客層に対して実施しているサービスは、
@窓拭き・洗車ふきあげ用タオルの提供
Aエアフィクサー(タイヤ空気圧調整機)の設置
B完全アイランド精算と定額・定量給油への対応
Cイベント・キャンペーンの企画・実施と会員への案内
D年中無休24時間営業とコンビニエンスストア(CVS)ファミリーマート併設
Eセルフ洗車機の設置
F灯油のセルフ給油
などがあげられる。
給油中の窓やボディ、洗車後のふきあげ用に、常時120枚のタオルが用意され、来店者が自由に使えるようになっているが、給油客の90%以上が利用。「常にタオルが常備してあり、自分の時間の都合に合わせて使え、助かる」とか「いつもきれいな雑きん(タオル)がたくさんあって、とても気持ち良く利用させていただいています」「給油中に車体がふけるので大満足」など、高い評価を利用者から得ている。
常にきれいなタオルを提供するために、常駐のアルバイトが30分〜1時間ごとに洗濯をしなければならないことと、月平均で500枚(昨年12月には777枚)汚れて廃棄したり紛失し、補給のためのコストがかかるのが難点だといえる。一時、タオルの枚数を減らしたことがあるが、ガソリン販売量も減少したので、元の枚数に戻すと、「タオルが増えて良かったです」という反応があり、販売量も回復したという。
来店客は前に見たとおり若い人たちが圧倒的に多い。彼らは、自分の車に愛着をもち大事に扱っている人たちだともいえる。だからフルサービスSSに対して「きれいなタオルでもっと丁寧に窓を拭いて欲しい」とか「大事な車に触って欲しくない」という不満をもっている人も多い。しかしここなら、窓の内側やステアリング周りまで、楽しそうに拭きあげている姿をよく見かけるが、自分の納得がいくまで、自分の手で愛車を磨き上げることができる。
◆長い列ができるセルフ洗車機
|
洗車もSSの大きな目玉に |
こうした車にこだわりを持つ人たちのニーズに応えて好評なのが、セルフ洗車だ。洗車機はソフトブラシ仕様の門型ドライブスルー式(通りぬけ方式)で、温水・イオン水を使用し、下部洗浄機能を持っている。オープン以来の実績は表2のように当初の予測をはるかに上回るペースで伸びている。料金体系は、シャンプー洗車400円、WAX洗車600円、ミラコンコート800円で、下部洗車をすると各々200円が加算されるが、周辺SSの洗車料金よりも20〜30%安く設定されている。しかも、通常は200円位は高くなるワンボックスカーも同じ料金だから若い人たちの利用が増え、週末には長時間待つことがあたりまえの状況となり「洗車機を増やして欲しい」という要望がでるほどだ。
長時間待ってもここで洗車をしたいという人は多い。それは「いつも洗車を利用させていただいています。無料でタオルを置いてあるサービスもいいですね」というように、洗車後の拭き上げを自分の手で心ゆくまでできることが、楽しいし魅力なのだ。
価格の安さもあるが、それに加えて「きれいなタオル」を好きなだけ使うことができるSS。それが利用者の心をつかみ、JASS‐PORT草加躍進の大きな力になっていることは間違いない。
抽選応募券でリスト取りし、現金会員化
◆限定給油が全給油台数の半分近くも
ここは、若い利用客が多いこともあって、表1のようにハイオクの販売量が多いのもここの特徴だ。特に週末の深夜など若年層の来店が多い時間帯では、ハイオク比が50%を超えることもある。これも当初予想しなかったことだが、それはなぜか?
ハイオク仕様車に乗っている若者にとって、あまりお金のないときに、フルサービスSSで「2000円分ハイオクを」とは「カッコ悪くて」言いにくい。しかし、ここなら「完全アイランド精算」だからSSの従業員と一切接触せずに、その時に給油したい量(定量)か金額分(定額)だけを購入することができる。
「ガソリン代は週2000円に決めているので、ここは利用しやすい」という若者もいる。1台あたり販売量は減っているが、リピーターとなっているので、来店台数も総販売量も増えてることが、表1、2から読み取れる。実際に1000〜3000円の定額給油が全給油台数の37%、定量給油が10%と限定給油が約半分を占め、特に給料日前になるとこの比率が高くなる。
◆タイヤ空気圧に高い関心
|
愛車のタイヤ空気圧を確認する 女性ドライバー |
無料で利用できるエアフィクサー(タイヤ空気圧調整機)も好評だ。オープン時には、あまり利用頻度は高くないだろうと考えられ2台しか設置しなかったが、来店客の15〜20%が利用するなどタイヤ空気圧への関心が強いので、RV車対応の大型機を1台増設した。
「たまには空気圧も見て欲しい」というフルサービスSSへの不満が利用者にはある。つまり、SS側が敬遠しがちなサービスに、実は消費者ニーズがあり、そのニーズに応えることで、集客力を高めることができたわけだ。
◆会員価格で周辺SSと差別化
このように、JASS‐PORT草加の成功は、消費者がSSに対して持っている不満=ニーズに、タオルと洗車そしてエアフィクサーで的確に応えたことにある。そして、来店した利用者を固定客化するための方法が「現金会員化」だといえる。
セルフSSに会員制度は必要か? 人手がないセルフ(常駐アルバイト1名)でリスト取りはどうするのか? など課題はいくつかあった。それでも導入したのは、周辺SSが価格追随し、常に同価格もしくは高値販売を余儀なくされ、利用者から「セルフなのに同じ価格なのはおかしい、もっと安く」という意見が多かったからだ。現金会員は表示価格より2円引き(当初、1円。1周年キャンペーン中は3円引き)とすることで、評価が定着してきた。
◆人手をかけずにリスト取り
導入にあたってリスト取りは大きな課題だったが、イベント応募券を活用することで解決した。具体的には、オープンチラシ(新聞折込)に「お米大抽選会」への応募券を印刷。そこに住所・氏名・年齢・電話番号などを記入して、来店時に店頭の応募箱に入れてもらうものだが、当選者には葉書で通知するとしたため、ほとんどの応募者が正確に住所・氏名を記入してきた。さらに同様なイベントを12年2〜3月に実施。11年12月1706件、12年3月689件の合計2395件のリスト取りができた。このリストによりデータをJASS‐NET‐ITに入力して、4月に会員カードと送付案内を送付。その後も昨年7〜8月にはJAグループの「夏のキャンペーン」、12月には「1周年謝恩キャンペーン」を企画・実施し、会員数は昨年12月10日現在で6356件にまで達した。
そして、ガソリン販売数量に占める現金会員の割合は、5月は13.9%から、8月以降毎月30%を超え12月には1周年キャンペーン効果もあってか42.1%を占めるまでになってきた。
いつでも使えて安心・便利--認知されたCVS併設
◆車利用者の待ち合わせ場所に
|
CSVとの併設も成功、順調に進展する JA-SS PORT 草加 |
JASS‐PORT草加で忘れてはならないのが、CVS・ファミリーマートの併設だ。
計画当初、周辺に住宅が少ないこともあって、CVS関係者は日商20〜25万円で、収益がでないという意見が多かったという。全農との連携を快諾したファミリーマートの見込みも30万円/日だったが、結果は表3のように、昨年7月以降ほぼ50万円を確保し、12月の前年同月比は売上で127.2%となっている。
これには、外環自動車道のインターから1kmという立地とSS併設ということで、ドライブやツーリングの立寄り場所として利用されていることがある。それを反映してか、売れ筋商品は、サンドイッチ・おにぎり・ドリンク類が上位を占め、他のCVSの売れ筋である惣菜などはあまり売れていない。特にドリンク類は、1日平均535本とファミリーマート川口エリア44店舗の平均260本の倍以上の実績となっている。
◆SSとCVSの出入口を別々に
もう一つは、SSとCVSの入口を独立させたことだ。よくある併設スタイルは、CVSに入るにもSSを通らないと入れないというものだ。これだと、食品に油くささや油汚れがつくのではないかと、利用者から敬遠される。JASS‐PORT草加では、計量機とCVSの間を大きくとり、入口を別にする。CVSの制服でSSには出ない、SSの制服でCVSの業務をしないことも徹底している。
その結果、24時間年中無休営業のセルフSSとCVSの併設は「いつでも使えて安心・便利」と評価され、同時利用者の比率も昨年2月の7.5%から11月には12.4%へ5ポイント上昇。特に、深夜0時から5時の時間帯で同時利用率が高くなっており、営業時間の長さと併設店舗もセルフSSの重要なサービスの一つになっている。
フルサービスSSでも応用できるノウハウが
同SSが行った顧客調査から共通のキーワードをあげてみると、@自由・気軽、A簡単・便利、Bスピーディー、Cマイペース、D安い、E気がねなし、F楽しいということになる。そこから浮かび上がってくるのは、ファーストフードやコンビニ感覚でJASS‐PORT草加を利用している姿だ。
こうした感覚に的確に応えているから、ここは成功しているわけだが、その運営ノウハウには、フルサービスSSでも十分に応用できるものがいくつもある。それを列挙すると
@窓拭き時に室内清掃用タオルを貸し出す
A洗車メニューの多様化。例えば拭きあげのみセルフにしタオルを用意する。
Bエア調整場所の提供とエアフィクサーを設置し、セルフスタイルで利用してもらう。
C抽選応募券によるリスト取りと現金会員化
そのほか、ここでは触れなかったが、Dドライブウェイの給油・洗車動線や停車位置の表示、E告知看板、メニュー・価格ボードの掲示などもある。
SS業界は文字通り「生き残りをかけた大競争時代」にある。この時代に生き残れるのは、セルフかフルサービスかを問わず、消費者のSSへの”思い”に応え、SSへの不満を”解消”してくれるようなサービスを提供することができるSSだけだといってもよいだろう。そして、それがどういうサービスかという一つの答えが、JASS‐PORT草加にあるのではないだろうか。
|