◆インフラ整備・利活用システムの充実・リテラシーの向上を一体的に推進
「IT戦略」が目指す農林水産分野の姿は、
1.生産・消費サイドの間で十分なコミュニケーションが図られ、意欲ある生産者が市況・気象・技術情報、消費者ニーズに関する情報を利用し創意工夫をいかし、高い生産性や高付加価値を有する企業的経営を持続的に展開することができる。
2.流通の合理化等による流通コストの削減を通じ、合理的な価格での商品提供が行われ、生産者にもその恩恵がおよぶとともに、消費者も安全・安心情報等の入手により商品選択の機会を増やすことができる。
3.農山漁村の住民が、その地理的制約にもかかわらず、インターネット等を利用し都市に劣らぬ利便性の享受や就業機会等を確保するとともに、多様な交流を行い、豊かな自然環境の中で、農山漁村の特性を活かしたゆとりと豊かさを実感できる国民生活をおくることができる。
ことにあるとしている。
そしてそのためには、「ITが農林水産業等の活性化の手段である」ことに留意したうえで、
1.ITインフラの整備
2.デジタル・コンテンツ、アプリケーションの開発・普及など、情報の電子化の推進や利活用システムの充実
3.情報リテラシー(利活用能力)の向上
を一体的に推進していくことが重要だとしている。
◆インフラ整備には公的支援も
「インフラ整備」については、すでに都市と農山漁村には大きなデジタルディバイドが存在し、今後、都市部のITインフラ整備の高度化によってその格差が拡大するおそれがあるという現状認識にたち、「民間主導による整備が見込まれにくい地域においては、行政が民間を補完する観点から、公的支援措置による積極的な整備を進めることが必要」だとしている。
◆レガシー情報のデジタル化など共通基盤の開発・普及
「コンテンツ、アプリケーションの開発・普及」については、国・地方公共団体、試験研究機関、普及センターなどが保有するレガシー情報(電子化されていない有用な情報)のデジタル化、開発済みアプリケーションの公開、先導的・モデル的なアプリケーションの研究開発、普及、既存デジタル情報のいっそうの有効利用や精度の高い有用な情報内容の充実など、共通基盤の開発・普及を重点的に推進していく。
そして「重点政策分野」として
1..企業的経営支援
2.電子商取引の推進と消費者への情報提供の充実
3.農山漁村地域の利便性の向上
4.資源管理の高度化
の4つを掲げ、推進方策を提示している。
「企業的経営の支援」では目標として、1)平成16年度までにパソコンを農業経営に利用する農家の割合を20%程度にする(現状は7%程度)、2)公的機関などが保有するレガシー情報のデジタル化の推進、3)地域にあった総合的経営支援システム(ワンストップ経営支援体制)の開発・普及の推進をあげ、農業者等の各種情報の迅速かつ的確な入手、地産地消システムの構築、ネット産直、精密農業などを推進していく。
「電子商取引の推進と消費者への情報提供の充実」では、生鮮食品などの流通システムの開発・実証などを通じた流通の合理化、消費者への安全・安心情報の提供などを推進していく。
「農山漁村地域の利便性向上」としては、遠隔健康管理システムの開発・普及、生活関連情報の迅速な入手、都市と農村のネットワーク化などを進めていく。
「資源管理の高度化」としては、農林地などの地理情報システムの整備などを推進する。
◆1万人の地域情報化リーダーを育成
インフラが整い、コンテンツやアプリケーションが充実しても、それが活用されなければ「情報化」は進展しない。そのためは情報リテラシーの向上が不可欠だ。そのためには、もうかる・楽しい・魅力あるコンテンツの整備などインセンティブの確保や情報リテラシー向上のための指導人材の確保(16年度までに地域情報化を担うリーダー1万人を程度育成)、高齢者が使いやすい機器の開発・普及が必要だとしている。
◆強力なリーダーシップもつ推進体制構築と縦割行政の見直し
最後にこの「IT戦略」に基づいた施策を的確に推進するため農水省として
1.次官直轄等強力なリーダーシップと権限をもった省内推進体制の構築が重要である。
2.ITに精通した省内人材の確保・育成と、各局庁におけるITを総合的に推進する部署設置の検討。
3.ITにかかわる省内縦割り予算編成・執行体制のあり方の見直し。
4.第3者委員会によるチェック・アドバイス体制の確立。
などが必要だとしている。
◆生産現場の視点を取り入れて実施を
21世紀の農業・農村の発展基盤を築いていくうえで、ITの積極的な活用は不可欠だといえる。しかし、昨年11月に実施された「農家のパソコン利用状況アンケート結果」(農水省)によると、パソコン所有農家は全農家の34%だが、パソコンを農業経営に利用している農家は全農家の7%にすぎない。また、インターネットを利用している農家も全農家の12%と都市部に比べ低く、デジタルディバイドはかなりあるといえる。
それをどう埋め、農業と農村を活性化していくかがこの「IT戦略」の最終的な目標だといえる。ここに書かれていることは、すぐに具体化できそうなものから、かなり長期にわたり予算の確保が必要なものまで、多岐にわたっているように思える。これをどう整理し、確実に段階をおってどう具体化していくのかを明確にする必要があるのではないだろうか。
また各種の情報をデータベース化し「分散データベース協調型システム」を開発したり、ITの推進を効率的・効果的に行うためには「縦割行政(意識)を排し、連携の強化、役割分担の明確化が必要」なことはいうまでもないが、そのためには「IT戦略」でも指摘しているように「強力なリーダーシップと権限をもった推進体制の構築」が必要だが、実際に使う生産者がITに何を期待し、どうしたいのかを知ることも不可欠ではないだろうか。そうした現場からの視点・意見を聞き補うことが、この戦略の成否の鍵を握っているように思える。
|