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解説記事

ニンニク輸入をめぐる韓中間の貿易紛争
朱 宗 桓(韓国 東國大学名誉教授・韓國農政新聞発行人)

 ねぎ、生しいたけ、い草(畳表)の3品目に対する日本政府のセーフガードによる輸入制限とその一環としての輸入検疫強化をめぐって、日中間に貿易紛争が起こっている。ところがこれと大変類似の状況が韓国と中国の間でも起こった。だから日本の農政関係者にとって韓国の事例は大変参考になるであろう。

朱宗桓氏
(略歴)
1952年東京大学経済学部卒業、1954年東京大学経済学部大学院卒業、1974年経済学博士。韓国農業経済学会元会長、韓国社会経済学会名誉会長。現在、韓国農政新聞発行人、参与民主主義社会連帯付設参与社会研究所理事長。
◆中国の要求のめば価格が一層下がる

 韓中間のことの始まりは2000年7月末にさかのぼる。このとき行われた韓中間の貿易交渉において、韓国側は2000年内に関税割当数量(クオーター)として、冷凍ニンニク2万105トンの輸入を認めると約束した。これに基づいて、韓国政府は2000年内にMMA(政府義務数量)として1万1895トンを輸入した。けれども、残りの分は輸入を履行していないから、これを2001年に繰り越してすぐ輸入しろ、というのが2001年4月初めの中国側の要求であった。
 中国側のこのような要求に対して、韓国政府ははじめ、政府の義務数量はすべて履行済みであり、それ以上の輸入は民間業者が自由に判断して輸入すべきものだが、これについては中国のニンニク価格上昇のため輸入できなかったものであり、韓国政府側に責任をなすりつけることは納得できないと主張した。
 今年の4月初めの韓中貿易交渉の時、韓国政府のニンニクの在庫量は生ニンニク1万トン、乾燥ニンニク3000トンであった。これを生ニンニクに換算すれば、在庫量は2万2000トンであった。このような在庫量の影響のもと、当時のソウル中央卸売市場の価格は、1キロ当たり1500ウォンに下がっていた。ちなみに、近年の平均価格は2133ウォンであり、価格が大幅に下落した昨年4月時点の価格1650ウォンよりも150ウォン低い価格であった。しかもニンニクの収穫時期を前にして、もし中国側の要求をのめば、価格はより一層下がるおそれがあった。
 韓国政府はこのような事情を中国側に説明して了解を求めたが、中国側は、もし約束した輸入数量を履行しなければポリエチレンや携帯電話等の工産品の輸入を規制せざるを得ないと主張して譲らなかった。このため韓国側は致しかたなく、中国側の主張を認めて、2000年の約束数量を民間輸入分も含めて全量輸入することを約束した。さらに2001年の輸入分として3万3700トン、2002年分として3万4500トンを民間輸入を含めて全量輸入する約束をしたと報ぜられた。

◆農業放棄政府と強く批判

 このようなニュースが伝わるやいなや、韓国の農民団体は猛烈に反発した。全国農民会総連盟や農民団体協議会など主要な団体は声明を発表し、「正当性と名分のある交渉においてすら一方的に譲歩して帰ってきた政府交渉団は、その責任を追及して即刻罷免すべきだ」と述べたうえで、「このたびの貿易交渉の結果、中国産のニンニクが全量輸入されれば、ニンニク価格の暴落によって、42万と推定されるニンニク栽培農家の被害が予想されるのみならず、ニンニク栽培農家たちが他の作物に鞍替えして連鎖反応による農村地域経済の全般的崩壊が予想される」と主張し、韓中貿易交渉の内容を即刻撤回せよ、と要求した。また、「農家の被害を補償するための充分な対策を講ずることなく、価格安定のために使用することになっている農水産物価格安定基金を中国産ニンニクの輸入のために使用しようとする動きがある、と指摘しながら、政府は農業放棄政府であると強く批判した。また、農協のニンニク問題全国協議会も声明を発表し、「今回の屈辱的韓中ニンニク貿易交渉の結果、現在産地のニンニク取引が一切中断されている状況であり、やがて今年産のニンニクの供給が始まればより一層の価格暴落が予想されるので、政府の特段の対策が必要である」と主張した。
 一方、全国農民会総連盟は4月28日に全国的な対策委員会を招集し、強力な運動を展開することを決議した。これにもとづいて5月2日には、慶北道義城郡の農民が収穫間際のニンニクの圃場を掘り起こしてしまう抗議集会を開いたのをきっかけに、これと同じ様な抗議集会が全国に波及していった。また一部では、与党民主党の地区党事務所を占拠したり、大討論会を開くなど激しい抗議集会が行われた。

◆中国産は国内の市場に出荷せず

 これに対して、政府は5月16日に対策会議を開き、政府補償価格を最低キロ当たり、暖地産は1250ウォン、寒地産は1850ウォンとし、売渡希望数量の全量を政府が買い上げることとし、その資金の一部は農産物価格安定基金を使用すること、輸入した中国産は国内市場には出荷せず、全量をフィリピンなどに再輸出する事などを決めた。これに対して農協のニンニク問題全国協議会は歓迎の声明を発表したが、その他の農民団体などは補償価格が低い、価格安定のための資金はニンニク輸入のおかげで儲かるようになったポリエチレンや携帯電話の製造業者が負担すべきである、にもかかわらず、農産物価格安定基金を農産物輸入資金としては使用しない、との約束を反故にしながら、農産物価格安定基金をあてることは許せない、などと抗議した。しかし一応この線で決着している状況である。ちなみに本原稿を書いている7月12日現在の国内産ニンニクの卸市場価格は、キロ当たり暖地型の場合1400ウォンである。ちなみに、過去5年平均価格は1707ウォンであったから、だいぶ低いが、それでも一時期に比べれば多少立ち直ったといえよう。
 一方、韓国政府の貿易委員会は6月8日に会議を開き、昨年6月に決めた中国産ニンニクに対するセーフガード(緊急輸入制限措置)をWTOの規定に基づいて、来年12月まで存続させることを決めた。その理由として、(1)国内産ニンニク産業の被害ががまだ充分に回復していない、(2)セーフガードを解除した場合国内産ニンニクに多大な被害が出る恐れがある、ことなどをあげた。
政府のこのような決定に対して,農民団体などはこぞって賛成の声明を発表した。ただし、農産物価格安定基金を使用することに対しては依然として反対の立場をとっている。しかし、これで一応決着がついたと言えよう。


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