研究会の第1回の会合の冒頭で、まず全国各地のJA代表が取り上げたのはMA(ミニマム・アクセス)問題だった。国内で減反しているのに輸入している、という異常な状況は、いったいどうしたことか。輸入しているにもかかわらず、減反に影響していない、と政府は言っているが、それはいったいどういうことか、という問題である。
この問題は減反の総枠の問題として、つまり米の全体の需給の問題として、まず最初に取り上げるべき問題である。
減反の実効性の確保と、不公平の是正は、現行の米政策の中で最重要な課題であるが、本稿では、その前にMAを取り上げよう。現行の米政策に対する農業者の不信の根源がMAにあるからである。
◆歴代政府のMA米の処理
MAと減反についての歴代の政府の考えは、つぎのようなものだった。MAを受け入れた当時の政府、つまり現在のほとんどの野党は「米のMA導入に伴う転作の強化は行わない」ことを閣議了解とした。その後、与党と野党が入れ替わったが、歴代の政府は、この閣議了解を遵守すると言ってきた。だから、ほとんど全ての政党は、この閣議了解を遵守してきたことになっている。それゆえ、いまさらMAによって国内生産を縮小させてきた、などとは言えない状況にある。ここに米政策の混迷の原因がある。
いっぽう、行政機関である農水省は、この閣議了解を忠実に執行する責任がある。忠実に執行するには、MA米を飼料用や海外援助用など、これまでの用途とは違った新しい用途で処理すべきだった。そうすれば、市場への供給量は以前と変わらず、MAによる減反の強化は、しなくても済んだ筈である。
しかしながら農水省はそうしなかった。このため、米の総生産量を減らさざるをえなかった。ここに農業者の不満と不信の根源がある。
では農水省はMA米をどのように処理してきたか。MA米の一部は援助用にしてきたが、多くは加工用にしてきた。このため、国内の加工米生産は縮小せざるをえなかった。つまり、米の総生産量を減らさざるをえなくなり、減反を強化せざるをえなかった。
◆農水省の強弁
この点を農水省はどう説明してきたか。それは、加工米は米ではない、という強弁である。減反は主食米について行っていて、加工米は減反の対象にしていない、というものである。だから、加工米の生産を縮小しても減反の強化にはならない、とする強弁である。それをいままでくり返してきた。
だから、こんどの研究会の「生産調整に関する研究会」という名前は偽りで、「主食米の生産調整に関する研究会」というべきである。しかし、そのような矮小な研究会では、米政策の根本的な再検討などできはしないだろう。
たしかにMAを受け入れたときは、加工米は他用途利用米と言われていて、便宜的に減反の枠外におかれていた。つまり、加工米を生産しても米を生産したことにしないで、米以外の作物を生産したことにして、減反助成金を支払っていた。そして、その代わり加工米を安価に供給していた。加工米の安価な代金と減反助成金とを合算すれば、主食米の代金と同額になることを目ざしていた。
しかし、実際には加工米を生産するのは、主食米を生産するよりも不利だった。このため農業者にとって不評だった。農水省はこの点に目をつけて、他用途利用米の制度をやめて、MA米を加工用に向けたのである。
このように、加工米は米ではない、という主張は、あくまでも制度上の便宜によるものであって、加工米も米であることに変わりはない。以前、与党のある国会議員が、加工米を米として認知せよ、と主張したが、取り入れられなかった。
◆MA米の影響
加工米は米ではない、という主張は便宜的なものだからどうでもよい、というものではない。今後の米政策に重大な関係をもっている。また、MA米は加工用で処理しているから、国内の米生産を縮小させていない、という主張は、今後の米政策に重大な影響をもっている。
国内への影響であるが、いうまでもなく、現在の農業政策の最重要課題は、食料の国内自給率の向上である。この課題に反して、MA米を加工用で処理して、その分だけ米の自給率を引き下げてきた。
そうではなくて、加工米を国産米で供給する体制を整備し、MA米のうち加工用にしてきた分を飼料用にすれば、その分だけ飼料用穀物の輸入を減らすことができた筈である。
国民に対して「食べ残しを減らして自給率を向上せよ」などと説教を垂れる前に、このようにして自給率を回復すべきだったのである。
国際的な影響も重大である。MAが国内の米生産を縮小させないのなら、もっと輸入量を増やせという輸出国の主張が強まるにちがいない。最近の新聞報道(朝日4・3夕)によれば、アメリカは日本の米を貿易交渉の標的にしようとしている。
WTO(世界貿易機関)の農業交渉で、わが国はMAの削減を主張しているが、もしもMAが国内の米生産を縮小させていないのなら、この主張はその根拠を失ってしまうだろう。
もう一つの問題は、SBS(特別入札)による良品質米の輸入問題である。政府はSBSで輸入したよりも大量の米を海外援助用として処理しているから、国内の米市場に影響していない、と言っている。
がしかし、SBS米は新米である。これに対して援助米は古米である。新米市場ではちょうどSBSで輸入した分だけ確実に過剰になっていて、米価を圧迫している。つまり、SBSは国内市場を圧迫しているのである。
◆事実に基づく共通認識を
このように歴代の政府は、加工米は米ではない、という奇妙な「神学」にもとづいて、MAによる減反の強化はしていない、と言い続けてきた。以前、与党の一部で、MA米が国内生産へ及ぼす影響を認めたらどうか、という意見があったが、かき消されてしまった。
しかし、今度の研究会では、一時、MAの影響を一部ではあるが、しかも不十分ではあるが認めようとした。これは、まさに歴史的な転換への第一歩と言えるもので、歓迎すべきものである。
研究会は「神学論争はしない」というのだから、「加工米は米ではない」などという奇怪な呪文を唱えるのではなく、また、心理的な影響しかないとか、全く不十分な「論証」に基づいて、米価に影響ないなどというのではなく、「加工米も米だ」という透明な事実に基づいて、MAの影響を全面的に認めるべきである。
◆減反の大義名分を回復せよ
本稿の主張は、MAの影響を全面的に認めた上で、MAの廃止を目指した量的な削減である。もしも、それが困難というのなら、次善の策としてMAの無害化、つまりMA米を飼料米と海外援助米で処理することである。そうすれば、国内生産を圧迫することはない。
このようなMAの無害化にはカネがかかるという問題がある。しかし、今の米政策の根幹における腐敗部分を正常化して、減反の大義名分を回復できるのだから、予算を増額してでもMAの無害化を計るべきだろう。
もしも、それが困難というのなら、農水省の各局の「局益」を超えて、つまり各局間の予算配分を変更して、MAの無害化による農業再建、食料自給率の向上という国益を追求すべきだろう。それには、行政に任せるのではなく、政治主導による真の農政改革、米政策の再建を断行すべきである。そうしてMAのクビキからの解放を計るべきである。