研究会は、昨年秋に政府が示した生産調整の手法を数量管理(ポジ配分)に移行する方針を受けて、その具体的なあり方を検討するために設置された。しかし、研究会は生産調整の手法に限らず、水田農業政策全般に関する「総合的なパッケージづくり」をも検討課題に掲げている。
こうした抜本的な議論を進めるために研究会が重視しているのが、米政策や水田農業の現状について委員がまず共通認識を持つことだ。認識が食い違ったままでは新たな政策はまとまらず、また、かりにまとまったとしても改革にはつながらないという問題意識が伺える。
その典型となったのが、ミニマム・アクセス(MA)米の評価。ウルグアイ・ラウンド合意でMA米の受け入れをわが国は認めたが、政府は平成5年、「ミニマム・アクセス導入に伴う転作の強化は行わない」と閣議了解した。
しかし、生産者サイドには、MA米が国産米の生産、需給、価格に影響しないはずはないという気持ちが根強い。本紙は、年に数回、全国のJAを対象に米政策に関するアンケートを実施しているが、JA担当者からはMA米の米価への影響や、さらに「輸入しながらなぜ減反しなければならないか。現場では生産者を説得できない」といった声がほぼ毎回寄せられている。
研究会でもこの点が初回から課題にされた。これについて最初に農水省が示した資料では、MA米は、加工用への供給と海外援助のための備蓄、主食用に供給した場合は同量の政府米を主食用以外に振り向けることなどを説明、閣議了解どおりに運用されているとして、国産米の需給に影響はないと型どおりの認識を示した。
これに対して研究会では、農水省の認識を受け入れるのではなく、研究会として評価をすべきだとの方針を打ちだし議論を始めた。政府が政策立案に向けて立ち上げる各種の研究会などについては「最初に役所の問題意識をズバッと提示して議論の流れをつくる」との声がしばしば聞かれるが、同研究会ではそうした流れに歯止めをかけようという姿勢が見られた。
◆価格への影響は見い出せず
その後の議論では、生産者からは「生産調整に影響していないはずがない」、「価格の安いMA米の存在を理由に国産米の引き下げを求められる」との実態が報告された。
しかし、評価を確定する作業は簡単ではなかった。生産者からの指摘について研究会ではデータに基づいて客観的に評価する方針をとり、食糧庁が国産米とMA米の価格、加工用米の需給についてなど実態を示したが、数字上では影響が見いだせなかったからだ。
たとえば、加工用米(米菓等用砕精米)販売価格は、平成5年1万1064円(60kg)、6年1万3200円、MA米輸入が開始された7年では1万284円となっている。その後も、ほぼ1万円前後で推移していることが示されている。
また、主食用に供給され年間10万トンが落札されているSBS(売買同時入札)米の価格は、13年で1kg262円(米国産短粒種、精米)、国産米(今年2月までの自主米平均価格)は同299円となっている。
こうしたことから、研究会はMA米について国産米への価格面での影響はないとの評価を確定。ただし、MA米が存在する以上、「心理的な影響」はあるとしている。
また、今後もMA米が輸入されることから、「丸米で供給される仕向け先の流通、製造段階のチェック」など、国産米の生産、流通に影響が出ないよう「慎重の上にも慎重を期した運用が求められる」とした。同時に最終段階で加わったのが「ミニマム・アクセス米の輸入を行う以上、影響がないはずがないという農家の素直を気持ち」をふまえて、データ検証結果とのギャップを埋める努力やMA米の削減を求めているWTO農業交渉での「日本提案」実現に力を入れるべきだと意見をまとめた。
政府はこれまでMA米の国産米に対する影響を認めてこなかった。それを研究会の独自の評価が覆すことなるのではとの期待はとくに生産者にあっただろう。研究会としての評価は確定したが今後の現地検討会などでは異論も出そうだ。
ただ、WTO交渉で公正・公平な貿易ルールを確立するなかでMA米の削減をめざすとの意見では一致しており、米の輸入にともなうさまざまな実態を無視しては、新たな政策は確立できないという認識を示したといえる。
◆現行制度の限界を認める
MA米への評価確定など、いわば第1段階の作業を終えた研究会は、今月から「生産調整部会」と「流通部会」を立ち上げ第2段階の議論に入った。
生産調整部会でまず検討されるのが、「不公平感」の実態分析と公平性確保のための手法。22日に開かれた第2回会合では、高木勇樹部会長が議論を受けて、現行の仕組みはもう限界に来ているとの認識を示し、次回以降、現行制度の問題を洗い出す作業に取りかかる方針を示した。当初から生産調整の手法として数量配分の導入などが大きな検討課題となっていたが、それは、現在の生産調整制度の問題点について議論を深めた後の課題と整理された。
一方、「流通部会」は、6月までの議論で新たな米の流通制度についての骨子を示す方針。第1回の会合では、計画流通と計画外流通との区別をなくすべきとの意見も一部あったが、「最終的には計画流通制度のあり方について議論を絞る」(加倉井弘部会長)という。同部会には米卸、給食業者、量販店のバイヤーなども加わっており、米の流通の最前線の立場の意見も反映させていくとみられる。
◆構造問題など根本的な議論も
一方、研究会の立ち上げ当初から設置された「企画部会」は、各部会の議論の整合性を図るとともに、関連施策を含めた総合的な検討を行う。
新体制後の1回めとなった第7回会合(18日開催)では、改めて米と水田農業に関する情勢認識が検討されたが、委員の意見には、基本的な認識の違い、すなわち、今後の焦点になると思われる面も浮かび上がった。
たとえば、構造問題。農水省は、この会合でも米の生産構造は他の品目にくらべて大規模な主業農家の割合が著しく低いことを指摘する資料を提出した。
こうした資料を受けて、構造を変えるには、「市場重視という世界的な流れを前提にして政策を組み立てるべき」といった意見も出されたが、別の委員からは「経営の面からみれば必ずしも大規模がいいとはいえない。小さくても経営は立派という人もいる」といった指摘も出た。出席していた遠藤副大臣も地元の大規模米生産者が苦境にあることを紹介し、「5ヘクタール程度で他に園芸などを組み合わせているところのほうが生き残っていくのではないか」と話した。
また、兼業農家も含め米生産に小規模農家が多いのは、食管法時代の一律の価格政策だけに原因があるのではなく「地域ではさまざまな事情のもとで米づくりが行われてきている。そう簡単に構造が変わるとは思えない」との指摘も。そのうえで生産調整のあり方についても、単に経営安定面からのみ考えるのではなく、「農地をどれだけ必要とするのかをまず考えてその維持の観点からも検討すべき」との意見も出された。生産調整政策の位置づけそのものを問うべきとの考え方といえる。また、構造問題は経営所得安定対策の検討にも関わることだ。幅広い視点から議論を注視していく必要がありそうだ。