この結論について、多くの委員、ことに米生産の現場に密着した地方の委員から、多くの疑問が出されたが、それは議事録に残しただけで、研究会の全体としては、この結論を了承した。
四国4県の生産量合計をはるかに超え、中国6県の生産量合計にせまる大量の米を輸入しているのに、しかも、その多くを国内で販売しておきながら、国内生産に全く影響がないとする、この結論は了承できない、というのが現場の多くの委員の素直な気持ちではなかったろうか。
そのような気持ちになる理由をくわしく追求するのではなく、それを実態的な理由のない心理的なものに過ぎない、として退けてしまった。
◆数字合わせはやめよ
MAは国内生産に影響していない、という結論にいたる理由を研究会の資料でみると、そこには多くの疑問がある。
研究会はMAを受け入れた時の「米のMA導入に伴う転作の強化は行わない」とする閣議了解は「数字上担保されている」としている。しかし、歯切れよく「遵守されている」とはいっていない。数字をみるとつじつまは合っているが、閣議了解の趣旨は遵守していない、という本音を、つい正直に告白したものとも読める。
いまの生産調整は主食米だけで行っていて、MA米の主な販売先である加工米を除外している。だから、数字のつじつまが合うのは当然である。しかし、そもそも米の生産調整とは、加工米を含めた米全体の生産調整である。加工米を除いた主食米だけの数字合わせの研究が、現実的にどれほどの意味があるのだろうか。
加工米と主食米との間には、それほど厳然とした区別があるわけではない。実際、MAの導入以前には主食米が古米になると加工米になっていたし、加工米が低価格の主食米になることもある。だから、主食米だけで数字合わせをして、MA導入に伴う転作の強化はしなかった、といってみても、ほとんど意味はない。
◆MAは国産米を圧迫している
実際にはMA導入に伴って、MA米を加工用に向けるために、他用途利用米の制度を廃止し、加工米の国内生産を縮小してきた。米の国内生産量を全体として減らしてきたのである。これは転作の強化以外の何ものでもない。
また、減反面積はMA米とは無関係に、国産米だけの需給ギャップから算定しているからMAの影響はない、というのだがここにも疑問がある。
たしかに国産米の需給ギャップが大きくなったので、減反を強化してきたのだが、では、なぜギャップが大きくなったのか。ここにMAの影響があったのではないか。
MAが加工米の国内生産を圧迫したことは、すでに述べた。
主食米もSBS(特別入札)による輸入米によって、その分だけ供給過剰になった。また、加工用のMA米が主食用に転用されているのではないか、という疑念は拭われていない。
さらに、減反しているのにMA米を輸入し続けていることで、政治不信がつのり、隠し田などで生産量が増えたのに、政府は正確に把握できなかった。このことは研究会も認めている。
このように、MAは直接および間接に国産米の需給をゆるめ、国内生産を圧迫してきたのである。
◆不確かな論理
MA米を加工用に販売した分について、研究会は心理的影響しかないというのだが、この評価はMAの実態的な影響を、全面的に否定したものである。ここには大きな疑問がある。
この評価は誤りではないか。前に述べたように、MA米を加工用として販売するために、他用途利用米の制度を廃止し、国内生産を減らしたではないか。MAは加工米の制度を根底からゆるがし、ついに廃止にまで追い込んだ程の重大な影響を及ぼしたのである。これは「心理的側面からの影響は払拭し切れない」などという程度の軽い影響では全くない。
実態的な影響がないとした根拠は、MAが加工米の価格に及ぼした影響の検討結果からである。研究会の資料によれば、MAの導入以前と以後とを比較して、加工米の価格は下がっていない。このことを、たった一つの根拠にして、研究会は実態面での影響はなかった、と評価したのである。
しかし、加工米の価格が下がらなかったのは、加工米の国内生産量を減らしたからではないか。MAの影響をきちんと研究するのなら、他の条件は変えないで、つまり他用途利用米の制度はそのまま続けたと想定して、MAの導入以前と以後を比較すべきである。そうすれば、MA米を加工米にした分だけ供給過剰になり、価格を下げたという評価になることは明白だろう。
むしろ実際には、このようにMAを評価したからこそ他用途利用米の制度を廃止したのではなかったか。そうして加工米の国内生産量を減らしてきたのである。
生産現場に密着している委員からの、このような多くの疑問は、大多数の農業者の疑問でもあるし、多くの国民の疑問でもある。そして、これらの疑問が晴れないことが減反制度の根幹をゆるがしているし、米政策に対する不信の根源にもなっている。
◆WTOでMA米を減らせるのか
疑問はさらに続く。地方からの委員の多くは最後に、WTO(世界貿易機関)交渉でのMAの削減を強く要望した。委員たちは次のような疑念を持ったのだろう。
わが国はWTO交渉で、MA米の削減を主張しているが、何を根拠にしてそのような主張をするのだろうか。この研究会の結論のように、もしもMAが国内生産に影響しないというのなら、輸出国は、MA米の削減どころか、もっと多く輸入せよ、と要求するに違いない。
この要求をどのような根拠で拒否するのだろうか。根拠が薄弱のまま、結局、外圧に屈してMA米を増やしてしまうのではないか。
また国内からも、影響がないのなら、MA米をもっと増やせ、という声が出るだろう。このような国内外からの圧力に屈するとどうなるか。
いまはMA米のうち25万トン程度を加工用にしているが、加工米の需要は清酒用を除いても90万トンある。清酒用の加工米を含めれば130万トンを超える。さらに業務用を加えれば、莫大な量になる。これらの需要がしだいにMA米に代わるだろう。
実際に、牛肉のばあい、このように加工用から業務用へ、そして、さらに家庭用へという経過をたどって、輸入牛肉に国内市場を蹂躙されたのである。
米もそうなって、食料の国内自給率をさらに下げることを、大多数の国民は決して望んでいない。
◆MAの影響を素直に認めよ
研究会が米の生産調整を幅広く、かつ根本的に検討するというのなら、前稿で述べたような過去のいきさつにこだわらず、MAは国内生産に重大な影響があることを素直に認めるべきではないか。
そうして、わが国の国際的な主張である「多様な農業の共存」という哲学からみて、MAは容認できない、と評価すべきではないか。そうしないと、研究会の今後に続く重要課題の検討は混乱するばかりである。第一ボタンをかけ違ったままでは、あとで容易に修復できなくなるだろう。