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解説記事
70%近くのSSで収支を改善
――「JA-SS収支改善運動」の成果

 石油業界は、昭和62年からの第1次規制緩和、平成8年以降の特石法廃止や石油製品の輸入・輸出の自由化、セルフSSの解禁などを内容とする第2次規制緩和などによって、石油元売の集約・再編、販売マージン低下による販売戦略の見直しと流通・販売業者の選別・系列化などが進み、業界の体質は、従来の横並び体質から競争体質に変貌してきている。
 そうしたなか、国内最大の石油流通グループであるJA―SSは「JAチャンネル・ブランド事業体制の充実、強力なネットワークにより、組合員・ユーザーに信頼される」事業を展開するために、「JAエリア戦略」など競争力強化にむけた取り組みを展開してきたが、13年度からは「年間200SS以上の赤字解消」を実現し、17年度には黒字SS比率を70%にするために「JA―SS収支改善運動」を開始した。
 そこで、この「収支改善運動」を中心にJA―SSの最近の動向と、こうした活動を支援するために14年度からJA全農が(社)農協流通研究所と共催で開催している「JAグループ石油事業エリア戦略セミナー」について紹介する。このセミナーはJAの経営者・部課長を対象に今後も継続して実施されることになっている。

◆本格的な競争時代に突入した石油業界
JA―SS

 昭和60年(1985年)代から始まった石油元売の集約・再編は、最近、図1のように、新日本(旧日石三菱)・コスモ石油グループ、エクソン・モービルグループ、昭和シェル・ジャパンエナジー(JAMO)グループ、出光の4つのグループに収れんされ、本格的な競争時代に入った。
 各元売グループとも流通・販売業者の選別・系列化の動きを強化し、特石法廃止以前の1/2程度にまで減少した流通マージンの低下を背景に、販売戦略の見直しを進めてきている。特に、人件費などコスト低減を可能にするセルフSSは、この1年間で929も増加し、全国で1351店(14年3月末現在)となり、周辺事業者よりも価格を2〜3円安くし2倍売るなど、各地で価格競争を激化させている。
 また、大手商社系など異業種からの参入や元売ブランドに頼らないノンブランドの出現と拡大、コンビニや軽飲食店舗などを併設する複合店舗SSによる収益機会の拡大などによっても競争は激化してきている。
 そのため、全国のSSは、図2のようにこの5年間で約5700カ所が廃止され現在は約5万2000カ所となったが、その58%は赤字で、今後5年間で4万カ所程度に、将来的には現在の半分くらいにまで減少するのでは、と予測されている。

◆JA―SSの販売量・油外収益は業界の半分

 こうしたなかでJA―SSは、SS店舗数では業界全体の9%強のシェアをもつ最大の流通グループだが、揮発油販売シェアは業界全体の5%にとどまっている。
 その原因の1つとして、JA―SSの「戦略的な統廃合の遅れ」が指摘されている。図3のように平成8年をピークにJA―SS数は200カ所減少しているが、業界全体では8年から約10%減少しており、JA―SSは4%の減少にとどまっている。
 そして、揮発油の需要が、12年度は8年度に比べて4700kl増加し5万7800klあり、SS数が減少したこともあって業界の1SSあたりの月間揮発油販売量は、8年の約20%増・93klになっているのに対して、JA‐SSは年々増加はしているが、まだ業界の月間販売量の55%にとどまっている(図2、図3参照)。
 さらに、油外売上高が業界平均の48%と低い水準にあることなどから、JA―SSの黒字比率は45.5%と半数以上が赤字となっている。
 こうした課題を克服し、競争力を強化するために、13年度から「JA―SS収支改善運動」に取り組んでいる。その内容は、
1)個別SSの収支改善については、年間200SS以上、17年度までの5年間の累計で1000SS以上の赤字解消を実現し、黒字SS比率70%をめざす
2)JAごとの石油事業の競争力を強化するため、対象JAを選定して、SSの再配置・統廃合、基幹SSの整備・育成とSS運営方法のタイプ化、灯油配送の効率化などを含む「JA石油事業エリア戦略」を策定・提案し、JA石油事業の改善に取り組む――というものだ。

◆1SSあたり年間400万円も収支改善

 「収支改善運動」初年度の13年は、全国で285SSを収支改善SSに選定して取り組み、その約66%にあたる187SSで収支が改善され、その内138SSが黒字となっている(表1)。対象SS合計で10億9400万円収支が改善されたが、これは1SSあたり平均にすると年間400万円強収支が改善されたことになる。
 JA全農では、13年度に実施した全SSについて「平成13年度JA―SS収支改善活動総括(カルテ)」を作成し、成功・優良事例データを蓄積し、共有化をはかっていく予定にしているが、その一例として、「JAグループ石油事業エリア戦略セミナー」福岡会場でのJAおきなわ・しんかいSS(旧JA島尻東)の事例を紹介する。

◆改善目標を大きく上回り黒字化目前――JAおきなわ・しんかいSS

 12年度の同SSの純損益は▲893万3000円だったが、収支改善運動に取り組んだ13年度は、揮発油が378kl増の1638kl、油外が198万円増の980万円など実績を伸ばし、純損益は▲184万円となり、改善目標額500万円を上回る709万円の収支改善を実現した。14年1月以降は毎月単月黒字を実現しており、600万円収支改善し420万円の黒字を目標にしている。
 収支改善のポイントは、まず、所長がやる気になって取り組んだことがあげられるが、所長は▽明るく、率先垂範して行動する▽部下へ職務委譲することで、育成指導する▽個人別目標管理をして全員にSSに貢献していることを自覚させる▽上層部への報告・連絡・相談をきめ細かくする、ことを徹底した。
 そして、燃料油販売は市況激戦区なので、▽市況追随で売り負けない▽顔商品を確立してお客を他店に逃がさない▽お客を待たせないことを全員で意識した接客を徹底。
 油外収益増収対策として、▽洗車を切札に、洗車収益アップをベースにした増収体制づくりに着手▽キャンペーンの実施▽報奨制度の導入、を実施した。
 さらに、経済連・全農との検討会を毎月実施するなど、収支改善検討会を徹底したことがあげられる。

◆33SSから基幹8SSに着々とエリア戦略を実現――JA菊池(熊本)

 「JAエリア戦略」は、JAの商圏分析を行い、重複・空白商圏の解消を含むSSの適正配置、効率的なネットワーク配置、立地条件や商圏ニーズにあわせたSS運営のタイプ化をはかり、JAの柱となる配送業務についても配送エリアや配送方式を点検し、効率化をはかる戦略をJAに提案するものだ。
 13年度は、46JAを選定して取り組み、その内、35JAで改善提案会を実施し、SSの再配置(統廃合)や灯油配送の合理化に取り組んでいるが、14年3月末で9SSが廃止された。具体的事例として、前記セミナーにけるJA菊池(熊本)の報告を紹介する。
 JA菊池は、熊本県北部に位置する広域合併JAで、平成元年に1市6町1村を管内として誕生したが、合併当時、固定式・PS合わせて33SSがあり、1SSあたり月間販売量は19klと、「小規模SSの集まり」で「非効率的な運営体制」にあった。
 当初から担当課長・係長はJA石油事業のあり方について問題意識をもち、JA経営者もSS事業強化の必要性を強く感じていた。
 3年2月に、JA熊本経済連とJA全農が九州で初めての広域合併JA石油事業の抜本的改善提案を行い、SSの統廃合、施設近代化によるSS競争力強化を促す。JAはこの提案を真摯に受け止め、5年度から段階的に取り組んでいくことにした。
 その結果、13年度には▽SSの統廃合によってSS数は16に▽JA月間揮発油取扱量924.3kl(3年は609.3kl)▽1SSあたり月間揮発油販売量57.7kl(同19kl)に伸展してきている。最終的には管内8地区の基幹SSに集約する予定だ。
 当初は、組合員宅から最寄SSまでが遠くなることなどから反対もあったが、分散していた人的・物的資源を基幹SSに集中させ、サービス・技術力の向上に努めたことで、組合員との信頼を深めることができた。
 14年度で基幹SSの配置は完了するが、営農用灯油やA重油をSSから切り離し、第3セクター方式の配送センターを設けることで、SSはサービスに全力で取り組める体制を確立することにしている。

◆生き残るのか、撤退するのか

 JA全農では、14年度についても「収支改善運動」として200SS以上を選定し、17年度黒字比率70%以上をめざして引き続き取り組んでいく。また、13年度に収支改善に取り組んだSSも、単年度で取り組みを終えることなく、17年度まで引き続き収支改善運動を継続して行くことにしている。
 「JAエリア戦略」についても56JAを対象にして改善提案を実施していく予定だ。
 SS業界を取り巻く環境は、冒頭にもふれたように「規制緩和の進行」と「業界の生き残り競争の激化」に加えて、「ユーザーニーズの多様化」など大きく変化してきている。そのためこれからは、▽店頭給油を主体に量販を指向するのか、▽燃料油以外の分野で収益力をアップするのか、▽多角化・複合化で収益基盤を拡大するのか、それとも▽撤退するのか、の選択を迫られることになる。
 JA―SSもその例外ではなく、この厳しい状況下で生き残るためには、組合員・利用者の立場に立ったサービスを提供するとともに、ローコスト運営や油外収益の確保など競争力を強化していかなければならない。そのためには、この「収支改善運動」や「JAエリア戦略」に石油事業を展開する全JA、JA―SSが取り組んでいく必要があるだろう。真摯に取り組めば、必ず成果があがることを13年度の取り組みは実証しているといえる。

◆収支改善を支援するセミナーを開催

 「JAグループ石油事業エリア戦略セミナー」(農協流通研究所主催)は、JA石油事業の販売戦略と経営改善・赤字解消対策を、JAの経営者・部課長クラスに理解してもらうことを主眼に、今年初めて実施された(写真)。
 実施会場と参加者数は
東京 4月25日 53名
仙台 5月10日 81名
大阪 5月17日 37名
広島 5月30〜31日 30名
福岡 6月13〜14日 49名
名古屋 6月28日 28名
6会場合計参加者278名となっている。


 セミナーの内容は、福岡の場合は以下の内容となっている。
☆基調報告「JAグループ石油事業の今後の展開について」日永田隆伸・JA全農自動車燃料部SS運営課長
☆講演「農協改革とその実態」濱岡孝雄・農水省経営局協同組織課課長補佐
☆事例報告「実践SSの取り組み状況について」斉藤幸博・全農燃料テクノ(株)SS運営企画部長
☆事例紹介「JA菊池におけるエリア戦略(SS集約統廃合)の取り組み」小川和臣・JA菊池農機車両部長
☆事例紹介「JAおきなわのSS収支改善の取り組み」玉城富緒・JAおきなわ所長
☆講演「真の価格競争力のある店づくり」馬場一浩・(有)アイビー石油代表取締役


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