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解説記事
地域実態ふまえたあるべき姿をどう描くか
米政策の改革に関するJAグループの政策提言について

冨士重夫 JA全中食料農業対策部長

 米政策の改革に向けてこの秋、検討が本格化する。政府は農業団体の議論などもふまえ11月には米政策改革の方向を決める方針だ。JAグループは今後、組織協議を行い11月上旬には政策提言をまとめる予定にしており、そのため9月5日に米政策に関する基本的な考え方を決めた。ここではJA全中の冨士重夫食料農業対策部長に「基本的考え方」と想定される論点などについて解説してもらった。

与党・政府・JAグループの今後の検討日程

 6月下旬に出された政府研究会の中間取りまとめをめぐって各県・各地域で様々な把え方や受け取り方がなされている。
 それは本来あるべき姿に関し、「様々な需要に応じ、安定的供給が行われ得るような消費者重視・市場重視の姿を目指すべきである。また、そのような姿の下では効率的かつ安定的な経営体が市場を通して需要を感じとり、売れる米づくりを行っていくことが基本である。」という自由な生産をイメージするような抽象的な表現と、そのあるべき姿を実現するためのステップや、必要とされる条件整備事項の具体的内容のほとんどが、検討課題とされたことによるものではないかと考える。
 こうした検討課題・宿題に関する具体的な政策内容や仕組みについて、この秋に政府やJAグループから提出がなされ、議論し、検討をすすめ、ひとつの方向に決着させる予定となっている。
 宿題の主な項目は(1)行政・団体の役割分担 (2)生産調整手法・配分 (3)生産調整実施者へのメリット対策の具体的内容 (4)過剰米の具体的処理方法 (5)新たな流通制度やJAグループ米事業改革の内容 (6)新たな経営所得安定対策などである。
 与党自民党は農業基本政策小委員会で、すでに7月から検討をすすめているが、今後9月中旬の議論、10月上旬の現地検討、10月中旬以降、検討事項の整備を行い、11月に精力的な検討を重ね、11月下旬には米政策改革大綱としてとりまとめるスケジュールを予定しており、政府研究会も10月中旬以降、再開する予定となっている。
 こうした政府・与党の検討日程をふまえ、JAグループは、9月5日に米政策改革に関する基本的考え方を整理し、宿題等に関する具体的な政策提言の内容については、10月上旬までに水田農業対策中央本部委員会で原案の検討を重ね、組織の意見を聞く討議案としてまとめる予定としている。そして10月末までの組織討議の意見集約をふまえ11月上旬にはJAグループとしての具体的な政策提言としてとりまとめて行くこととしている。
 武部農水大臣も経済財政諮問会議で、「この秋には与党、生産者団体など様々な場で議論がなされるが、最終的には重大な政治決断が必要であり、農水大臣が各方面の議論を見ながら米政策の大転換の具体的方向を決断してすすめたい」旨、説明しており、まさにこの秋11月は米政策改革の重大な時期となるものと思われる。

米政策改革に関するJAグループの基本的考え方

 JAグループも生産調整に関する政府研究会の検討とあわせ、今年始めから独自の研究会を設置するなど、検討をすすめ7月上旬には基本的な対応方向や、具体的政策の骨格をとりまとめ組織討議を8月下旬まで実施してきた。
 具体的な政策の骨格については各ブロックや各県で様々な意見があり、政府・与党の検討日程をふまえながら、10月上旬までさらに具体的内容を詰め、集約・整理して行くこととし、9月5日の全中理事会では、対応方向として、次のような点を主な内容とする米政策改革に関する基本的考え方を整理し決定した。

◆米政策の改革に向けた基本的考え方

 (1)水田農業のあるべき姿は、食料自給率目標の達成や農業の多面的機能の発揮をはかるため、地域実態をふまえ、地域で策定することを基本にすすめること。(2)集落営農など地域の担い手を水田農業の将来を支える担い手として明確化する「新たな担い手制度」を確立すること、そしてこの担い手を核として位置づけ農地集積の対策や、経営安定対策を措置し、段階的な取り組みとしてすすめること。(3)基本計画の策定のもとでの目標設定・調整・確認など適切な計画生産の取り組み対策や需給変動による過剰米への対応、適正備蓄水準の実現、十分な予算の確保など、政府の役割と責任を明確にすること。MA米は国内需給に影響を生じないよう厳格に運営するとともにWTO農業交渉において、MA米の削減を実現すること。(4)JAグループ自ら、水田農業の構造改革への取り組みを強化するとともに生産コスト削減のため、生産資材等の価格低減に取り組む。JAグループ米事業は安全・安心な米の生産と販売、消費拡大に徹底して取り組み、生産段階への的確な情報提供と生産指導の強化をすすめる事業改革に取り組む。

◆生産者が主体的に取り組むことができる生産調整の仕組み

 (1)需要に応じた生産と過剰米対策など需給調整の取り組みが生産段階で明確となるよう生産面積による配分・確認等と地域における過剰米処理を組み込んだ生産調整の仕組みに改革すること。(2)過剰米対策の公平性確保をはかる観点から、法制度の裏付けを含めた生産者全員が負担する仕組みを確立すること。そしてその過剰米を加工用等の実需者に安定的に供給するため「加工用等備蓄制度」を創設すること。

◆改革を促進するためのメリット対策

 (1)計画生産のもとで、地域合意に基づく地域の特性を活かした取り組みに対する支援対策を確立すること。(2)需給変動や価格低下により計画生産に取り組んだ担い手の経営に影響を生じた場合に対する新たな経営所得安定対策を確立すること。(3)米政策の改革の内容をふまえ、必要な需給調整等の取り組みに対するメリット対策を確立すること。

◆安全・安心な米の安定供給を担保する対策

 (1)計画生産と過剰米対策の仕組みを前提に、計画外米との競争力を強化するため、計画流通制度の規制緩和や、販売調整対策を確立すること。(2)安全・安心な米の供給を担保するため、検査制度や表示制度の見直し・強化や凶作時等の必要な流通規制を措置すること。

◆米消費拡大対策

 日本型食生活の普及を柱とした栄養・健康面の訴求の取り組み、新規需要の開発・普及、稲作の果たす多面的機能の理解をはかる取り組みなど米の消費拡大対策を強化すること。

具体策の提案で想定される論点

 これから具体的な改革や制度的枠組み、仕組みの内容を検討していくにあたっては、入口論である、将来におけるあるべき姿のより具体的な姿、特に水田農業の構造改革の姿をどう描くか、そしてその実現のためのプロセスや条件整備期間、条件整備としての生産調整のやり方、過剰米対策、政府と生産者・生産者団体の役割分担、メリット対策の内容、担い手制度を含むその育成・確保対策との関係などが検討をすすめるうえで、大きな論点となるものと考えられる。

◆将来のあるべき姿と条件整備期間

 将来のあるべき姿を播いて、その実現へ向かって行くわけであるが、その姿は食料・農業・農村基本法の基本計画策定の時に打ち出した平成22年を目標とした構造展望なのか、それとも、もう少し現実をふまえた世界なのか。あるべき姿へ向かうプロセスの過程をどう考え、その条件整備期間をどのくらいの年数を考えることとするのか、目標年次を明示することが必要であると政府研究会の中間とりまとめで示しており、入口論としてこの辺の問題が論点になると考えられる。

◆政府の役割と責任の明確化

 現行食糧法では、政府の役割と責任として全体需給計画である基本計画の策定、生産調整の配分などがあるが、政府においては需給調整は生産者自ら行うものであり、政府の支援は需給調整実施の必須条件ではないという思いが現実にあると思われ、将来のあるべき姿と、それへ向けた条件整備期間における政府の役割と責任をどのように果して行くかの議論が、具体策の検討の中でも論点になるものと考えられる。

◆生産調整のあり方

 生産調整実施者とやらない者との位置づけを全体需給を確保する仕組みとの関係でどう整理するのか。生産調整のやり方は、数量、豊作分の扱い、生産面積など、配分、確認などの実務・実態面をふまえてどう考えるか。生産調整実施者の達成要件は何なのかなど、過剰米処理対策や、実施者へのメリット対策の内容、担い手の育成・確保対策との関係を含めて論点になるものと考えられる。

◆過剰米処理対策

 過剰米対策については、政府研究会の中間とりまとめでは、自己責任を基本としており、この過剰米対策は大きな論点となる。政府は余り米に対し助成することや法律などで全員から強制的に資金を徴収することは困難であると考えており、公平性を確保できる制度的仕組みを強く求めるJAグループとの距離は遠く、生産調整のやり方、全体需給の確保の仕組みや、メリット対策、流通制度の仕組みとの関係をどう考えるのかも含めて大きな論点になるものと考えられる。

◆メリット対策

 地域の特性を活かした取り組みに対する助成については、その事業内容のイメージはあまりズレていないように思えるが、対象者件として我々は、生産調整実施者、実施者集団とし、そのメリット対策と考えており、担い手対策としてのメリットである経営所得安定対策の対象者の考え方と同様、この点が違っており、条件整備期間における政策体系、助成体系をどう考えるのか、と言った観点からも論点になるものと考えられる。また、担い手育成・確保対策としての新たな経営所得安定対策の具体的な仕組みについても、将来の姿とも併せ、保険方式や標準モデル方式など助成の方法としてどのような形が良いのか、その対象者は集落営農も含め、どのような基準を設定するかなども含めて論点になるものと考えられる。こうした中で稲作経営安定対策は、政府研究会では廃止の方向で打ち出されているが、全体のメリット対策の内容からどうするのか、生産調整のやり方や全体需給調整の確保などの観点からどうするのか論点になるものと考えられる。

◆流通制度、JAグループ米事業

 流通は、生産調整を含む生産段階の政策や制度的な仕組みがどうなるかが大きな問題であるが、基本的には計画外、計画流通米の競争条件を同等とするような規制緩和が必要であるが、そうした流通の姿の中で、調整保管に変わる、円滑な販売調整対策をどう考え、どう位置づけるのか、具体的なシステムをどうするのかが問われてくる。こうした中で、安全・安心な米の流通を担保する仕組みとして現行の検査制度、JAS法との表示の関係、そして産地を特定するトレーサビリティーの仕組みとの関係をどうするのか、こうした一連の仕組みは義務なのか任意とするかも含め論点になるものと考えられる。


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